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企業の「ステルス値上げ」、告知せずとも問題はない? する理由は?

商品の内容量や数量を減らしつつ、価格を据え置く行為は実質的には値上げですが、消費者が気付かないうちに行われることから、「ステルス値上げ」と呼ばれています。問題はないのでしょうか。

ステルス値上げに問題は?
ステルス値上げに問題は?

 近年、チョコレートやポテトチップスといった菓子製品の中には、価格は変わらないものの内容量や数量が減った商品もあります。菓子のパッケージを開けたときに「以前に比べて、いつの間にか、量が減ったな」と感じる機会が増えた人も多いのではないでしょうか。このように内容量や数量を減らしつつ、価格を据え置く行為は実質的には値上げに該当しますが、消費者が気付かないうちに行われることから、「ステルス値上げ」と呼ばれています。

 そもそも、ステルス値上げのように、消費者に何の告知もせずに値上げに該当する行為をするのは問題ないのでしょうか。また、消費者の印象が悪くなる可能性もある中、なぜ、企業はステルス値上げをするのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

コストは一定ではない

Q.そもそも、企業がステルス値上げをする理由について教えてください。

大庭さん「商品の価格は原材料費や人件費、物流費用など、もろもろのコストを回収した上で、メーカー側に適正な利益が生じるよう設定されています。この場合の『適正な』というのは得られた利益の中で、今後、必要な投資や企業の体制を維持し続けるために必要な費用を賄えるという意味です。

コストはいつも一定ではなく、世の中の環境の変化によって変動しますが、価格を変えずにいると適正な利益が得られなくなり、最悪の場合は赤字となります。そのため、『商品の分量を少しだけ減らす』といった小さな変化で適正な利益をカバーできる場合や、将来的に以前の分量に戻せる見込みがある場合は販売価格そのものは変えず、商品の分量を減らすステルス値上げで対応するケースが多いのです」

Q.ネット上では、ステルス値上げについて、「詐欺なのではないか」「企業イメージが下がるだけで、マイナスでは?」といった意見もあります。ステルス値上げではなく、普通に値上げしてもよいのではないでしょうか。また、ステルス値上げが法的責任を問われることは。

大庭さん「値上げをすることで、競合他社が提供している商品との間で価格差が生じ、場合によっては価格差が拡大してしまうことがあります。そのようなことが起きると、市場で競争する上で不利です。品質や分量に差がない場合や『このメーカーでしか販売していない』などの特別な価値がない場合は、消費者は価格の安い商品を選択することが多いからです。

しかし、利益を確保するために分量を大幅に減らさなければならず、パッケージなども変更しなければならない場合や、分量を減らした後、将来的に以前の分量に戻すことがない場合は通常の値上げで対応します。なお、ステルス値上げに関しては、法律上で告知義務があるわけではないため、パッケージに表示された情報(商品の分量など)が正確であれば、実施しても特に法的責任を問われることはありません」

Q.では、通常の値上げとステルス値上げでは、どちらの方が消費者の印象が悪くなりやすいのでしょうか。

大庭さん「値上げが必要な理由や、値上げ後の金額決定の根拠を明確に伝えた上での通常の値上げと消費者に一切告知をしない形でのステルス値上げとでは、ステルス値上げの方が消費者の印象が悪くなると思います。『気付いたら、商品の分量が減っていた』ということに対して、消費者がだまされたという感情を抱いてしまうからです。

ただ、値上げ金額が大きい場合は、通常の値上げの方が印象が悪くなることも考えられます。『この商品に関しては、この程度の価格が妥当である』という独自の判断基準(物差し)を持っている消費者も多いからです」

Q.企業が定期的にステルス値上げを行った場合、業績にどのような影響を与えるのでしょうか。

大庭さん「消費者に対する事前告知のないステルス値上げをやり続けた場合、メーカーに対するイメージが悪くなることで、消費者(ファン)が離れていってしまうことが想定されます。ステルス値上げに関する情報は口コミで拡大していくからです。

また、ステルス値上げを行ったことを知った競合他社が動くことも考えられます。例えば、A社がこれまで、『120グラム100円』で売っていた商品をステルス値上げにより、『100グラム100円』で販売したとします。すると、競合他社の中には、A社のステルス値上げ前の価格である『120グラム100円』で商品を売り、A社の顧客を奪おうとする企業も出てくるかもしれません。このようなことが生じた場合、売り上げの減少や市場でのシェア低下という形で、ステルス値上げを行ったメーカーの業績に悪い影響を及ぼします」

Q.企業が値上げに該当する行為をする場合、消費者に対してどのような対応を取るのが望ましいのでしょうか。

大庭さん「通常の値上げの場合は、値上げが必要な理由と値上げ後の金額決定の根拠を消費者に明確に伝えるべきだと思います。そうでなければ、買う側が納得できないからです。

ステルス値上げに相当しそうなケースについても、黙って量を減らすのではなく、分量を減らした理由や分量決定の根拠、今後の見通しなどを消費者に伝えることが望ましいです。経営戦略上の理由で明確に伝えることができない場合であっても、消費者に満足し続けてもらうために『メーカーとして、どうありたいと考えているのか』といったメッセージは伝えるべきだと思います。

今は物があふれている時代で、品質や分量、価格が似たような商品が市場に乱立しているケースが多いです。そのような中で、安定した売り上げを確保し続けるためには、消費者との信頼関係を築くことが最も重要です。消費者から、信頼・信用されることが市場で勝ち残れる最大の要因であるといっても過言ではありません」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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