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結婚相談所で虚偽の職業や年収、うそがバレたら相手への賠償責任は?

学歴や職業、年収などの個人情報を偽った上で、結婚相談所を利用して婚約や結婚に至り、後でうそが発覚した場合、法的責任は生じるのでしょうか。

結婚後に経歴詐称が発覚したら…?
結婚後に経歴詐称が発覚したら…?

 自分に合った結婚相手を探すために結婚相談所を利用する人たちがいます。結婚相談所に入会する際は職業や学歴、年収などの個人情報の提出が求められるケースが多いですが、もし、これらの情報を偽って入会、婚約や結婚が決まったもののその後、うそが発覚した場合、相手への賠償責任が生じる可能性はあるのでしょうか。

 佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

交際や婚約の一つの理由だが…

Q.職業、学歴、年収などの個人情報を偽って結婚相談所を利用し、交際や婚約に至ったものの、結婚前にうそが発覚した場合、民事責任や刑事責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「そもそも、ほとんどの結婚相談所は入会希望者に年収や職業などを証明する資料の提出を求めるケースが多いため、個人情報を偽って利用するのは難しいとは思いますが、ここでは、経歴詐称が相談所側に気付かれないまま、交際や婚約に至ったケースを想定して話します。

まず、虚偽の個人情報を提出しただけでは誰にも損害が及んでいないため、民事上の損害賠償責任を負うことは考えにくいです。一方、相手が虚偽の個人情報を信じて、結婚を前提に交際し、性的な関係を持った場合、貞操権(性的な関係を持つかどうかを自由に決める権利)を侵害されたとして、慰謝料を請求される可能性があります。また、既婚者であることを隠して結婚仲介サービスを受け、婚約に至ったようなケースも相手に大きな精神的衝撃を与えるため、慰謝料の請求が可能でしょう。

しかし、そうした事情がない場合は、年収や職業を偽って婚約にまで至った場合であっても、慰謝料が認められる可能性は高くありません。年収や職業は交際や婚約をする一つの理由にはなっても、それだけが決め手であるとは考えにくく、もし、慰謝料が認められたとしても低額にとどまるでしょう。

また、いずれの場合であっても、個人情報を偽っただけでは刑事責任を問われることはないでしょう。官公職や学位などを詐称すると軽犯罪法に触れる可能性がありますが(1条15号)、この罪により処罰されることは極めてまれです。なお、うそをついて結婚をほのめかし、相手からお金などを巻き上げれば、詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性があります」

Q.では、結婚した後に結婚相談所での経歴詐称が発覚した場合、だまされた側は裁判によって、離婚や慰謝料の請求が認められるのでしょうか。

佐藤さん「結婚後にうそが発覚した場合、うそが『婚姻を継続しがたい重大な事由』(民法770条1項5号)の一つとして考慮され、だました側が離婚を望んでいなくても、裁判によって離婚させられる可能性はあるでしょう。ただし、先述の通り、一般的に、結婚は年収や職業、学歴などだけで決めるものではないため、職業や学歴を偽っていたことだけで、直ちに裁判上の離婚ができるわけではありません。離婚が認められるかどうかは、別居期間が長く続いているかどうかなど、さまざまな事情が総合的に考慮されます。

また、だまされて、ショックを受けた側がだました側に慰謝料などの損害賠償を求めることが考えられますが、先述した通り、実際に賠償責任が認められる可能性は高くないでしょう」

Q.「多額の借金を抱えている」「家族に犯罪歴のある人がいる」などの個人的な事情を隠して結婚相談所を利用し、結婚した場合はどうでしょうか。もし、隠していた事実が発覚し、相手から離婚や慰謝料を求められた場合は。

佐藤さん「先述した経歴詐称の場合と同様、個人的な事情を隠していたことが『婚姻を継続しがたい重大な事由』の一つとして考慮され、裁判によって離婚させられる可能性はあります。実際に裁判上の離婚が認められるかどうかは、隠していた内容の重大性やその他さまざまな夫婦の事情によって異なります。ただし、経歴詐称と同様、慰謝料などが認められる可能性は低いでしょう。

しかし、社会一般の認識として、通常、結婚するかどうかの判断に影響を与えるような事情はなるべく、事前に相談しておいた方がよいと思います。例えば、『多額の借金』については一般的に結婚するかどうかの判断に影響を及ぼす事情といえるため、伝えておいた方が誠実でしょう。

『家族の犯罪歴』など家族の事情については家族のプライバシーの問題もあるため、慎重に判断する必要があります。家族ともよく相談し、伝える場合も、結婚を前提にお付き合いするようになってから、交際相手だけに個人的に伝えるなど、よく検討しましょう」

Q.結婚相談所に紹介された相手によって、経歴詐称などによる何かしらの被害が生じた場合、結婚相談所側が法的責任を問われる可能性はありますか。

佐藤さん「『身元保証』をうたっている結婚相談所が実は証明書の提出を求めていなかったり、チェックがずさんだったりして、経歴詐称などにより、何らかの損害が生じた場合、不十分なサービスの提供をしたとして、結婚相談所が損害賠償責任を負う可能性はあるでしょう。

ただし、結婚相談所として、証明書の提出要求などのやるべきことをやっていたのなら、会員が経歴詐称などの不誠実なことをしたとしても、相談所にその責任を問うのは難しいでしょう。会員がうそをついたり、大切なことを隠したりすることまで、相談所が予測するのは難しいからです」

Q.お見合い相手や交際相手の素性を知るために、事前に探偵などを通じて身辺調査するケースもあるようです。法的に問題とならないのでしょうか。

佐藤さん「身辺調査は場合によっては人権侵害につながる可能性もありますが、探偵業法などの法律で定められたルールを守り、適切な手段、内容の調査を行う限り、違法ではありません。従って、通常、身辺調査を依頼したとしても法的責任を問われることはありません」

Q.婚活の一環で結婚相談所を利用する人が増えているようですが、結婚相談所でのトラブルに関する弁護士への相談件数は多いのでしょうか。

佐藤さん「結婚相談所を巡るトラブルにはさまざまなケースがあり、弁護士への相談も一定数あります。例えば、先述の経歴詐称のケースなど、結婚相談所を介して出会った相手とトラブルになるケースのほか、結婚相談所との間で、サービス内容や金銭を巡ってトラブルになるケースもあります。結婚相談所を利用して何らかのトラブルに巻き込まれた場合、早めに弁護士などの専門家に相談しましょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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