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逆風でテンションだだ下がり、見合わせ決断…五輪チケット保持者が抱える葛藤

東京五輪の開幕予定日まで1カ月となりましたが、観戦チケットを持っている人たちは、新型コロナウイルス感染リスクへの恐怖も抱えています。複雑な思いを抱える彼らの声とは。

東京五輪のテスト大会(2021年5月、AFP=時事)
東京五輪のテスト大会(2021年5月、AFP=時事)

 東京五輪の開幕予定日まであと1カ月となりました。観客数の上限が「会場の定員50%以内で最大1万人」と正式に決まりましたが、開催に伴う人流増加で拡大する新型コロナウイルス感染リスクへの対応には、多くの国民が納得するような具体策は示されていません。こうしたリスクへの恐怖と「せっかくだから観戦してみたい」という気持ちの葛藤を抱えているのが、五輪のチケットを持っている人たちです。複雑な思いを抱える彼らの声を紹介します。

観戦見合わせに後悔なし

 柔道のチケットが当選したAさん(31歳、男性)は観戦を見合わせることにしました。

「一つは新型コロナの感染リスクです。私が観戦する予定の柔道は屋内競技なので、感染リスクが高い気がして、とても不安だからです。もう一つ、こちらの理由の方が大きいのですが、単純に東京五輪へのテンションが下がってしまったからです。

報道などを見ていると、大会の準備はずっとグダグダでしたし、世間の声も開催反対のトーンが強いです。これほど世界的に大きなイベントであれば、本来ならばワクワクするはずなのに、これほどテンションを下げられてしまうのも珍しいです。ここまで逆風が吹いている中で、意欲的に観戦に臨める人はかなりまれなのではないかと思います」(Aさん)

 東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まった後、昨年11月から12月にかけて、チケットの払い戻しができました。このとき、Aさんはどう考えていたのでしょうか。

「当時は(払い戻しを)考えませんでした。あの頃から、大会の雲行きは怪しかったのですが、『そうは言っても、最終的にはしっかりとした形で開催されるだろう』『新型コロナも、その頃までには何とかなっているだろう』と楽観視していました。幸運にも当選したチケットですから、手放すことを自ら決断しづらかったというのもあります」

 Aさんはその決断を後悔していないそうです。

「もし払い戻しをしていたら、私の性格上、きっと、『あのとき、払い戻しをしていなければ…』と“たられば”を考えていたと思うのです。しかし、チケットが手元にあったからこそ、“行く”か“行かない”かの選択肢から、“行かない”を主体的に選べたのですっきりしています」

ギリギリで「行く」と決めるかも

 バレーボールのチケットを持つ、北陸地方在住のBさん(34歳、女性)はまだ、行くかどうか決めかねています。

「もちろん、観戦に行きたいに決まっていますが、新型コロナの感染リスクが怖いです。バレーボールの会場は屋内なので、いくら、運営側が『感染拡大防止策をしている』と言っても、その対策に効果があるのか実際は分かりません。それにコロナ禍になってから、首都圏に行くのも初めてなので、なおさら抵抗があります」(Bさん)

 Bさんが迷ってしまう理由はもう一つあるようです。

「勤め先で新型コロナのワクチン接種が決まったのですが、時期が未定で『7月で調整しているけど実現は微妙』といううわさを耳にしました。『観戦前にワクチン接種が済めば、怖がることなく、堂々と観戦に行ける』という望みがあるので、『やっぱり行かない!』とはまだ決められません。何となく迷いながら、ずるずると日が過ぎています」

 そんなBさんですが「結局は行くと思う」と話します。

「同居している家族に相談したのですが、『一生の思い出になるし、行ってくればいい。ただし、感染防止対策はしっかりして』と言ってもらえました。迷っていることを、一緒に行く予定の友人には伝えていますが、彼女はすでに行く気満々です。彼女だけで行かせるのも悪いし、一緒なら心強い気がするし、何より楽しいだろうと思うので、恐らく、私はワクチン接種の有無に関係なく、ギリギリで『行く』と決めるような気がします」

 観戦を楽しみにしている人を尻込みさせるくらい、やはり、新型コロナの感染リスクは脅威に感じられます。

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武藤弘樹(むとう・こうき)

フリーライター

早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。1児の父で、溺愛しすぎている飼い猫とは、ほぼ共依存の関係にあるが本来は犬派。趣味はゲームと人間観察。

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