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11月11日の中国「独身の日」とは? イベントで大騒ぎをする理由は?

11月11日、中国では「独身の日」として大騒ぎをしている様子がニュースで流れます。独身の日とはどういう日で、なぜ、大騒ぎしているのでしょうか。

昨年の「独身の日」イベントの様子(2019年11月、時事)
昨年の「独身の日」イベントの様子(2019年11月、時事)

 11月11日は中国の「独身の日」です。毎年、イベント会場で、数字が並ぶカウンターが表示されて大騒ぎをしている様子がニュースで流れますが、そもそも、どういう日で、なぜ、大騒ぎをしているのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

「独身者の悲哀」から巨大通販セールへ

Q.「独身の日」とは、どういう由来で始まった、どういう日なのでしょうか。

青樹さん「11月11日は中国では、ネット通販のセールが大々的に行われて、大きな盛り上がりを見せる日です。

11月11日がなぜ、『独身の日』かというと、『1』が並んでいる、つまり、『1人』が並んでいる日だからです。もともと、中国語では『光棍節(こうこんせつ)』と言っていました。中国語で『棍』とは、つるつるに光る棒を意味しますが、『光』には『何もない』という意味もあります。枝葉(えだは)がない、つまり、『独身、独り身』という意味につながるのです。この日は『独り身の節』『独り身の者のお祭り』だったのです。

それがなぜ、盛大なネット通販セールの日になったのか。その発端については諸説ありますが、代表的な説は1993年に南京大学の学生たちが始めたというものです。宿舎のベッドで行われる雑談会で『俺たちは独身で恋人もいない。将来必ず結婚できるとも限らない。プレゼントする相手もいない。そんな寂しい自分に何か買ってあげよう』というアイデアが出てきて、若い世代を中心に自分へのプレゼントを買う習慣が広まっていったというものです。

つまり、『独身者の悲哀』から始まった習慣なのですが、そこに目を付けたのが中国のネット大手アリババです。アリババは2009年11月11日に大規模なネットセールを実施して、『独身諸君、自分のために何かを買おうじゃないか!』と呼び掛けました。その2009年の売り上げが5000万元、1元=16円で計算すると日本円で8億円ほどでした。その後、年々すさまじい勢いで売り上げを伸ばし、2018年は2135億元(約3兆5000億円)、2019年には2680億元(約4兆1000億円)にまで拡大しました。

日本の通販市場と比較すると、いかに巨額かが分かると思います。例えば、アマゾンの日本における2019年の売上高は約1兆7425億円とのことですので、それを1日で上回るわけです」

Q.中国では独身の人がそんなに多いのでしょうか。

青樹さん「中国では成年の独身者がおよそ2億4000万人いるとされます。日本の総人口の2倍近くです。中国では彼らの消費活動が注目されており、消費のポテンシャルは非常に高く、『おひとりさま経済』を創出していると言ってもいいくらいです。

独身者、特に男性の独身者が多いのは中国が過去に実施していた『一人っ子政策』が影響しています。『子どもは一人だけ』となると、中国人の伝統的考え方として男の子を欲しがります。老後は子どもが親の面倒を見るという考えや、農村での労働力として男児が期待される風潮が強く、女の子と分かると中絶してしまうなど、結果として男性の方が大幅に女性より多くなりました。

1980年代の出生比率は女性100に対して男性136、その後、徐々に差が縮小しましたが、それでも、2014年で女性100に対し男性115でした。そうなると、結婚は競争です。受験戦争を勝ち抜き、就職も勝ち抜いたのに、その後続く結婚でも競争が待っている。勝たないと結婚できないわけです。2020年以降、3000万人から4000万人の男性が結婚相手を見つけられなくなるといわれています。

こういう社会背景の中で生まれたのが『独身の日』で、独身男性の圧倒的な支持を得たのです」

Q.セールは独身の人だけが対象なのでしょうか。

青樹さん「セールでは最初、独身男性向けにメッセージを出していましたがもちろん、独身の人に限るというわけではありません。『独りぼっちの自分へのプレゼント』からどんどん広がって、今では『独身の日』というより『ネットショッピングの日』になっているのが現実で、『光棍節』よりも『ダブルイレブン』、中国の表記では『双11』といった方が通りがいいようです。

中国は国土が広いので、地方都市や農村部ではネット通販が早くから普及していました。その中でアリババがセールを仕掛けてきました。いろいろな会社、売り手がこの日を狙って、いろんな限定品、おすすめ品をネットに出すのです。若年層以外にも利用者が広がり、大きな買い物を考えている人はこの日を待って買う人も多いようです」

Q.なぜ、大騒ぎになっているのでしょうか。

青樹さん「アリババはこの日、というか正確には11月10日の夜から一大イベントを行います。カウントダウンから始まって、11日午前0時を過ぎた時点で、売り上げ数字をデジタルカウンターで発表していきます。2019年は開始14秒で10億元、1分36秒で100億元を超えました。先日、アメリカの大統領選が盛り上がっていましたが、選挙の開票速報やスポーツ中継のような高揚感、陶酔感を人々に与えていると思います。娯楽に近い感覚で大騒ぎになっているのです」

Q.「独身の日」は中国以外にも広がっているのでしょうか。

青樹さん「中国の枠を超えて、韓国版やシンガポール版も行われています。中国の独身の日セールについても、ネット通販ですから、台湾や香港はもちろん、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、日本などから購入する人が多くいます。外国の商品で圧倒的に人気が高いのは日本製品で、他にはアメリカ製品、韓国製品も購入されています。すでに多くの日本企業がダブルイレブンのセールに出店しています」

Q.今年は新型コロナウイルスが中国で最初に大流行しました。現在は下火になっているようですが、独身の日には影響するのでしょうか。

青樹さん「影響大だと思います。日本でも『巣ごもり需要』という言葉が生まれましたが、中国でも新型コロナによる都市封鎖(ロックダウン)中、ネット通販の売り上げが大幅に伸びました。今年の11月11日はこれまでよりもすごい数字を記録するに違いないと思います」

Q.将来的にも「独身の日」の盛り上がりは続きそうでしょうか。

青樹さん「今後も盛り上がりは続くでしょう。下火になる理由が見当たりません。独身者たちがけん引した11月11日ですが、今後も『おひとりさま経済』が中国の消費を支えていくと考えられます。独身者層はとにかくお金を使います。先述しましたが、独身の人たちだけで日本の総人口の約2倍です。その人たちが盛大にお金を使うわけで、日本企業も彼らの動向をこれからも注視する必要があると思います」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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