オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

山口達也元メンバー逮捕報道、「依存症」に苦しむ人に影響はないのか

アルコール依存症や薬物依存症の可能性がある芸能人について、マスコミが大々的に報じる傾向があります。こうした報道は、依存症に苦しむ人にどのような影響を与えるのでしょうか。

報道が依存症の人に与える影響は?
報道が依存症の人に与える影響は?

 アイドルグループ・TOKIOの山口達也元メンバーが道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで9月22日に逮捕され、波紋を広げました(24日に釈放)。山口元メンバーは2018年の未成年女性への強制わいせつ事件など、以前から酒にまつわるトラブルを起こしており、アルコール依存症の可能性が指摘されています。

 ネット上では「こんな人だとは思わなかった」「自己管理がなっていない」と批判する意見がある一方で、「見せしめにしているようで恐怖を感じる」「自殺しないか心配」「依存症は意志でどうにかなるものではない」といった意見も寄せられました。

 アルコールや違法薬物など、有名人の依存症についてテレビや新聞では大々的に報じられる傾向にありますが、こうした報道は同じ依存症で苦しむ人にとって、どのような影響があるのでしょうか。報道番組の制作にも詳しい広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

過剰報道は偏見を助長

Q.芸能人や有名人の依存症(違法薬物やアルコールなど)と思われる事例が大々的に報じられる傾向にあります。こうした報道は同じ症状に苦しむ人にとって、どのような影響を与えるでしょうか。

山口さん「過剰な報道は依存症に苦しむ本人や家族に肩身の狭い思いをさせるのに加え、依存症に対する社会の偏見を助長する可能性があります。山口達也元メンバーの逮捕の事件については、発生当日の午後に速報ニュースとしてテレビにテロップが流れ、その後、1週間近くにわたり、ニュースや情報番組で繰り返し報道されました。あるワイドショーは事件翌日、このニュースに40分ほど費やしていました。

厚生労働省のホームページには『依存症は、飲酒や薬物使用、ギャンブルなどの行為を繰り返すことによって脳の状態が変化し、自分で自分の欲求をコントロールできなくなってしまう進行性の病気』だと記載されています。周囲がいくら責めても、本人がいくら反省や後悔をしても繰り返してしまうのは、『自分に甘い』とか『意志が弱いから』とかではなく、いわば脳内にできた回路の問題とのことです。

特に、アルコール依存症は条件さえそろえば、誰でもかかる可能性があり、厚労省によると、日本で多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人は440万、治療の必要なアルコール依存症の患者は80万人いると推計されています。

依存症に共通することは『家族とのけんかが増える』『生活リズムが崩れる』『体調を崩す』『お金を使いすぎるなど何かしらの問題が起きているのにもかかわらず、ほどほどにできない、やめられない状態に陥っている』ことだそうです。ちなみに、山口元メンバーはアルコール依存症であることを認めていないそうですが、依存症は本人には明確に認識できない病気でもあります。

このように、依存症に苦しむ本人や家族は少なくありません。度を過ぎた報道で依存症の人やその家族をさらに苦しめたり、社会の偏見を助長したりするようなことはあってはならないと思います」

Q.情報番組の中には、司会者やコメンテーターが山口元メンバーの行為を厳しく批判するケースも見られました。司会者やコメンテーターの発言が影響を及ぼす可能性はありますか。

山口さん「情報番組の司会者やコメンテーターの発言は内容次第で弊害にもなれば、啓発にもなると思います。放送作家の高橋秀樹氏によると、コメンテーターとして重要な資質は『情報を持った専門家、笑いの取れる人、気の利いた印象批評が言える人、一般視聴者の心情を代弁できる人』だそうです。コメンテーター一人一人がこれらすべての資質を持つとは思えないので、時には不用意な発言や専門外の発言も出て、世論形成においての弊害が指摘されることもあります。

今回の一連の放送の中で『前夜深酒をしていたのに、何で朝早くから出掛けたのだろう』との疑問に対して、あるお笑い芸人は山口元メンバーが大きなリュックサックを背負っていたことから、『デリバリーのバイトで、突然、声がかかったのでは?』と発言しました。確かに、笑いは取れていると思いますが、考えようによっては『病人をオモチャにしている』と批判されても仕方がないかもしれません」

Q.依存症を正しく理解する、あるいは依存症について考えるきっかけを与えるような報道は可能なのでしょうか。そのためには、何が必要ですか。

山口さん「可能だと思います。そのためには、マスコミの記者や編集者、情報番組に携わる人たちが、依存症は病気であることをこれまで以上に深く認識する必要があります。ワイドショーの中には、依存症の専門家をコメンテーターとして招いたケースもありました。このような配慮はさらに強化すべきです。

今回の山口元メンバーについては『反省すべきなのは山口容疑者なのか、社会なのか。考えるまでもないと思う』などの批判コメントがネット上で数多く見受けられましたが、本人が反省しても、依存症は治療できる病気ではないといわれています。反省しても、再びオートバイを運転してしまうかもしれません。

依存症は社会に広がっている慢性の病気の一つと認識し、感情に流されず、国民全体で正しく対策に取り組む必要があると思います。そこで、マスコミは『日本には依存症の専門医療機関が多数あること』『近くの保健所や精神保健福祉センターといった行政機関に相談すれば専門家から適切なアドバイスを得られること』など、具体的な対応策についても積極的に報道すべきです。

さらに、依存症の問題を抱えた人同士でミーティングや情報交換を行いながら、回復を目指していく自助グループに参加するという方法やリハビリ施設を利用する方法もありますし、保健所や精神保健福祉センターに相談すれば、自助グループやリハビリ施設を紹介してもらえます」

Q.芸能人や有名人の依存症に関して報じる際、マスコミが気を付けるべきことはありますか。

山口さん「芸能人や有名人が何らかの依存症がきっかけで罪を犯した場合、マスコミが大きく取り上げることは厳然たる事実です。芸能人や有名人は『準公人』で、一般的なサラリーマンよりも高給を稼ぎ、平時、マスコミとは『持ちつ持たれつ』の関係なのだから、『不祥事を起こしたのなら、報道に多少のプライバシー侵害や誹謗(ひぼう)中傷、理不尽さはあっても当然』と考える人もいるように思います。

先述の高橋氏の分析を引用すると『一般視聴者の心情を代弁できる人』が有能なコメンテーターの資質の一つとされていますが、世間の人の心情に合わせ過ぎると、芸能人・有名人について、犯罪はもちろん、離婚などプライバシーに関わることでも過剰な報道につながる可能性があります。依存症などの病気が疑われる場合は、医学的・合理的な判断とプライバシーへの一層の配慮が必要なのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

コメント