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全身を見せて…オンライン時代の「就活セクハラ」、どう対峙すべきか

就活や転職、企業人事などのさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

オンラインでも「就活セクハラ」の危険性?
オンラインでも「就活セクハラ」の危険性?

 就職活動で長く続いた「売り手市場」の時代にも、主に人気企業の採用に関わる社員によって、「就活セクハラ」、つまり、弱い立場の就活学生に対するさまざまなセクハラが一部で問題になっていました。

 コロナ禍による景気の悪化に伴い、企業の求人数が減ることで「買い手市場」に変化していくと、マスコミなどの「就職が厳しくなる」という情報を聞いた学生の不安心理は全体的に増大し、今までよりも広い範囲で、この就活セクハラが増えるのではないかと不安視されています。

 一方で、コロナ禍でオンライン面接やオンライン会社説明会が主流になりました。オンラインであれば、直接会うことが減るのに、それでも、就活セクハラは増えるのでしょうか。

買い手市場でセクハラ増加?

 まず、就活セクハラとはどのようなものでしょうか。単純にいえば、「就活生に対するセクハラ」です。連合の「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」によると、20代女性の12.5%、20代男性はもっと多く、21.1%が就活セクハラを受けたと回答しています。

 セクハラの内容(複数回答)は「性的な冗談やからかい」が39.8%と最も多く、「性的な事実関係(性体験など)の質問」が23.9%、「食事やデートへの執拗(しつよう)な誘い」が20.5%と続きます。女性ではこれ以外にも「必要ない身体への接触(22.0%)」が際立っています。採用がオンライン化すると「執拗な誘い」「身体への接触」は減るかもしれませんが、それ以外の「言葉上のセクハラ」はオンラインでの面接でも同じように行われる可能性があります。

オンライン化で「対面」の価値が上がる

 採用活動のオンライン化で、リアルに対面の場で会うことの価値が上がります。学生は最終的には、入社する会社の雰囲気を「肌で感じたい」と思っています。今までであれば、会社説明会などで容易に実際の会社や社員の様子をうかがい知ることができたのですが、オンライン採用が進むことで、そういう機会はどんどん減っています。

 もちろん、オンライン化自体は就職活動のハードルを下げ、少ない労力で就活できるメリットもあるのですが、一方で、OB・OG訪問やインターンシップが希少化するデメリットがあり、「できるだけリアルな対面で、志望する会社の社員と会いたい」という要望は強くなっています。そうなると、「会ってあげる」という強い立場になった社員が就活セクハラを起こす可能性があります。

オンライン特有の就活セクハラも

 また、オンラインでの面接や面談は対面よりも「会話がしにくい」ことが分かってきました。リラックスした場づくりや、親近感を覚えるようなコミュニケーションを取りづらいのです。

 そのため、面接する側は応募者に対して、対面よりもより、「アイスブレーク」をしようとするようになっています。アイスブレークとは、あまり面接とは直接関係のないような雑談を最初にすることで、氷を溶かすように相手の緊張を解こうとすることです。

 ところが、そこでセンスのない面接官は「彼氏(彼女)はいるのか」「男(女)なのに、なぜ、この仕事を志望したのか」などという、面接を受けた側にとっては「就活セクハラとしか思えない」発言をしてしまうのです。

 これだけコンプライアンスの順守が叫ばれている世の中ですから、今後、就活においても悪意を持った本格的なセクハラは減っていくでしょう。しかし、先述したような「動機は善」(と言ってよいか分かりませんが…)のセクハラは、まだまだ続くでしょう。

 これに加えて、オンラインだからこそのセクハラも出てきました。オンライン面接で部屋が見えるので「もっと、部屋全体をよく見せて」とか、普通の姿勢でいると全身が見えないので、「ちょっとそこに立って全身を見せて」とか、こうして文字にして書くと気持ち悪いほどのセンスの悪さですが、実際にそういう例はままあるようです。

 さて、このように、オンライン化されてもさまざまな就活セクハラが行われる素地はあります。これにどう対処すべきでしょうか。実はオンラインの方がセクハラ対策は容易です。それは録画や録音などの証拠が残せるからです。オンライン面接ツールなどで学生側から直接的に録画をする機能はないですが、パソコン側の録音・録画機能を使ったり、スマホを使ったりすれば録音・録画は難しくはありません。

 そして、その証拠をもって、企業側の採用窓口に直接訴えたり、キャリアセンターなど大学を通して抗議してもらったりすればよいのです。また、不快な言動があった場合、オンラインなら単純にその面接を一方的に打ち切ってしまうこともできます。

「強い気持ち」を持つしかない

 しかし、「志望する会社にそんなことをすれば、採用面接で落とされてしまうのではないか?」と心配し、「そんなことはできない」と思う人も多いでしょう。確かにそうかもしれません。

 ただ、私はそんな社員がいる会社に入るべきではないと思います。あるいは、その社員だけが悪い人という場合であれば、セクハラの訴えに会社はきちんとした対応をするはずであり、学生に不利な対応をするはずはありません。もし、不利な対応をするなら、ひどい会社です。そんな会社に入るべきではないでしょう。

 そういう強い気持ちで対峙(たいじ)するのは難しいことですし、残念至極なことですが、そこでセクハラを「なかったこと」にしていては世の中はよくなりません。無論、改善すべきはその会社であり、就活セクハラはその会社の経営者や人事担当者が根絶すべきものです。

 一度憧れて志望した会社です。もし、就活セクハラを受けた場合は経営者や人事担当者を信じて、強い気持ちを持って、事に当たってみてください。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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