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出社強制の企業で、「コロナ感染防止」を理由に出社拒否できる?

感染したら労災は申請できる?

Q.もし、出社を強制する会社に勤務していて、新型コロナウイルスに感染した場合、会社側に治療費を請求することはできるのでしょうか。また、この場合、労災が認められるのでしょうか。

木村さん「会社の業務中に新型コロナウイルスに感染した場合、会社、もしくは感染した労働者本人が会社を管轄する労働基準監督署に労災を申請することになります。

感染により、労災が認められるケースとしては(1)新型コロナウイルスの感染経路が判明し、業務が原因で感染したものとして認められた場合(2)感染経路が判明しない場合でも、個別の事案ごとに感染経路、業務、または通勤との関連性などの実態調査を行った上で、業務、または通勤が原因で発症したと認められる場合――とがあります。労災認定を受けると治療費や休業補償(給料の一部)は労災保険から支給されます。

これに加えて、会社が感染防止の適切な措置を取らなかったことが原因で労働者が新型コロナウイルスに感染したことが明らかとなった場合は、感染した労働者は会社側の安全配慮義務違反を理由として損害賠償(労災給付がされない部分の休業損害や慰謝料など)を請求することが可能です」

Q.正社員には在宅勤務を認めるのに、派遣社員には認めないというケースもあったようです。こうした差別は法的責任を問われないのでしょうか。

木村さん「改正された労働者派遣法(2020年4月1日施行)では30条の3第1項において、派遣労働者と通常労働者間での均衡待遇を求めています。

また、この件に関して厚生労働省が作成した『短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針』の内容を要約すると、派遣元事業主は派遣労働者が、派遣先で雇用されている通常の労働者と同じ業務環境で仕事を行っている場合は、通常の労働者と同一の安全管理に関する措置、および給付をする義務があるほか、派遣先、および派遣元事業主は労働者派遣法45条などの規定に基づき、派遣労働者の安全と健康を確保するための措置を履行する義務があります。

今回の在宅勤務の目的は『新型コロナウイルスの感染防止』であり、職場の安全管理上必要な措置です。そのため、派遣労働者のみ在宅勤務を認めない行為は先述の法律、および指針に対する違反となります」

Q.在宅勤務に否定的な経営者は「組織力の低下」「業績低下」などを理由に挙げます。そうした経営者はコロナ禍でどのようなことを心掛けるべきなのでしょうか。

木村さん「確かに(1)在宅勤務を導入するのに必要な業務手順やセキュリティー確保など運営上必要な事項を構築するのが煩雑(2)従業員同士がお互いに職場で顔を合わせることがないため、コミュニケーション不足となり、特に上司は部下の指導が難しくなるため、その結果として、仕事の質、業績の低下につながる――などの理由で在宅勤務を導入しない会社もあります。

しかし、在宅勤務は新型コロナウイルスのような感染症の予防につながるだけではなく、『台風、地震などの災害時でも事業が継続しやすい』『オフィスの規模を小さくすることでコストが削減できる』『人材確保がしやすくなる』などのメリットもあります。今後の会社運営を考えると、会社に合った形での在宅勤務制度を導入することを検討する余地はあるでしょう」

(オトナンサー編集部)

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木村政美(きむら・まさみ)

行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

1963年生まれ。専門学校卒業後、旅行会社、セミナー運営会社、生命保険会社営業職などを経て、2004年に「きむらオフィス」開業。近年は特にコンサルティング、講師、執筆活動に力を入れており、講師実績は延べ700件以上(2019年現在)。演題は労務管理全般、「士業のための講師術」など。きむらオフィス(http://kimura-office.p-kit.com/)。

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