コロナ「変異ウイルス」に警戒を 「501」「484」「N」「Y」は何を意味する?
新型コロナウイルスの「変異ウイルス」が猛威を振るっています。「変異」や名前の意味、対策について、医療ジャーナリストに聞きました。
新型コロナウイルスの流行が深刻化し、3度目の緊急事態宣言が4月25日、東京、大阪など4都府県に発令されました。「医療崩壊」ともいわれる大阪府を中心に猛威を振るっているのが新型コロナウイルスの「変異ウイルス」、あるいは「変異株」といわれるものです。変異ウイルスは「イギリス型」「ブラジル型」などと、国名を付けて呼ばれることが多かったのですが、最近は「N501Y変異を持つウイルス」「E484K変異のウイルス」などと報道されることも増えています。
この「501」「484」という数字や「N」「Y」というアルファベットは何を意味するのでしょうか。「若い世代も重症化しやすい」とも言われる変異ウイルスに、どのように対処すればよいのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。
501番目のアミノ酸が変わった
Q.「変異ウイルス」「変異株」と呼ばれるものはそもそも、どのようなものでしょうか。
森さん「ウイルスが持つ“設計図”のような情報を『遺伝情報』と言います。ウイルスはヒトや動物の細胞に入り込み、自分の遺伝情報を複製しながら増殖したり、広がったりしていきますが、複製されるウイルスの遺伝情報の一部に“コピーミス”のようなものが起きることがあります。これが『変異』です。
小さな変異は繰り返し起こりますが、その中で、同じウイルスでありながら性質の一部が変化することがあり、これを『変異ウイルス(=変異株)』と言います。こうした変異がウイルスの増殖等に有利なものであった場合、この変異ウイルスは増えていき、一方、そうでない変異を持つものは淘汰(とうた)されていきます。逆に言えば、流行している変異ウイルスは人間にとって脅威となる可能性が高いと考えられます」
Q.変異ウイルスにも、いろいろあるのでしょうか。
森さん「現在、日本で確認されている新型コロナウイルスの変異ウイルスには、イギリスで最初に確認されたもの▽南アフリカで最初に確認されたもの▽ブラジルのアマゾン地域で発生したと考えられているもの▽フィリピンから報告されたものがあります。いずれも従来のウイルスより感染者が増えやすい、つまり、感染力が増大しており、感染者が増えることによって、重症化する人の数も増えると考えられています。さらに、インドで最初に確認されたものも4月22日に国内で初めて確認が発表されました。
感染力の増大に加え、さらに変異ウイルスの性質で懸念されていることがあります。イギリス型変異ウイルスは重症度が高くなる可能性が指摘され、従来のウイルスより死亡率が高いという報告があります。南アフリカ型とブラジル型の変異ウイルスでは、免疫から逃れる性質である『免疫逃避』を起こす可能性が指摘されていて、ワクチン接種や過去の感染によって獲得した免疫の効果が低くなる恐れがあります。
つまり、従来の新型コロナウイルスに対して開発されたワクチンでは、発症予防効果が低下する可能性や再感染の可能性が考えられます。フィリピン型変異ウイルスも恐らく、同じような特徴を持つだろうと考えられています。インドで急拡大している変異ウイルスもまだ情報が少ないものの、ワクチンの効果低下や感染力増大の可能性が懸念されていて警戒が必要とみられています。
これらの他に、海外から入ったとみられるものの起源が分からない変異ウイルスが日本で確認されています」
Q.なぜ、「変異種」ではなく「変異ウイルス」「変異株」という言い方をするのでしょうか。
森さん「英語では『variant』、あるいは『mutant』と言い、海外報道では『variant』が使われています。日本語訳として『変異種』『変異株』『変異型』『変異ウイルス』などと言われてきましたが、『変異種』はウイルスの種類が新たに変わることを意味するため、同じウイルスで性質の一部が変化しただけであるものに対して、『変異種』と表現するのは誤用になると専門家は指摘します。
一般社団法人日本感染症学会は『正しい表記は“変異株”であり、“変異ウイルス”は許容範囲である』と表明しており、ウイルス学、感染症学が専門の北村義浩医師は『“変異体”あるいは“変異ウイルス”と呼ぶのが最適ではないか』と話しています」
Q.以前は「イギリス型」などと国名を付けた呼び方が主流だったと思うのですが、最近は「N501Y」などと、アルファベットと数字の組み合わせで報道されていることが多いと思います。そもそも、このアルファベットや数字は何を意味するのでしょうか。
森さん「アルファベットや数字の組み合わせは変異ウイルスの名前ではなく、変異の結果として起こる、ウイルスの性質の変化の内容を表すものです。専門的に言うと、新型コロナウイルスの表面の突起部分にある『スパイクタンパク質』を構成するアミノ酸配列がどのように変わったかが、この組み合わせによって分かります。
例えば、イギリス型変異ウイルスの正式名称は『B.1.1.7』で、このウイルスでは、遺伝情報の変化によってスパイクタンパク質のアミノ酸に変化がもたらされ、その変化に『N501Y』と名前が付けられているのです。
『N501Y』は、スパイクタンパク質の501番目が従来のアミノ酸N(アスパラギン)から、アミノ酸Y(チロシン)に置き換わったことを意味します。しかし、いつの間にか、アミノ酸置換の名称だった『N501Y』が、そのアミノ酸置換を有する変異ウイルスの名前としても使用されるようになりました。
『N501Y』は変異ウイルス名としても、アミノ酸置換名としても用いられており、混乱の原因ともなっています。『B.1.1.7(イギリス型変異ウイルス)』では、このアミノ酸置換『N501Y』によって感染力が増すことが分かっています。
東京都内を中心に多く確認されている『E484K』変異を持つウイルスとは、484番目がE(グルタミン酸)から、K(リシン)に置き換わっている変異ウイルスという意味です。ワクチンの効果が低くなる可能性があると言われています。南アフリカ、ブラジルで確認された変異ウイルスは『N501Y』『E484K』の2つのアミノ酸置換をもたらす変異を持っています」
Q.なぜ、国名読みから変わったのでしょうか。
森さん「『イギリス型』『南アフリカ型』『ブラジル型』などという呼び方は、現在も使われることがあります。これらの変異ウイルスは、最初に確認された国の外へ感染が拡大し、WHO(世界保健機関)がまとめた4月13日時点での報告書によると、イギリスで最初に確認された変異ウイルスは132の国と地域、南アフリカで確認されたものは82、ブラジルで確認されたものは52の国と地域にまで広がっているとされます。
世界のあちこちで流行しているものを、特定の国の名前で呼ぶことが適切かどうかは議論が必要だと思います。例えば、東アジア各地等に存在するウイルス感染症に『日本脳炎(=Japanese encephalitis)』という名前が付いているのは、あまりいい気持ちがしないという人もいるのではないでしょうか。そういったことや、変異の内容に関心が高まったことがあって、『N501Y』『E484K』を用いた呼び方が増えているのかもしれません」
Q.従来の呼び方でいう「日本型」はないのでしょうか。
森さん「例えば、2021年4月下旬時点で東京都を中心に感染者が増えている『E484K』は、日本の羽田空港での検疫によって新たに確認された変異ウイルスです。海外から持ち込まれたのではないかと考えられていますが、どこで発生したかは分かっていません。今のところ、『日本型』という言い方は一般化していないようです」
【誤植】これらの他に、海外から入ったとみられるものの起源が分からない変異ウイルスが日本で確認されていています」
直せよ!
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