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大村秀章知事リコール問題で物議…「署名」偽造、どんな法的問題がある?

愛知県知事のリコール運動を巡り、大量に「署名」が偽造された疑いが浮上しています。署名の偽造はどのような罪に当たるのでしょうか。

高須克弥氏(2020年6月、時事)
高須克弥氏(2020年6月、時事)

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡り、大量に署名が偽造された疑いがあるとして、同県選挙管理委員会が2月15日、県警に告発状を提出しました。署名活動を主導した高須克弥氏や田中孝博元愛知県議、活動を応援した河村たかし名古屋市長らは不正への関与を否定していますが、署名活動の事務局から署名偽造のアルバイト集めが広告会社に発注されていたとの報道もあります。

 署名偽造はどのような罪になるのでしょうか。水野FUKUOKA法律事務所(福岡市中央区)代表の水野遼弁護士に聞きました。

地方自治法違反の可能性も

Q.リコールに向けた署名を偽造すると、どのような罪になるのでしょうか。

水野さん「地方自治法74条の4第2項では条例の制定・改廃に関する署名の偽造について罰則が設けられており、76条4項で、リコールに関する署名についても74条の4第2項を準用することが決められています。従って、地方自治法違反76条4項、74条の4第2項違反(法定刑は3年以下の懲役、もしくは禁錮、または50万円以下の罰金)の罪が成立する可能性があります。

また、私文書偽造(刑法159条)の要件を満たす場合、同罪が成立する可能性もあります。

Q.報酬を払って署名を偽造させた場合、罪は重くなるのでしょうか。

水野さん「他人を用いて組織的に署名の偽造を行ったような事案はその分、地方自治法の保護法益である『直接請求権制度の適正な運営』を害する度合いが高いことから、犯情(犯罪行為自体に関する事情)としては悪いものになると思われます。もっとも、報酬を支払ったことそれ自体よりも、他人を使用して、多数の署名を偽造したことが重く捉えられると思われます」

Q.署名活動の主宰者側から、「許可を得た人の署名を代筆してほしい」と頼まれて署名を結果的に偽造したボランティアがいた場合、罪に問われるのでしょうか。また、それが報酬を受けるアルバイトだった場合はどうでしょうか。

水野さん「先ほど、2つの罪が成立する可能性があると説明しましたが、私文書偽造罪については本人(署名の名義人)の同意があるときは原則、成立しません。このため、署名した者が『本人の同意を得ていた』と誤信していた場合、私文書偽造罪は成立しないと考えられます。

一方、地方自治法74条の4所定の各行為は直接請求権に関する署名について、『本人の同意を得ていた』『得ていたと思っていた』という弁解のために私文書偽造罪では処罰できないという事態を想定して、正規の手続きに従わない代筆等についても処罰の対象にしていることからみて、本人の同意を得ていても、地方自治法違反の罪は成立すると考えられます。従って、頼まれて代筆した人も地方自治法違反の罪が成立する可能性があります。これは報酬を得ていたか否かとは直接的には関係しません」

Q.ちなみに、家族の名前を代わりに書いた場合も偽造になるのでしょうか。それは勝手に名前を書いた場合と、家族が了承している場合とで違いはあるのでしょうか。

水野さん「地方自治法では、署名を代書させることができる場合を『心身の故障その他の事由により条例の制定または改廃の請求者の署名簿に署名することができないとき』に限定しており(地方自治法74条8項)、その場合も、代筆者による署名を要求するなど手続き的な制約を設けています(9項)。そして、これに違反した場合は無効な署名であるとされています(74条の3第1項1号)。

これを受けて、地方自治法74条の4第3項では『選挙権を有する者の委任を受けずにまたは選挙権を有する者が心身の故障その他の事由により請求者の署名簿に署名することができないときでないのに、氏名代筆者として請求者の氏名を請求者の署名簿に記載した』場合、偽造と同じ罰則を定めています。これについては、本人の同意があるか否かは本罪の成立には関係しないと考えられています。よって、『心身の故障』などの例外にあたらない限り、地方自治法74条の4第3項違反の罪が成立する可能性があります」

Q.署名を偽造された人は、偽造を主導した人に慰謝料などを求めることはできるのでしょうか。単に『迷惑だ』と感じた場合と、知事などリコール対象の人の支持者だったのに『名前を使われて周囲の信頼を失った』場合で違いはあるでしょうか。

水野さん「慰謝料請求自体は現実的には困難であると思われます。リコールに署名すること自体は違法でないので、勝手に名前を使われただけで、慰謝料請求の対象となるほどの精神的苦痛が発生したとまでは言い難いと思われます。

もっとも、例えば、後援会長と知事との仲を裂く目的で署名を偽造し、リコールの首謀者に仕立て上げるなどした結果、後援会長の地位を失ったなどといった特殊な事情があれば、別に考える余地もあるかもしれません」

(オトナンサー編集部)

水野遼(みずの・りょう)

弁護士

福岡市出身。東京大学医学部卒。在学中に司法試験に合格し、2016年、弁護士登録。大阪市内の知財系法律事務所、福岡市内の損害保険系法律事務所勤務を経て、2019年8月、裁判所のある福岡市中央区六本松に水野FUKUOKA法律事務所を開業した。医療事故、交通事故等の医療の知識を要する事件に注力するほか、刑事事件についても精力的に取り組んでいる。事務所ホームページ(http://mizunolaw.web.fc2.com/index.html)、刑事事件特設サイト(https://mfuklocriminaldiffence.com/)。

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