営業妨害? 堀江貴文さん投稿→いたずら電話で休業…お店は賠償請求できる?
有名人の投稿がきっかけで、自分が経営する店が休業に追い込まれた場合、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。
実業家の堀江貴文さんの投稿をきっかけとしたいたずら電話などで、あるギョーザ店が休業に追い込まれ、波紋を広げています。
事の発端は堀江さんらが9月に同店を訪れた際、同行者の一人がマスクを着用していなかったため、店側が入店を拒否したことでした。その後、堀江さんがフェイスブック上で、店名を特定できるような書き方で「マジやばいコロナ脳。狂ってる」などと対応を批判したところ、店側もブログで反論。論争に発展し、当事者以外からの店への誹謗(ひぼう)中傷やいたずら電話が相次ぎました。結局、店はいたずら電話により注文や予約が受けられないことや店主の妻の体調不良を理由に店を休業すると発表しています。
この騒動について、ネット上では「店のルールに従うべきだ」「店主は悪くない」「営業妨害」「クレーマー以外の何者でもない」などの批判が殺到しています。有名人の投稿がきっかけで損害を被った場合、賠償を請求することは可能なのでしょうか。白石綜合法律事務所の宮崎大輔弁護士に聞きました。
書き込みは受忍限度を超えない
Q.今回のケースでは、堀江さんの投稿ときっかけとした誹謗中傷やいたずら電話で、ギョーザ店が休業に追い込まれました。この場合、店側は賠償を請求することはできるのでしょうか。
宮崎さん「店主個人として訴訟を起こす場合は、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が可能で、店の名前で訴訟を起こす場合は、財産的損害は民法709条、財産以外の損害は民法710条に基づく損害賠償請求が可能です」
Q.では、賠償を請求することができるのは、いたずら電話などをして店の営業を妨害した人に対してでしょうか。それとも、そのきっかけをつくった堀江さんに対しても請求は可能なのでしょうか。
宮崎さん「先述の損害賠償請求は堀江さん本人、いたずら電話などをした人たちどちらにもできます。もっとも、裁判所がそれらの損害賠償請求を認めるとは限りません。不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、『受忍限度』を超えた違法な権利侵害行為であることや、侵害行為と損害の間に因果関係が認められることなどが必要です。
堀江さんの書き込みには『店に行くな』『つぶれろ』『(料理が)まずい』など直接、店の営業を妨害するような書き込みはありません。『マジやばいコロナ脳。狂ってる』という書き込みは確かに誹謗中傷的な表現ですが、対象が完全に特定されておらず、堀江さんが有名人であることを加味しても、この書き込みが受忍限度を超えた違法な権利侵害行為であると断定するのは難しいと思います。
また、今回、店が休業した直接の原因はいたずら電話などをした人たちの行為によるものですから、堀江さんの書き込みと店の休業に直接の因果関係があるとまではいえないと思います。確かに、店を容易に推測できる書き込みをした堀江さんは軽率だと思いますが、『裁判所が損害賠償請求を認めるのか』という観点から見ると厳しいものがあります。
次に、いたずら電話などをした人たちについてですが、その行為が受忍限度を超えた違法な権利侵害行為であるかどうかがポイントになると思います。この受忍限度を超えるかどうかは回数、期間、いたずら電話の内容など個別具体的な事実関係によるため、一概にはいえませんが、一般論として、数回のいたずら電話を店にかけただけでは、受忍限度を超えた行為であると認められる可能性は低いのではないでしょうか」
Q.店への誹謗中傷やいたずら電話などで営業妨害をした人や、そのきっかけをつくった堀江さんの行為はどのような罪に該当する可能性があるのでしょうか。
宮崎さん「店への誹謗中傷やいたずら電話などで営業妨害をした人には、その行為態様次第でさまざまな罪に該当する可能性があります。例えば、偽計業務妨害罪(刑法233条)、威力業務妨害罪(同234条)、脅迫罪(同222条1項、同2項)、名誉毀損(きそん)罪(同230条)などです。
一方で、堀江さんについては、一連の行為に店の業務を故意に妨害する意図があったとは言い難く、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪に該当する可能性は低いと思いますし、その他の罪についても成立する可能性は低いと思います」
Q.ネット上では、店の入店拒否について「飲食店は客を拒否できない」「客の基本的人権が侵害された」といった意見も寄せられましたが、本当にそうなのでしょうか。また、「マスクの未着用」を理由に入店を拒否する行為は正当性が認められるのでしょうか。
宮崎さん「公共の建物ではない建物については、その所有者ないし管理者は法令などに反しない限り、その所有ないし管理する建物内に誰を立ち入らせて、誰を立ち入らせないかを自由に決定することができるのが原則ですので、今回、店が入店を拒否する行為は正当です。しかも、店側は新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための入店ルールを掲示していたわけですから、店の対応には何の問題もありません」
Q.今回のケースのように、ネット上で影響力のある人物による投稿がきっかけで、自分が経営する店に損害が出た場合、どのように対処すべきなのでしょうか。
宮崎さん「具体的な投稿内容次第ですが、まず、投稿内容をスクリーンショットなどで保存した上で、弁護士に相談して対応を一任することが一番だと思います。残念ながら、今回は店主がブログで反論したことも炎上の大きな原因となってしまいました。独断で反論することは避けた方がよいと思います」
Q.有名人による投稿に限らず、飲食店への悪質な投稿に関する事例・判例はありますか。
宮崎さん「いわゆる『食べログ事件』の判決(札幌地裁2014年9月4日判決)が有名です。札幌地方裁判所は、食べログの口コミ投稿について『原告の飲食店は広く一般人を対象にして飲食店業を行っているのであるから、個人と同様に情報をコントロールする権利を有するものではない。飲食店側が望まない場合に、これを拒絶する自由を与えてしまえば、得られる情報が恣意(しい)的に制限されることになってしまう』という趣旨の理由を述べて、原告は敗訴しました。
ただし、この判決は悪質な投稿の削除を認めなかったのではなく、『口コミサイトに載せるかどうかのコントロール権はあくまで店側にあるべきだから、“店舗情報そのもの”を削除すべきだ』という原告の主張を退けたものです」
(オトナンサー編集部)
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