電子決済普及で「お釣り」が分からない子ども増加? 大人になって困らない?
「電子決済の普及で『お釣り』の概念が分からない子どもが増えている」という投稿が話題になっています。将来、困ることはないのでしょうか。専門家の見解を聞きました。

「電子決済の普及で『お釣り』の概念が分からない子どもが増えている」という投稿がSNS上で話題になっています。親と買い物に行っても、スマホやカードで電子決済をしている姿しか見ておらず、「お釣りを受け取る」という姿を見ていないため、というのが理由のようです。「お釣り」という概念が分からないと、大人になってから困ることがあるのではないでしょうか。国際教育評論家の村田学さんに聞きました。
「お金の価値」分からなくなる恐れ
Q.「『お釣り』の概念が分からない子どもが増えている」というのは事実でしょうか。
村田さん「事実です。家庭の買い物において、決済(支払い)の方法が主に電子マネーやクレジットカードとなり、現金を使用する機会が減りました。そのため、お釣りを受け取る回数が減り、それに伴って、多くの子どもたちにとっても『現金』と『お釣り』という現物貨幣の存在感が薄れているのです。
日常生活でも、電車にSuicaなどの電子マネーで乗ることはもちろん、飲み物もSuicaで、買い物もスマホやSuicaでできます。そのため、足し算・引き算・掛け算・割り算という四則演算の計算力は学校や塾で育てられても、本当に算数の力が必要とされる現実の場面での計算力が弱っていると考えられます。お釣りをすぐに計算できない小学生も増えています。
価格と消費税、お釣りの四則演算が電子決済を使うことによって、いわば『ブラックボックス化』しているのです。また、『その価値が貨幣でいくらか?』という値段の仕組みも推測することができなくなっています。
さらに、電子決済のキャッシュバックキャンペーンなどで、コンビニでも電子決済が当たり前になりました。ポイントがたまることもあり、『電子決済=ポイントもたまるし、お得』と考えて、『子どもの支払いも電子決済にしよう』と考える家庭が増えています。コロナ禍もあって、現金を触らなくて済むようキャッシュレス決済が増えたことも『お釣りの概念の消失』に影響しています」
Q.「お釣り」が分からないことで、日常生活に支障はあるでしょうか。
村田さん「現金によるお釣りの受け渡しの経験がないと、貨幣の価値が曖昧になります。例えば、大人は『1万円で何が買えるか』をすぐに思い浮かべることができます。それは10円、100円で何と交換できるのかという『貨幣価値』を身に付けているからです。
お釣りの概念がないと、貨幣の価値を自分の中で捉える経験が少なくなります。硬貨や紙幣を持って、物やサービスに対して対価を払い、お釣りを受け取る。数学的な意味だけではなく、『貨幣価値』を知ることはファイナンスリテラシーの面でも重要です」
Q.大人になってから、困ることもあるのでしょうか。
村田さん「将来的には現金がなくなり、全面的に電子決済に進むと考えられます。一見、『お釣りが分からなくても困らないのでは?』と考えてしまいそうですが、お釣りが分からないまま大人になると、電子通貨の価値に対する信頼を持てるかという点で困ると思います。
お釣りを受け取った体験があれば、紙幣や硬貨が電子マネーに発展しているという原体験があることになります。発行元が日本銀行や財務省という信用があるからこそ、貨幣価値が成り立っていると理解できます。
お釣りが分からないことで大人になってから困るのは『貨幣』にその『信頼』があるのか、分からないことです。原理を知らないままお金を使うと、お金の価値が分からず、無駄遣いをしてしまう可能性があります」
Q.お釣りが分からない子どもにお釣りのことを教えるべきでしょうか。教えるとすれば、どのようにすべきでしょうか。
村田さん「お釣りが分からない子どもには、硬貨や紙幣の使用を体験させる必要があります。日常的には電車やバスに乗るとき、子どもに交通費を渡して、自分で切符を買って、お釣りが正しいかを計算させる癖をつけさせたいですね。暗算が得意になり、バス料金と電車料金の比較など、乗り物の値段の違いから、社会の仕組みも理解できます。
家族で楽しみながら節約にも役立てる方法としては、例えば、『1週間食費3000円プロジェクト!』など、一緒に食費を現金で支払って、お金の使い方を学ぶ方法もあります。お釣りという貨幣価値の概念をゲーム化すると『お札が何枚、100円玉がいくら』と、見て触って貨幣価値を体験することができます。
さらに、現金で支払うともらえるポイントも経験させることで、電子決済やポイント制度という疑似通貨も現金を基準にしてできていることが理解できます。ポイントにしても、例えば、『100ポイントは100円玉5枚の価値があり合計500円。お昼ご飯が食べられるな』と、日常生活の貨幣価値と結び付けて考えられるようになれば、お金を無駄遣いせず、基本のファイナンスリテラシーを体得したといえるでしょう。
子どもが小学生になると、親は子ども用携帯電話と一緒に、万が一に備えて、電話代とSuicaなどを持たせることが増えました。習い事などの行き来の途中で、『喉が渇いたら、これで買っていいから』とSuicaなどを渡すようです。家庭によっても異なりますが、『現金を持たせると危険』という先入観が子どもにお金を持たせない傾向と電子決済の普及を加速していると考えられます。
しかし、これまで述べてきたように、ポイント化した貨幣価値にごまかされないよう、お釣りの1円、10円の重さ、形を知ることは重要です。私自身も、自分の娘には、まずはSuicaを渡さず、『新宿まで180円。では1駅分はいくらなのか?』『ジュース1本の値段や電車の運賃の値付けはどのような意味があるのか?』などをリアルなお金で体験し、貨幣価値を体得できてから、Suicaなどを渡したいと考えています」
(オトナンサー編集部)
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