オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

チャーハン食べにくい? 「れんげ」はなぜ中華料理で使われる?

中華料理店でチャーハンを食べる際、出てくる「れんげ」。チャーハンが残り少なくなってくると取りづらくなることがありますが、中国人はどのようにして食べているのでしょうか。

れんげでチャーハン、どう食べる?
れんげでチャーハン、どう食べる?

 中華料理店でチャーハンを食べる際、「れんげ」が出されることがあります。途中までは問題ないのですが、残り少なくなってくると取りづらくなり、ご飯が数粒残ってしまうことはないでしょうか。そもそも、なぜ、れんげが中華料理の食器として定番なのでしょうか。チャーハンを中国人はどうやってきれいに食べているのでしょうか。

 ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

名前の由来はハスの花

Q.そもそも、れんげとはどういうもので、中国ではどういう食器として位置づけられているのでしょうか。

青樹さん「『ちりれんげ』、略して『れんげ』はいずれも日本語です。名前の由来はハスの花(蓮花=れんげ)の花びらに形が似ているからといわれます。平安時代、中国から日本に伝来し、平安朝の貴族社会では、しゃもじの役割、つまり、ご飯をよそうものとして使われていたそうです。

中国語ではスプーンのことを『勺子(シャオズ)』といい、れんげも『シャオズ=スプーン』の一種です。強いて言えば、『中国式スプーン』という解釈でしょうか。中国でも、とても身近な食器で食卓では必ず目にします。

スプーンの一種なので、日常的な食器で、主にス-プやおかゆを食べるときに使います。日本ではスープやご飯をよそう場所はキッチンですが、中国の場合はテーブルに大きい器を置いて、個人によそっていきます。

その際、大きなれんげ(スプーン)、つまり、シャオズの大きなものを使って、個人の小さなおわんによそっていきます。そして、個人用の小さなれんげがそれぞれの前に置かれ、スープやおかゆ、チャーハンを食べるのです。

そのほか、れんげを必ず使うのは小籠包(ショウロンポウ)を食べるときです。れんげの上に小籠包をのせて、皮をつついて破り、スープを出して飲んでから、肉と皮の部分を食べるのが一般的です」

Q.れんげにも種類があるのでしょうか。

青樹さん「先述したように、個人用のものと大皿に添えるものでは大きさが違います。中国では、大皿に添えるものはかなり大きくて、柄も長いものです。

れんげの形は日本も中国も基本的に同じですが、私が日常使っているれんげは中国で買ってきたもので、日本でよく見るものと比べると小さめだと思います。材質は陶製のものが多いですが、ファストフードではプラスチック製のものが使われます。

そういえば、日本のれんげはラーメンのスープ用に添えられていることがありますが、丼の縁にひっかけられるようになっているものがありますよね。あれは中国では見たことがありません」

Q.チャーハンを食べる際、日本の中華料理店で出されるれんげを使うとご飯粒が残りがちです。なぜ、食べにくいのにれんげを使うのが当たり前なのでしょうか。

青樹さん「まず、中国でチャーハンをいただくときはお皿ではなく、お茶わんのような白い小ぶりのおわんで食べます。これはスープとチャーハンにつかう器で、お皿だとチャーハンは食べにくいと思いますが、おわんだと食べやすいです。

また、中国人は食事のとき、必ずスープを飲みます。日本人が定食でみそ汁やお吸い物を飲むのと同じだと思ってください。チャーハンが出てくる食卓には必ずスープが付きます。そして、一つのれんげをチャーハンにもスープにも使います。れんげにご飯粒が残っていてもスープを飲むとき、一緒に口に入れればいいのです」

Q.とはいえ、お皿でチャーハンが出てきたら、お皿にご飯粒が残りそうです。中国では、食事はいくらか残した方が「おなかがいっぱいになって満足しました」という意味で、礼儀として正しいと聞いたことがあります。「残さず食べるのが礼儀」とされる日本との違いも関係しているのでしょうか。

青樹さん「確かに、ご飯粒を残さないのは日本人の作法です。ご飯を残すのを中国人が気にしないのも事実です。ただ、それは中国人の礼儀とは別問題です。ご飯粒程度は『食べ残し』に入りません。

もっと多く残すのが『礼儀』です。中国では『お皿が空っぽになるのは接待する側の礼儀に反する、だから、いっぱい注文する』というのが接待の基本です。接待される側は食べ物を残した方が相手の礼儀に応えることだとされてきました。もっとも、最近は食品ロスが社会問題化しているので、政府が『食事を残さないように』と呼び掛けていますが」

Q.れんげを使って、チャーハンを残さず食べるコツがあれば教えてください。あるいは、箸を使った方がよいのでしょうか。

青樹さん「中国でもチャーハンを食べる際、箸を使う人はけっこういます。先日、ネット上で話題になったのが『チャーハンを食べるとき、あなたはスプーン(れんげ)派? お箸派?』という議論で、れんげ派が多かったものの、お箸派もそれなりにいたようです。

れんげ派は『口を大きく開けて頬張る幸福感はお箸では味わえない』と主張。例えば、卵チャーハンは卵、肉類(ひき肉が多い)、豆、ご飯を、れんげで一緒に口の中に入れます。『箸は具材をつまむのが面倒くさいし、ちょこちょこ口に入れるより、れんげで一度に食べる方がいい』と言っています。

一方のお箸派は『高級店でチャーハンを食べるときは断然おはし! れんげは子どもみたいで嫌だ。お箸できれいに食べるのが上品。れんげで食べるとお皿の外にこぼしてしまう。うまくすくえないし、品がない』と主張しています。

ちなみに『両方使う』派もいます。パスタの店で日本人がスプーンとフォークを一緒に使う感じです。左手にれんげ、右手にお箸を持って、お箸でれんげにチャーハンを入れて、頬張るのです。中華料理はほかの国の料理と違って、比較的作法に厳しくなく、料理が温かくて、大勢でにぎやかに食べることの方を大切にします。ご飯粒が残っても、チャーハンの粒が飛んでも平気です。

小ぶりなおわんにチャーハンを取り分けてから食べれば、れんげでも食べやすいと思いますし、適当な器がない場合には『れんげだけで、いかにきれいに食べるか』なんて気にせずに、中国のお箸派や『両方派』に倣って、食べやすい方法で楽しくチャーハンをいただけばよいかと思います」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

コメント