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「泣く」ことでスッキリ、メカニズムは? 「泣く」こととの付き合い方、医師が解説

「思い切り泣いたら、気持ちがスッキリした」という経験を多くの人が持っているようです。「泣く」ことが精神面に与える影響や効果について、専門家に聞きました。

泣くことは精神にどう影響?
泣くことは精神にどう影響?

「思い切り泣いたら、気持ちがスッキリした」。こうした経験がある人は多いのではないでしょうか。「泣く」という行為はネガティブに捉えられることも少なくありませんが、職場や家庭でつらいことがあったときやストレスを感じたとき、気持ちを抑え込んでやり過ごそうとするよりも、感情のままに泣くことでストレスが和らぎ、気分が落ち着くことは実際にあるものです。一時期は、泣ける映画やドラマを見て、能動的に涙を流そうとする「涙活(るいかつ)」も話題になりました。

「泣くとスッキリする」現象について、ネット上では「ストレスがたまると、我慢せずに泣くようにしている」「どんなストレス解消法よりも効果を感じる」「どうして、泣くと気持ちが落ち着くんだろう」「たくさん泣くことで、逆に何か問題はないのかな」などさまざまな声が上がっています。「泣く」ことが精神面に与える影響や効果について、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

抑圧されていた感情が解放

Q.そもそも、ストレスとは何ですか。

田中さん「ストレスとは、心身に影響を及ぼす『ストレッサー』のことです。例えば、寒さや暑さといった自然現象、睡眠不足、慢性疲労などがストレッサーとなり、心身にさまざまなストレス反応を引き起こすと考えられています。人がストレスを感じているときには、ストレスホルモンが分泌され、自律神経のうちの交感神経系が興奮状態になります。このとき、精神的に『つらい』『しんどい』『不安』などの感情が出てくることがあるのです」

Q.「つらい」「悲しい」と感じたり、ストレスを感じたりしたときに「泣く(涙を流す)」ことで気持ちがスッキリすることがあるのは、なぜでしょうか。

田中さん「『つらい』『悲しい』と感じたり、ひどいストレスを感じたりしたときに涙が流れ、泣いてしまうのは自然なことです。

体の中でストレス反応が作動すると自律神経が一時的に乱れ、交感神経系が優位に興奮して涙が出るのですが、時間経過とともにシーソーのように自律神経がバランスを取り、涙が止まる頃には副交感神経系が優位になって、自律神経は再び安定します。こうした体の変化と同時に、泣くことによって、抑圧されていた『つらさ』『悲しみ』が解放されて、気持ちがスッキリしてくる…と考えると分かりやすいと思います」

Q.反対に、つらい気持ちを抑え込んで泣くことを我慢した場合、精神面に何らかの影響は考えられますか。

田中さん「日本では、涙をこらえること、他人に涙を見せないことが美徳であるとされてきました。しかし、つらい気持ちを出さずに抑圧するのはいいことではありません。一般的に『ストレスをため込むといつか爆発する』と言われるように、無理に抑圧した気持ちはいずれ、心身の不調となって出てきます。人によっては、うつ病や適応障害、パニック障害といった精神障害の発症リスクになるかもしれません。従って、状況や場所について多少配慮しつつ、泣きたいときに泣くのが一番でしょう」

Q.「つらい」「悲しい」と感じるものの、涙が出るほどではない状態のときもあると思います。そうした際も、いわゆる“涙活”をするなどして、能動的に泣いた方がよいのでしょうか。それとも、無理やり泣かなくてもよいのでしょうか。

田中さん「泣くほどまでではないときに涙活をして、能動的に泣くのも、泣かないようにそっとしておくのも、どちらも問題は生じないと思います。ストレスの解消方法の好みといってもよいでしょう。泣くほどではない状態なら、楽しいことをしたり、運動したりして、ストレスを発散することもできると思われるからです。もし、普段から泣いてスッキリするタイプの人であれば、積極的に涙活をすることでストレスを解消するとよいと思います」

Q.ストレス解消のために泣くことが習慣化している人の中には、日常生活で泣く回数が多かったり、たくさん(長時間)泣いたりしても問題ないのか気にする人もいるようです。ストレス解消のために泣くことが、何らかのデメリットにつながる可能性はあるのでしょうか。

田中さん「日常生活で泣く回数が多いと、周囲の人から『涙もろい人』『涙腺が緩い人』と言われることがありますね。そのため、人前で泣くほどでもないときには、泣かないようにコントロールできた方がよいかもしれません。逆にいうと、人前でなければ、泣きたいときに泣けるだけ泣いてもよいと思います。泣くことは、精神面においては何のデメリットもありません」

Q.ストレスの多い現代社会において、「泣く」行為との上手な付き合い方やポイントなど、精神科専門医としてアドバイスがあればお願いします。

田中さん「先述のように、泣きたいときにきちんと泣くのが一番だと思います。つらさ、悲しみを抑圧し続けると、後々、きっと自分を苦しめることになるからです。ストレスフルな毎日の中で訳もなく泣いてしまうとき、または逆に、泣くはずの状況なのに泣けないときがあれば、うつの危険信号かもしれません。悲しくないはずの状況なのに悲しみが止まらないのと、悲しいはずの場面で悲しめないのはどちらも、うつ病の症状の可能性があります。

一方で、突然、とてもつらい状況に巻き込まれたとき、『フリーズ』と呼ばれるぼうぜん自失の状態に陥り、泣くことすらできなくなることがあります。そうしたときは、泣けない方がむしろ自然です。無理に泣こうとせずに、いつかふと、涙があふれ出してくるときを待ちましょう」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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