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「400円」より「399円」が売れる? “中途半端”な価格設定、効果や起源とは

ファミリーレストランでは「399円」という中途半端な価格をよく見ますが、「400円」にするよりも売り上げがよいからだそうです。なぜでしょうか。

中途半端の方が売れる?
中途半端の方が売れる?

 ファミリーレストランのメニューを見ていると「399円」など中途半端な価格がよく、目に入ります。「400円にすればよいのにどうして?」と思いますが、消費者心理として、たとえ1円しか価格に差がなくても「399円」にした方がよく注文されるなど、売り上げが異なってくるようです。なぜ、ごくわずかな金額しか違わないのに、売り上げが異なってくるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

「端数価格」「大台割れ価格」

Q.ファミリーレストランでは、中途半端な価格のメニューが多いです。こうした価格設定の手法を何と呼び、どのような効果があるのでしょうか。

大庭さん「スーパーマーケットやファミリーレストランなどで見られる中途半端な価格設定のことを一般的に『端数価格』、あるいは『大台割れ価格』と呼びます。このような価格設定は、日常的に手頃な価格で購入される商品に対して行われています。スーパーマーケットに陳列されている食料品や日用品、ファミリーレストランの食事メニューなどは消費される頻度が高く、購入に関して、ブランドに左右される商品でもないため、値段が安いと思わせることで消費者の購買意欲を刺激しています」

Q.どのような心理で、ごくわずかな金額の違いしかないのに価格の安い方を選んでしまうのでしょうか。

大庭さん「例えば、同じ陳列棚に類似の『商品A』『商品B』が陳列されており、商品Aには1010円の値札が、商品Bには980円の値札が付いていたとします。このとき、商品Bの値札を見た客は『1000円しないのだ』と感じてしまいます。

つまり、客の心理状態は『(商品Aの値札を見て)1000円以上してもおかしくはない商品なのだろうが、(商品Bの値札を見て)それが1000円未満で売られている、1000円でお釣りがくる』となります。さらに、価格に端数があることで『店が精いっぱい安くしてくれているのだろう』と思わせる心理状態も生み出します。これらによって、客が“お買い得感”を覚え、30円というごくわずかな金額の違いでしかないのに、価格の安い商品Bに手を伸ばしてしまうのです」

Q.人が“お買い得感”を覚えるメカニズムは何ですか。

大庭さん「人には『知覚価値』というものが備わっています。これは『この商品だと、値段はこれくらいからこれくらいの範囲内だろう』という判断基準のことです。コンビニのアイスクリームであれば100円~300円、大衆食堂のランチであれば600円~1000円というような感覚です。その下限値を下回る価格を見たとき、人は“お買い得感”を覚えるのです。

売れ行きの違いは商品の種類や一般的な価格に対する認識の度合いによって異なりますが、例えば、スーパーマーケットで通常400円台でそれなりの数量が売られている商品を399円で販売すれば、売れ行きが向上するのは間違いないことでしょう。2010年代、吉野家が300円台で提供していた『牛丼並』の価格を200円台にしたところ、売れ行きが格段に向上したのがよい例です」

Q.日本で端数価格を設定するようになったのは、どのような業種で、いつごろから行われ始めたのですか。

大庭さん「日本国内の売り場で、いつごろから、端数価格が使われ始めたのかは定かではありません。しかし、ソニー(当時は東京通信工業)の初代社長である前田多門氏が、1946年の社長就任後にアメリカを視察したとき、小売店で端数価格が使われていることを知り、帰国後に日本で販売するソニー製品に端数価格を使うようになったという記録が存在します。

その当時の端数価格は末尾が98円、980円、9800円のような『98(キュッパ)』と呼ばれる形が多く、それが今の日本における端数価格のベースになっているという説もあります。『8』という数字は末広がりを連想させ、計画性のない購買を後押しさせる心理的な作用があるともいわれています」

Q.宝石や乗用車など高級品の価格では、端数価格を見ることがありません。なぜでしょうか。

大庭さん「自分自身が愛用している嗜好(しこう)品や宝石、乗用車などのぜいたく品に関しては端数価格の効果は期待できません。人はぜいたく品を“お買い得感”に左右されて購入を決めるのではなく、『自分の求める価値観やステータスを満たしているか』で決めるからです。これらの商品は99万9998円というような端数価格よりも、100万円のような切りがよい価格の方が買われやすい傾向にあります。特別な買い物だという意識が働くことで、切りがよい価格を魅力的に感じることが理由だといわれています」

Q.中途半端な価格の商品が増えることは、消費者にとってはメリットだけがあるのでしょうか。あるいはデメリットもあるのでしょうか。

大庭さん「端数価格が増えれば、消費者には確実にメリットが発生します。それは店側が安易に値上げをしにくくなることと、ライバル店との間で価格競争が生まれる可能性が生じることです。店側は客に安さを感じてもらう目的で端数価格を設定しているため、価格帯の変更や、一定の大台に乗ることを伴う価格変更(値上げ)をしにくくなります。それをしてしまうと確実に売れ行きが落ちるからです。

加えて、ライバル店が、自店が『398円』で販売している商品を『388円』で販売し始めた場合、客の流出を防ぐために、388円よりも安い価格で販売することを考えざるを得なくなります。そのようなことが起こると、消費者は安定的に安く商品を購入することができるようになります。

その半面、デメリットも想定できます。消費者が安さに惑わされてしまい、品質に対する判断力が鈍くなる可能性があることです。店側が安く売り続けるために分量を減らす、サイズを小さくする、産地やメーカーを変更するなど、品質の変更に関わる対応を行うケースもあり得ます」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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