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中国人保護者が日本の「給食」に驚き、感動する理由

中国人の保護者が日本の学校の給食風景を見ると、驚いたり、感動したりするそうです。中国の学校の事情が大きく異なるからですが、どのように異なるのでしょうか。

中国の小学校の食事風景(2017年2月、AFP=時事)
中国の小学校の食事風景(2017年2月、AFP=時事)

 日本の多くの小中学校で「給食」といえば、教室で児童と先生が一緒に食べる風景を思い浮かべると思いますが、この風景を中国人の保護者が見ると、驚いたり、感動したりするそうです。日本と中国の学校では、昼食事情や昼食そのものへの考え方が大きく異なるからです。一体どのように異なるのでしょうか。日中の異文化ギャップを数多く取材している筆者が紹介します。

日本と同形式の「給食」はない

 9月上旬、中国のSNSで日本の小学校の給食に関する動画が出回り、大きな話題になりました。その動画とは「給食当番」の小学生がおそろいの白衣やマスク、帽子を身に着けて、クラス全員分の給食を配膳し、担任の先生も一緒に同じメニューを食べる、日本人にとってはごく日常的な風景でした。

 しかし、それを見た中国人の保護者からは「驚いた。日本の給食はなんて素晴らしいんだ!」という感動の声が上がったのです。なぜ、中国人は日本の給食の様子を見て、そんなに驚いたのでしょうか。それは、日本と中国の学校で昼食の様子があまりにも違うからです。

 中国も小中学校は義務教育ですが、中国の公立学校には基本的に日本の小学校と同じ形式の「給食」は存在しません。ごく一部の学校には導入されていると聞きますが、全国的に見れば、そうした制度は整っていないからです。学校の昼食事情は地域によって違いがあり、一概にはいえません。地方都市や農村部の小中学校などでは、昼食時間になると、一度家に帰って昼食を食べ、午後に再び登校するのが一般的です。

 大都市部では、学校内に食堂が設置されていることが多いです。多くの食堂はバイキング形式で、食堂でトレーを持って並び、スープ、ご飯、おかず2種類くらいを盛り付けてもらうスタイルです。あるいは、食堂に行って、あらかじめ用意されている温かい弁当を食べるところもあります。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降は、仕切りのあるテーブルで子どもたちがお弁当を食べている姿が日本でも報道されました。

 人数の多いマンモス校の場合は食堂の席が限られているため、学年によって時間差を設けることもあると聞きますが、基本的に、子どもたちは好きな席でそれぞれ自由に昼食を取ります。先生は先生専用の食堂に行くか、あるいは、子どもたちと同じ食堂でも子どもたちとは別々に食べます。

 小中学校ではありませんでしたが、筆者も北京にある公立高校と上海にある私立高校の昼食を見学させてもらったことがあります。訪問した北京の公立高校はバイキング形式、上海の私立高校は外部の業者が運んでくる温かい弁当が昼食でした。

「昼食は単なる食事」

 中国の学校で共通しているのは「昼食は単なる食事であり、午後の授業に向けておなかを満たすもの」という認識です。日本のように「学校給食も教育の一環」という考え方は中国にはありません。中国の学校では勉強が最優先であり、それ以外のことはほとんど重視されてきませんでした。朝夕の集団での登下校や給食、掃除当番、クラブ活動などの時間も中国には基本的には存在しません(ごく一部の学校にはクラブ活動はあります)。

 一方、日本では給食の時間も「大切な学びの時間」と考えています。配膳係が中心となって給食を配り、子どもたちは全員一斉に「いただきます」というあいさつをしてから食事を始めます。

 自分が与えられた役割に対する責任や食材への感謝、協調性を学ぶだけでなく、栄養価やバランスを考えた給食を毎日食べることによって、自然と好き嫌いもなくなります。先生も同じ教室で一緒に食べるため、子どもたちの様子がよく分かりますし、何より、子どもたちにとって給食は学校生活の楽しい時間の一つです。

 そうしたことは、日本では誰もが幼い頃から体験してきた「ごく当たり前のこと」ですが、中国では違うのです。2019年3月、四川省成都市の小学校で、食堂の食材にカビが生えていたという事件があり、大騒動になったことがありました。保護者たちは「学校給食が『まずい』というだけでも不満なのに、食材にカビが生えているなんて言語道断」と怒り、抗議デモに発展しました。

 そうした環境にあるからこそ、中国人は日本の学校給食の動画を見て驚き、「素晴らしい」「理想的な昼食風景」という感嘆の声を上げたのです。

(ジャーナリスト 中島恵)

中島恵(なかじま・けい)

ジャーナリスト

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学留学。中国、香港、韓国など主に東アジアの社会、ビジネス事情などについて執筆している。著書は「なぜ中国人は財布を持たないのか」「日本の『中国人』社会」「中国人は見ている。」(いずれも日本経済新聞出版社)「中国人エリートは日本をめざす」(中央公論新社)「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(プレジデント社)など多数。

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