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お茶×おかず 中国人にとって「飲茶」はおやつ? それとも、ご飯?

「飲茶」はお茶をメインにしつつも、蒸しギョーザやシューマイなど、おかずとなるようなものも食べます。飲茶はおやつ? それとも、ご飯?

飲茶はおやつ? それとも、ご飯?
飲茶はおやつ? それとも、ご飯?

 中国には、お茶をメインに蒸したギョーザやシューマイなどを食べる「飲茶(ヤムチャ)」という風習があります。日本でも人気で、中国に旅行した際、本場の飲茶を味わった経験がある人もいるかもしれません。ところで、日本や欧米で、お茶をメインにして食べるものはケーキやクッキーなど甘い菓子類が多く、「おやつ」という認識ですが、飲茶はお茶とともに、塩気があり、おかずとなるようなものを食べるので「ご飯」のようにも思えます。

 飲茶は中国人にとって、おやつなのでしょうか、それとも、ご飯なのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

「広東式の朝ご飯」が起源

Q.飲茶は中国全土で行われているのですか。いつから始まった風習なのでしょうか。

青樹さん「飲茶は広東語で、もともとは香港を含む広東省とその周辺地域から生まれた独自の風習です。中国全土で盛んに行われているわけではなく、例えば、北京や上海では広東料理の飲食店を除き、ギョーザやシューマイ以外、特に飲茶のメニューはありません。飲茶の風習が始まったのは清朝末期からです。日本でいえば、江戸時代後期から明治時代に当たり、中国の歴史で考えれば、むしろ新しい風習といえるかもしれません」

Q.飲茶は何が起源で始まり、どのような目的で行われるのですか。

青樹さん「飲茶はもともと、『広東式の朝ご飯』が起源です。当時、広東省では朝、中国人にとっての“ソウルドリンク”であるお茶を提供する屋台が登場したのですが、そのうち、メインであるお茶と一緒に食べる軽食を出すようになりました。やがて、提供する軽食の種類も増え、これが今の飲茶文化につながります。

広東人は家族と朝ご飯で飲茶をして会話を楽しみ、その後、仕事や学校に出掛けていました。家族だけではなく、友人や仕事関係者とも朝の飲茶をしていました。つまり、飲茶は“情報交換の場”“社交の機会”であり、ビジネスや人間関係の構築を行う、とても大切な機会なのです。

最初、飲茶を行う時間は朝でしたが、次第にランチやアフタヌーンティーとして、また、夜食としても行われるようになりました。広東人は晩ご飯の後に夜食をする習慣があるのです」

Q.飲茶では、どのようなお茶を飲むのですか。また、お茶とともに食べるものには、蒸しギョーザやシューマイ以外でどのようなものがあるのですか。

青樹さん「飲茶でよく飲まれるのは龍井(ろんじん)茶やウーロン茶、鉄観音、プーアル茶、菊花茶、ジャスミンなど多くの種類があって、年代によっても異なります。種類によっては料理の値段よりも何倍も高いものもあるので、注文するときに気を付けなければなりません。それだけ、中国では、お茶が大切なものとして扱われています。

飲茶のメニューとして、日本でもおなじみなの、蒸しギョーザやシューマイです。その他、飲茶料理、点心と呼ばれるものは100種類以上あるといわれています。チャーシューまんじゅう、大根餅、おかゆ、麺類などは種類も豊富で、中でも、私が必ず注文するのは『腸粉(ちょうふん)』という、チャーシューやエビなどの具材を米粉で作った皮で巻いたものです。

甘いものでは、カスタードあんまんじゅうやエッグタルトなど、日本でも普及したらいいなと思うものはたくさんあります。もともと、お茶を飲むために作られた食事の風習であるため、甘いものだけではなく、塩気のあるものも含め、お茶に合うものならすべて、飲茶でお茶と一緒に食べるものになります」

Q.飲茶は中国人にとって、おやつなのでしょうか、それとも、ご飯なのでしょうか。

青樹さん「飲茶はおやつだ、あるいはご飯だとどちらかに決めつけるのは難しいです。飲茶はご飯である朝食が起源で、ランチやアフタヌーンティー、夜食で行われており、おやつとご飯の両方を兼ね備えているからです。つまり、飲茶をする目的により、おやつと捉えるのか、ご飯と捉えるのかが変わります」

Q.日本では経済発展や生活の西洋化などに伴い、昔の風習が徐々に消えつつあるものもあります。現在も、飲茶の風習は昔と変わることなく行われているのでしょうか。

青樹さん「現在も、飲茶は昔と変わることなく行われています。なぜなら、飲茶は単なる食事ではなく、“情報交換の場”“社交の機会”でもあるからです。特に、広東人など中国人は長時間、人と話をすることが大好きなので、飲茶の風習が消えてしまうことはないでしょう。

また、中国人は自分たちがこれまで培ってきた文化を崩すことはほとんどありません。例えば、中国の正月である春節がそうです。世界では、1月1日を新年が始まる日とする国が大多数ですが中国は違います。世界の多くの国が西洋の暦に変えても、かたくなに春節を残しています。それと同じで、飲茶をはじめとする中国文化はずっと残っていくのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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