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仕事をせず親に暴言…30代ひきこもり次女の心を開く母親の“共感”アプローチ

親が、ひきこもりの子どもと将来のことを話し合おうとしても、拒絶されるケースがあります。その場合、子どもにどう接するべきなのでしょうか。

ひきこもりの子が会話を拒絶するケースも…
ひきこもりの子が会話を拒絶するケースも…

 ひきこもりのお子さんが30代後半を迎えたら、親子で将来のお金の見通しを話し合い、今からできる対策を検討する必要があります。しかし、ご家族の中には「親の話を聞いてくれず、まったく会話にならない」といった状況に陥るケースもよく見受けられます。筆者に相談を依頼した、ある母親も同じような状況でした。

一日のほとんどを自分の部屋で…

 面談当日、母親はひきこもりの次女のことではなく、長女のことから話し始めました。

「長女は小さい頃から、親の言うこともよく聞き、勉強もできました。今は結婚して、子どももいます。親としても何の不満も不安もありません」

 母親は一息つくと急に顔をゆがめ、いら立ちを隠せない様子で言いました。

「それに比べ、次女は勉強も運動も平均以下で親としても心配が尽きませんでした。就職はせず、20代の頃に幾つかアルバイトをしていたこともありましたが、いずれも長続きしませんでした。30歳を超えた今は仕事もせず、毎日、家の中にいます。私や夫と顔も合わせたくないようで、自分の部屋で一日のほとんどを過ごしています。こちらから話しかけても暴言を吐くだけで会話になりません。一体何を考えているんだか…親の言うことを聞いてきた姉を少しは見習ってほしいものです」

 その後、母親は筆者に次のように訴えました。

「親の話を聞くように、先生(筆者)からも次女を説得してもらえませんか?」

「う~ん、そうですね…話が少し脇にそれてしまうかもしれませんが、私の考えも聞いていただけますか?」

 母親は「どうぞ」というように軽くうなずきました。

変わるべきは誰なのか?

 筆者は母親を見据え、ゆっくりとした口調で話しました。

「周りから圧力をかけて、娘さん(次女)を変えたとしても、それは一時的なものだと思います。娘さんが本心から、『親の話を聞いてみよう』と思わない限り、また元の状態に戻ってしまうでしょう。私が娘さんを説得するのは難しいと思います」

 すると、母親は憤慨した様子で言いました。

「じゃあ、どうすればよいのですか?」

「親子関係を修復することから検討してみてください。関係が悪化したままでは、何を言っても聞く耳は持ってくれないことでしょう。遠回りのように感じるかもしれませんが、まずは『娘さんが暴言を吐かざるを得ない気持ちを考え、それに理解を示す』といった演習から始めてみるとよいかもしれません」

「それは暴言を受け入れろということですか?」

「いいえ、違います。暴言や暴力は絶対に受け入れてはダメです。受け入れるのはあくまでも『娘さんの気持ち』です。『なぜ、暴言を吐いてしまうのか』『暴言を吐くときのきっかけは』『そのとき、娘さんはどんな気持ちだったと思われるのか』といったことをメモに残していくとよいでしょう。よろしければ、私の方で記入用シートを作成しますので、後日、お渡ししましょうか?」

「そうですねえ…でも、それだけで次女との関係は改善するのでしょうか?」

「気持ちに理解を示すだけでは難しいと思います。関係を改善していくためには、お母さまにはさらなる演習をお願いすることになります。演習は徐々に娘さんに接していくものになっていますが、そのやり方は演習をクリアするごとに私がお教えします」

「それで効果は表れるのでしょうか?」

「あるご家族のケースになりますが、演習を通して親子関係を修復し、その後、話し合いをした結果、お子さんがアルバイトを始めたといったこともありました。しかし、もちろん、すべてのご家族で同様の効果が表れるとは限りません。また、変化が起こるとしてもそれまでにはかなりの時間がかかるでしょうし、忍耐も必要になります。もし、お母さまが娘さんの態度に腹を立てて苦言を呈すれば、それまでの努力は水の泡になってしまいます。お母さまにそこまでする覚悟はありますか?」

 そこまで聞いた母親は黙り込み、しばらくして、ぽつりとつぶやきました。

「主人とも相談してみます。もう少し考えさせてください…」

 その日の面談は終了しました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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