オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

店員は怒り…半額セール前の商品キープ→セール開始後にシール要求、法的問題は?

スーパーの半額セールで、セール開始前に商品をキープし、開始後、キープした商品に「半額シール」を貼るように求める客がいます。法的に問題ないのでしょうか。

キープした商品に「半額シール」要求、問題ない?
キープした商品に「半額シール」要求、問題ない?

 スーパーでは閉店の時間が近づくと、総菜などの商品の値引きを行うお店が多いですが、先日、あるスーパーの総菜コーナーで働いている女性が「キープした商品に『シールを貼れ』と迫る客がいて困る」とネットに投稿し話題となりました。女性は商品の値引き開始前に「半額」などの値引きシールを商品に貼っているのですが、値引き開始前に商品をかごに入れて“キープ”し、いざ値引きが始まると「半額シールを貼れ」と言ってくる客が多く、怒りを覚えているそうです。

 値引き前の商品をかごに入れてキープし、半額セールが始まって「半額シール」を貼るように求める客の行為は法的に問題ないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「代金についての話し合い」に相当

Q.値引き前の商品を買い物かごに入れてキープし、半額セールが始まる際に「半額シール」を貼るように求める客の行為は法的に問題ないのでしょうか。

佐藤さん「暴言を吐きながら、『半額シール』を貼るように求めるなど極端な行為がなければ、“法的には”問題ないでしょう。スーパーでの買い物は店と客との間の売買契約(民法555条)です。売買契約は目的物(商品)と代金が決まり、『買いましょう』『売りましょう』という双方の合意があれば成立します。いくらで売買するかは原則として、当事者が自由に決めることができます。

買い物かごに入れた時点ではまだ、売買契約は成立していません。半額シールを貼るように求める行為は『代金についての話し合い』に当たり、それ自体が違法なものとはいえないと考えられます。

店は半額シールを貼ることも貼らないこともできます。客も『半額なら買おう』とレジに並ぶこともできますし、『半額にならないのなら、購入するのはやめよう』と商品を棚に戻すこともできます。そこは当事者の自由な合意に委ねられます。繰り返しになりますが、店には半額シールを貼らない自由、つまり、客の依頼を断る自由があります」

Q.先述の行為について、売り場に「割引シールは、かごの商品には貼りません」と表示している場合と表示していない場合とで、法的問題の有無が変わる可能性はありますか。

佐藤さん「ほとんど変わらないでしょう。『割引シールは、かごの商品には貼りません』と表示していた場合、店側の意思が事前に示されているわけですが、客が念のため、『セールが始まる前にかごに入れた商品なのですが、割り引いてもらえませんよね』と確認したり、『貼ってほしいんですが無理ですか』と求めたりすることはあるでしょう。これも売買契約が成立する前の、代金に関する話し合いの一環として法的には許されるものと考えられます。

ただし、あまりしつこい値引き交渉をすると、多くの客が来店するスーパーは客の対応に追われ、困ることもあると思います。客側は買い物マナーを守ることが大切でしょう。また、店側は客の値引き交渉に対して、『かごの商品には貼りませんと表示しています』ときっぱり断ることが可能です」

Q.投稿によると、気に入った商品を半額で購入するため、半額セールが始まる1時間前から商品をキープし、店内をうろつく客もいるそうです。目的を持って意図的に商品を手元にキープし続けることは、他の客が商品を購入する権利を阻害してしまうと思います。「営業妨害」などにならないのでしょうか。

佐藤さん「通常、商品をかごに入れてから何時間以内にレジに持っていかなければならないといったルールは存在せず、商品をかごに入れて持ち歩く行為が、他の客の商品を購入する権利を侵害する不法行為だとは考えられません。商品をキープされたことで、他の客は多少不便を感じることがあるかもしれませんが、それは社会生活を営む上で通常生じる我慢の範囲内のことでしょう。

また、半額セールが始まる1時間前から商品をキープしていたとしても、それだけで店の業務を妨害したとは評価できないでしょう。先述した通り、通常、客には商品をかごに入れた状態で店内で買い物する自由があるからです。

なお、刑法で定められている『業務妨害罪』は店に関する、うその事実を広めることや店が知らない間に店の設備を壊すこと、店員に暴行を加え怖がらせるなどといった手段で業務を妨害した場合に成立します(刑法233条、234条)。従って、半額セールを待つために商品をキープしていただけでは業務妨害罪には当たりません。

ただ、ここまで述べたのはあくまで、『法的な問題』の有無であり、総菜など温度管理が必要な商品を長時間、買い物かごに入れておいていいものかどうかは常識やマナーの問題だと思います」

Q.半額セールが始まり、売り場に戻って、セール開始前にかごに入れてしまった商品と「半額シール」の貼られた商品とを取り換えることは法的に問題はないのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、スーパーで買い物する場合、かごに商品を入れた時点ではまだ、売買契約が成立しておらず、客はかごの中の商品を自由に棚に戻すことができます。また、当然、別の商品をかごに入れる自由もあります。従って、セール開始前にかごに入れてしまった商品と『半額シール』の貼られた商品とを取り換えることは法的に問題ないでしょう。もちろん、マナー的な問題は別です」

Q.レジで商品の精算を行っている最中に半額セールが始まり、購入した中に半額対象商品が含まれていた場合、客から「半額にしてくれませんか?」と言われても、店側は断れるのでしょうか。断れないのでしょうか。

佐藤さん「店側が断りたいと思えば断ることができます。かごの中に入れた商品に半額シールを貼るかどうかも、レジで精算する際に半額に応じるかどうかも基本的に、店の自由です。

なお法的には、売買契約が成立すると、店側は客に対して合意した代金を支払うよう求める権利が発生し、客には代金を支払う義務が生じます。スーパーでの買い物の場合、いつの時点で売買契約が成立したのか、厳密に考えると難しい問題です。レジに商品を置いた時点なのか、レジを通過した時点なのか、店員さんが合計代金を伝えた時点なのかなどいろいろなケースが考えられ、定説はないといえるでしょう。

仮に、レジに商品を置いた時点で売買契約が成立したと考えるのであれば、客から『半額にしてもらえませんか?』と言われても、元の値段で契約済みなので『半額にはできない』と法的に断ることも可能になるでしょう。ただし、現実社会では、法律を持ち出すまでもなく、双方の合意によって柔軟に対応すればよいのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

コメント