勉強しなきゃダメ→勉強嫌い 子どもが思わぬ方向に育つ「裏の教育」とは
たたいてしつけると…
次の事例は勉強に関してです。親はよく、「勉強しなきゃダメ」と叱りますが、これで子どもが勉強するようになることはあり得ません。それどころか、次の理由で勉強が嫌いになるだけです。
「○○しなきゃダメ」などの否定的な言い方をされると、誰でも不愉快になります。その否定的な言い方が不愉快なのです。例えば、「勉強しなきゃダメ」と言われると、子どもの脳の中でちょっとした勘違いが起こり、「勉強なんて不愉快。大嫌い」という認識をしてしまうのです。
本来は勉強そのものを不愉快と感じたのではなく、親の言葉遣いを不愉快に感じたのですが、勉強に関して言われたため、「勉強は不愉快」と認識します。これが、脳科学でいうところの「脳の勘違い」というものです。
同様に「片付けしなきゃダメでしょ」と否定的な言葉で叱られると「片付けなんて不愉快。大嫌い」となり、「妹と仲よくしなきゃダメでしょ」と叱られると「妹なんて大嫌い」と認識します。こうして、「勉強しなきゃダメ」という言い方で「勉強をさせたい」という表の教育を達成することはできず、「勉強を嫌いさせる」という裏の教育が実現されるのです。
体罰についても同じことが起こります。以前、テレビ番組に出演したある親が次のようなことを言いました。
「しつけのためにあることを親子で約束し、それが守れなかったら、たたくということを親子で了解しました。『約束を守れないときはたたいてもいい』と子どもも納得したのです。その後、実際に約束を守れなかったときは子どもをたたきました。これの何が悪いのでしょうか?」
親は自信満々でしたが、こういうやり方で、約束を守る子に成長させることはできません。それどころか、子どもはとんでもない理屈を身に付けてしまいます。それは「正しい理由があればたたいていい」ということです。しかし、正しい理由なんていくらでも見つけられるわけです。「相手のため」「仲間を守るため」など、いくらでも理由は見つけられます。
よく、「たたかれて育った子はたたく子になる」と言われますが、教育や保育の現場では、こういう事例は実によく見られるのです。本当は「どんな理由があってもたたいてはいけない」と教えなければならないのです。「しつけ」と称して、たたいている親が子どもにそれを教えることはできません。
このようなわけで、「勉強しなきゃダメ」という言い方で「勉強をさせたい」という表の教育を達成することはできず、「勉強を嫌いさせる」という裏の教育が実現されてしまうのです。同様に、たたくことで「しつけをしたい」という表の教育を達成することはできず、「正しい理由があればたたいていいと勘違いさせる」という裏の教育が実現されます。
いろいろな具体例を紹介しました。ぜひ、裏の教育という言葉を頭に入れておいて、子どもを思う気持ちが空回りしないようにしてほしいと思います。
(教育評論家 親野智可等)
正論はわかります。ではどうしたら?