個人や組織にダメージ 「リモート会議」で設定してはならないルール
「リモート会議」を実施する会社が増えましたが、間違ったルールで会議を進行すると組織力が低下する可能性があるようです。
新型コロナウイルス感染拡大防止のために提唱された「新しい生活様式」を実現するため、企業や団体で「リモート会議」が行われることが増えました。リモート会議に参加するにあたり、さまざまなルールが示されるようになり、中には暗黙のうちに習慣化した決まりごともあります。
しかし、これらのルールの中には、決して従ってはならない間違ったおきてが含まれてしまっていると思えてなりません。そのことに気付かないと、個人も組織も深刻なダメージを受けてしまいます。
カメラオフで話し手の不安増
その最たるものが「リモート会議の参加者はカメラをオフにする」というおきてです。カメラをオンにするか、オフにするかを決めていない会社もあれば、「カメラをオフにしてもよい」という緩やかなガイドラインを示している会社もあります。
「カメラをオフにしてもよい」といったルールを設けた場合、カメラをオフにする人が圧倒的多数になるのが実情です。オフにしている人に理由を聞いてみると「顔を映したくない」「自宅の様子を見せたくない」「どこからアクセスしているか知られたくない」「架空の背景を設定できることを知っているが面倒だ」「(ペットや子どもなど)見せたくないものが突然映るリスクを未然に防ぎたい」…という声が即座に返ってきます。筆者には、一時の手間がかかるかもしれませんが、背景を設定すればよいだけのことのように思えてなりません。
中には「カメラをオフにしなければならない」という決めごとをしている会社もあります。会議が始まると、主催部門の人が「カメラをオフにしてください」と注意喚起し、「○○さん、まだオンですよ」「○○さん、オフにしてください」と個別に声を掛け、全員がカメラをオフにしてから会議を始めるというように、カメラのオフを徹底している場面によく出くわします。理由を聞いてみると「インターネット回線が脆弱(ぜいじゃく)なので、カメラをオンにすると安定した接続で会議ができない」と言います。
「接続が不安定になるので、カメラをオフにするのは当たり前ではないか」と思うかもしれませんが、実はこのことが深刻な問題を生むのです。話し手は聞き手の顔が見えない中で話をしなければなりません。聞き手の声は聞こえるかもしれませんが表情は見えません。聞き手が本心から納得している表情をしているのか、懸念を持っているのか、反対しているのか、そもそも、話が伝わっているのか、関心を持っているのか、きちんと聞いているのか、そうした見当が皆目つかなくなるのです。
見当がつかないということは、聞き手を巻き込めているかどうかの確度が下がっているといえます。組織のメンバーの合意度の不確実性を高め、組織のパフォーマンスを低下させてしまうのです。仮に、インターネット回線が不安定だったとしても、組織の合意形成の不安定さと比べて、どちらが、より深刻な問題かということを考えなければならないと筆者には思えます。
筆者はほぼ毎日、リモートで会議や演習プログラムをさまざまな企業や団体の人たちと実施していますが、カメラもマイクも常時オンにして会議やプログラムを実施しています。カメラ、またはマイクを常時オンにできる人に参加いただいています。
自宅からアクセスする人もいれば、会社からアクセスする人もいて、多いときで一度に数十人がリモート会議や演習プログラムに参加しますが、回線が不安定になったという場面に出くわしたことはありません。十数回に1度くらい、例えば、20人の参加者のうち1人の回線が遮断されて、退室された状態になったという場面には直面しています。しかし、その人も再度アクセスして、会議やプログラムに参加しています。
もちろん、企業や団体の回線状況によっては、より多くの頻度で回線が不安定になるという状況下で参加している人はいるでしょう。しかし、筆者の経験では、このくらいの頻度で出現する不安定さであれば、少なくとも全員がカメラをオフにすることまでやる必要はないだろうと思えます。全員がカメラをオフにすることで生じる合意度の低下の方が、より深刻だからです。
合意度を損ない、スキル向上を妨げ
筆者は回線が遮断されてしまい、復帰まである程度時間を要した人に対しては、アクセスできなかった間に起きたことを別途説明するなどのフォローを行っています。回線が遮断する確率は低く、個別対応すべき事項で、「全員一律カメラオフ」というおきては間違っているのです。
カメラをオフにして参加する人がいると、話し手は「聞き手の表情が分からないので、聞き手の状況に合わせた話し方ができない」「そこにいるのかいないのか、分からないので話しにくい」「本人が聞いているのか、他の知らない人が聞いているのか、疑心暗鬼になる」「リモートで問題になるなりすましのリスクが高まる」という見解を持ちます。
カメラをオフにすると、聞き手の合意度や話し手の工夫を損なうだけでなく、スキル向上を妨げ、お互いを疑心暗鬼にさせてしまいます。つまり、組織の巻き込みとパフォーマンスを低下させてしまうため、決して実施してはいけないおきてなのです。
(モチベーションファクター代表取締役 山口博)
コメント