オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

不祥事起こした芸能人、警察署前での謝罪が会見代わりになった?

逮捕された芸能人の謝罪会見を最近は見ません。警察署前で謝罪をする光景をよく目にしますが、この警察署前での謝罪が謝罪会見の代わりになりつつあるのでしょうか。

湾岸署前で謝罪する伊勢谷友介被告(2020年9月、時事)
湾岸署前で謝罪する伊勢谷友介被告(2020年9月、時事)

 違法薬物使用などの容疑で逮捕された芸能人が釈放や保釈後、警視庁東京湾岸警察署(湾岸署)の正面玄関で多数の報道陣に向かって謝罪する光景を最近、よく目にします。ところで、逮捕されるような不祥事を起こした芸能人は以前は後日、謝罪会見を行うことが多かったように思いますが、この正面玄関での謝罪が行われるようになってからは会見が行われなくなったようにも見受けられます。

 警察署前での謝罪が謝罪会見の代わりになりつつあるのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

記者会見にこだわらず、謝罪する時代に

Q.昔は芸能人が不祥事を起こすと、謝罪会見を開くことが多かったですが、最近は行われなくなったように思います。芸能人が不祥事を起こしても、謝罪会見を行うことが減っているのでしょうか。

山口さん「芸能人の謝罪会見は減っていると思います。例えば、今年10月29日、バイクに乗っていた男女2人をひき逃げしたとして、道路交通法違反(ひき逃げ)などの容疑で逮捕された俳優の伊藤健太郎さん(同30日に釈放)、9月8日に大麻を所持していたとして逮捕、起訴された俳優の伊勢谷友介被告、6月に複数の女性との不倫が報じられたお笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建さんはいずれも謝罪会見を行っていません」

Q.なぜ、謝罪会見が減っているのでしょうか。

山口さん「会見が減った理由の一つはコロナ禍だと思います。それに関連したニュースが毎日、数多く報道されているので、芸能人の不祥事報道に対する注目度は相対的に下がっています。メディアも以前ほど強く、記者会見の開催を要求しないようです。感染リスクを避ける意味合いもあるのかもしれません。

コロナ禍だけが原因ではなく、近年、謝罪会見をしない、またはする場合も釈放直後ではなく、起訴・不起訴の処分が決まってから、あるいは判決が出てからというケースもあるようです。例えば、お笑いコンビ・ノンスタイルの井上裕介さんは2016年12月11日、自身が運転する乗用車がタクシーに接触する事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(過失致傷)、および、道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検されました。そして、2017年3月6日に不起訴処分となり、処分決定後に謝罪会見を行いました。

2000年代は通常、釈放・保釈された直後に謝罪会見が行われました。例えば、2009年に覚せい剤取締法違反の罪で起訴された女優の酒井法子さんは、勾留先の湾岸署から保釈された当日に謝罪会見を開いています。その後の2010年代はほとんど誰でもSNSを使えるようになった時代です。芸能人の不祥事についてもさまざまな投稿がSNS上で行われ、芸能人の中にも、記者会見だけが謝罪の方法ではないと考える人たちが出てきているのだと思います」

Q.逮捕され釈放された芸能人が湾岸署の正面玄関で謝罪をする光景を最近、よく目にします。この警察署前での謝罪が謝罪会見の代わりになりつつあるのでしょうか。

山口さん「謝罪会見の代わりにしているのではないかと思われるケースも出てきています。きっかけと言えるかどうかは分かりませんが、湾岸署前はメディアが取材しやすい場所のようです。入り口が広く造られており、署から出てきた様子を撮影しやすいのです。周囲の交通量があまり多くないことに加え、近隣に住宅街や商業施設もありません。

俳優のピエール瀧さんが昨年4月4日に湾岸署から保釈された際、200人以上もの報道陣が集まったそうです。ピエール瀧さんは昨年6月18日、麻薬取締法違反の罪で執行猶予付きの有罪判決を受け、その後、確定していますが、謝罪会見はしていません。

しかし、湾岸署から保釈されるとき、正面玄関から出てきて報道陣に向かい、『このたびは私、ピエール瀧の反社会的な行為により、大変多くの皆さまにご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。誠に申し訳ございませんでした』と謝罪し30秒近く、深く頭を下げています。本人はこれが謝罪会見であったと考えているのかもしれません。伊藤健太郎さんの場合も、湾岸署からの釈放時に同様のスタイルで謝罪が行われました」

Q.警察署前での謝罪はこれまでの謝罪会見の役割を果たしていると思われますか。思われませんか。

山口さん「記者との間で質疑応答が行われない場合は記者会見ではありません。とはいえ、トランプ大統領でさえ、一切質問を受け付けずに会見場を後にすることもありますね。記者の質問に回答しなければ、アメリカの大統領であれ、日本の芸能人であれ、国民が知りたいことは明かされないと思います。

一方、釈放・保釈される芸能人が警察署前の謝罪を謝罪会見と考えるとすれば、これほど気が楽な“記者会見”はありません。硬い表情で自分の言いたいことだけを言い、深く頭を下げればよいのです。長くても数分でコトは済みます。記者から質問が投げられても、回答は期待されていません。

これがもし、本来の謝罪会見だとしたら謝罪だけでは済みません。自ら話すか、記者の質問に答えるかして、なぜ、このような事件を起こしたのか、被害者がいる場合はどう対応するのか、どのようにして再発を防ぐのか、今後の芸能活動はどうするつもりなのかなどの説明をしなければなりません」

1 2

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

コメント