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公立小学校「35人学級」へ、手放しで喜べるのか

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

休校明けの授業風景(2020年6月、時事)
休校明けの授業風景(2020年6月、時事)

 公立小学校の学級定員について、5年間かけて、全学年を一律35人にする方針が2021年度の政府予算案で決まりました。本格的な学級定員(学級編成標準)の引き下げは40年ぶりで、学校関係者にとって画期的なことには間違いありません。ただ、これで「世界一忙しい」とされる教員の労働環境が本当に改善されるのでしょうか。児童一人一人に目を配る余裕をすべての教員が持てるようになるのでしょうか。「35人学級」を手放しで喜んでいいのかどうかについて、お話しします。

「定数改善計画」15年間策定されず

 公立小中学校にどれくらいの人員を配置するかの「教職員定数」は法律(義務標準法)によって決められます。そのうち、学級数などに応じて機械的に算定される「基礎定数」が大部分を占めています。そのため、1学級の定員を何人にするかによって、定数全体が大きく左右され、例えば、1学年に80人の児童生徒がいたとすると、40人学級なら、2クラス(40人+40人)ですが、35人学級なら、3クラス(26人+27人+27人)になり、学級担任が1人増えます。

 教員の数は教育の質に直結することから、文部科学省(2000年までは文部省)は1959年度(当時は50人学級)以来、年次計画を立てて、教職員定数を改善してきました。40人学級を実現したのは1980年度から12年間をかけた「第5次教職員定数改善計画」でした。

 しかし、国の財政難により、2005年度に第7次計画が完成して以来15年間、新たな改善計画は策定されていません。民主党政権の下で、2011年度から8年かけて、中学校まで一律35人学級にすることを目指して、「新・教職員定数改善計画」を概算要求したものの、実現したのは小学1年生だけでした。

 安倍政権への交代後も「教師力・学校力向上7カ年戦略」(2014年度概算)などと手を替え、品を替え、文科省は要求しましたが、財務省の壁が厚くて実現せず、2016年度以降は要求さえ諦め、単年度の定数改善を積み重ねる戦術に変更を余儀なくされています。

コロナ禍で強気に転換

 潮目が変わったのは新型コロナウイルス感染症の拡大でした。全国一斉の臨時休校後、都市部を中心とした多くの学校では分散登校を余儀なくされ、本格的に学校が再開しても、教室で一定のソーシャルディスタンス(社会的距離)を取ることが求められるようになりました。さらに、オンライン授業の必要性から、「GIGAスクール構想」の実施が前倒しされたことで、1人1台の端末を置けるよう、机を大きくする必要にも迫られています。

 そうした背景もあって、2021年度概算要求で文科省は「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」を、具体的な内容や予算額を明示しない「事項要求」として計上。自民党が「30人学級」、公明党が「30人以下学級」の推進を決議するなど与党の動きに後押しされ、萩生田光一文部科学相も30人学級を目指す強気の方針を公言し、予算折衝に臨みました。

40人と30人の間で妥協

 しかし、財務省は「児童生徒当たりの教職員数は実質的に増加している」「学力向上に学級規模の縮小の効果は、ないか、あっても小さい」などと強硬に主張。12月17日の大臣折衝の直前まで、議論は平行線のままでした。

 急転直下で合意した「35人」にしても、現行の40人と30人との間を取った格好です。2021年度の小学2年生から、順次、引き下げを行いますが、そもそも、2年生は指導改善など政策目的に応じて予算措置される「加配定数」によって、実質的な35人学級が実現しています。

 さらに、教員確保に充てる予算が大幅に増えるわけではないことに留意が必要です。今回の35人学級の実現にあたっては、教員の加配定数の一部を基礎定数に振り替えることで、予算増を極力せずに、35人学級を実現することにしています。つまり、教員の総数がそれほど増えるわけではありません。

 そもそも、文科省側が「30人学級」を主張したのも、教員の絶対数を現状維持していけば、少子化で児童生徒数が自然に減っていくため、10年かけて予算を増やさずに30人学級が実現できるという目算があったからでした。そして、小学校以上に教員が多忙とされる中学校が「現状維持」となったことも今後の課題として残されました。

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渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。

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