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宣言解除で緩みも? 酒に酔って「嘔吐」、路上や公共施設を汚したら法的責任は?

路上や公園で酒を飲む人を見掛けることがあります。もし、酒に酔って嘔吐し、路上や公共施設などを汚した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

路上を汚したら法的責任は?
路上を汚したら法的責任は?

 花見や歓送迎会のシーズンです。今年は新型コロナウイルスの影響で時短営業を行う飲食店がある上に、会食を伴う花見や歓送迎会を自粛する人も多いようです。しかし、緊急事態宣言の解除による開放感や飲食店の時短営業が影響しているのか、コロナ禍にもかかわらず、公園や路上で酒を飲んでいる人を見掛けることがあります。中には泥酔するまで飲み続けて、路上や公園、駅構内を吐しゃ物やごみで汚す人もいるため、嫌な思いをする人もいるのではないでしょうか。

 もし、路上や公共施設を汚した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「緊急避難」認められる場合も

Q.駅構内のような公共施設や路上、公園などを吐しゃ物やごみで汚した場合、汚した人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。飲酒や急病によって体調が悪化し、やむを得ず汚してしまった場合はどうでしょうか。

牧野さん「軽犯罪法1条には『左の各号の一に該当する者は、これを拘留または科料に処する』とあり、26号で『街路または公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、または大小便をし、もしくはこれをさせた者』に対する処罰を定めています。つまり、公共の場所を吐しゃ物などで汚した場合、拘留されたり、罰金を科されたりする可能性があるということです。

しかし、飲酒や急病で気分が悪くなり、やむを得ず、公共施設や公園で嘔吐(おうと)した場合は罰せられる可能性は低いでしょう。形式的には先述の『街路または公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き』に該当しても、刑法37条1項で定められている『緊急避難』(本来であれば違法行為であっても、それが自分または他人の生命や財産などに対する危機を避ける目的で行われたと認められた場合は、例外的に罰せられないこと)が認められることが多いからです。

緊急避難が認められれば犯罪が成立しなくなるため、刑罰は科されません」

Q.では、住宅(一軒家の塀や玄関前、マンションの共同玄関や玄関前など)や店舗の敷地内(店内や店の外壁など)が吐しゃ物やごみで汚された場合、住宅の住人、店舗の経営者・管理者は汚した人に賠償を請求することは可能なのでしょうか。また、警察に被害届を出した場合は受理されるのでしょうか。

牧野さん「そもそも、住宅や店舗の敷地内へ許可なく侵入すると住居侵入罪に該当する可能性がありますが、飲酒による体調不良が原因で住宅や店舗の敷地内を吐しゃ物やごみで汚した場合、先述の緊急避難が認められることが多く、その場合、住居侵入罪や軽犯罪法違反をはじめとした犯罪が成立しません。警察に被害届を出しても受理される可能性は低いでしょう。

しかし、民法709条では、他人の権利を侵害し、損害を与える行為(不法行為)をした人に対して、損害を受けた人への損害賠償責任を定めています。住宅や店舗を汚す行為そのものは『不法行為』に該当するため、同法に基づき、住宅や店舗を汚した人は住宅の所有者や店舗の経営者・管理者に対する賠償責任が発生します」

Q.駅構内で、泥酔して嘔吐した人を駅員が救護することもあります。その際、鉄道会社側は泥酔した人に賠償を請求できるのでしょうか。

牧野さん「泥酔した利用者の行為によって、鉄道会社側に清掃の手間や費用が発生するため、形式的には先述の民法709条に基づき、原則として、利用者には損害賠償責任が発生します。ただし、鉄道会社側が過失などで利用者に悪意がないと判断した場合は、わび状に署名させるなどして賠償を請求しないことの方が多いでしょう」

Q.もし、電車内や路上、飲食店などにいたとき、近くにいた人が嘔吐したことで自分の衣服や所持品を汚された場合、吐しゃ物で汚された物を二度と使いたくないと思うこともあると思います。その場合、買い直すのに必要な費用を相手に請求することはできるのでしょうか。

牧野さん「自分の吐しゃ物で他人の衣服や所持品を汚す行為も他人の権利を侵害し、損害を与える行為に該当するので、民法709条に基づいて、汚した人は相手に賠償しなければなりません。ただし、その際の衣服や所持品は使用済みの物と見なされるため、賠償額の基準は原則として新品価格ではなく、中古品相当の価格となります」

Q.ちなみに、酔っぱらって路上や公園、電車内などで騒いでいた場合、それだけで法的責任を問われることはあるのでしょうか。

牧野さん「『酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止などに関する法律』、通称『酔っぱらい防止法』があり、同法4条で『酩酊(めいてい)者が、公共の場所または乗り物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野または乱暴な言動をしたときは、拘留または科料に処する』と定めています。つまり、ただ騒いだだけでは処罰される可能性は低いですが、誰から見ても明らかな迷惑行為や乱暴な言動を他人にした場合は処罰の対象となります」

Q.泥酔して他人とトラブルを起こさないためには、日頃からどのような対策が必要なのでしょうか。

牧野さん「『酔った勢いであれば、多少のことは責任を問われずに許される』と考えている人が少なくないのではないでしょうか。確かに、刑法39条には心神喪失者や心神耗弱者が不法行為を犯した場合に原則として、犯罪不成立、もしくは刑の減軽となる規定があります。

しかし、泥酔した場合であっても、その原因となった飲酒を始めた時点で『分別があった(故意・過失があった)』と認められれば、その後の犯罪行為も処罰するという刑法の判例理論(原因において自由な行為)があります。泥酔していたからといって無罪放免ではないので、前例のある人は特に、自宅以外の場所では飲み過ぎないなど分別を失わない対策が必要です」

Q.「自分は酔っていないが、泥酔している他人とトラブルになった」というケースの場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

牧野さん「泥酔している他人とトラブルになった場合は冷静に行動する必要があります。泥酔者にはできるだけ関わらないことが一番ですが、万一、泥酔者が暴力を振るおうとしたら、警察に通報して対応をお願いするのがよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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