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コロナで地方に追い風? 就職の「大都市離れ」は定着するのか【就活・転職の常識を疑え】

就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「就職で大都市へ」は時代遅れ?
「就職で大都市へ」は時代遅れ?

 地方出身や在住の若者が就職先を選ぶ際、大都市で働くことを希望する人は多く、東京一極集中が問題視されるというのがこれまでの「常識」でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で大都市のリスクの大きさが分かったことや、満員電車など過酷な状況が改めて認識されたこと、テレワークの推進で働く場の選択肢が広がったことなどから、地方での就職が見直されているようです。

 筆者の周辺でも、地元へのUターン就職を考えている学生が増えているとの話を聞きます。東京や大阪などの出身者が大都市から離れて、郊外へ移住するケースもよく耳にするようになりました。このような「大都市離れ」は定着するのでしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者の見方をお話しします。

2年で求人数が3分の1に

 この問題を考える上で、まず考えなくてはいけないのは、就職希望者が地方で働くことを希望した際、受け皿となる企業側の求人ニーズがどれだけあるかということです。

 ここ数年、大都市圏よりも少子高齢化が進んでいた地方において、人手不足が深刻化していたのは事実です。地方は中小企業が多い(大企業が少ない)のですが、リクルートワークス研究所が毎年調べている新卒採用の求人倍率をみると、最新の2021年3月卒の学生においては、5000人以上の企業の求人倍率0.6倍(10人の求職者に対して6件の求人)に対して、300人未満の企業の求人倍率は3.4倍(10人の求職者に34件の求人)です。

 そう考えると、コロナ禍で景気の先行きがいくら不透明でも、これだけの求人倍率があれば、中小企業にとっては人手不足解消のために採用を継続するだろうとも思えます。

 しかし、実はこの300人未満の企業の求人倍率は、2019年卒では9.91倍、2020年卒では8.62倍もあったものが急落しているのです。仮に求職者数を一定とするなら、ここ2年で求人数が3分の1になってしまっていると考えることもできます。この点で見ると不安になってきそうです。

 加えて、地方経済の大きな不安材料は、地方における大きな産業の一つである観光業が新型コロナで大打撃を受けていることです。付随して、小売業や飲食業なども類似の影響を受けています。これらの業界の行方が最も気になります。また、地方には、部品メーカーなどグローバルに展開する大企業の関連会社やサプライチェーンに組み込まれている会社も多いのですが、自動車など耐久消費財の世界的需要減の影響をどう受けるかも懸念されます。

 このように、地方経済は決して楽観視できる状態ではなさそうです。

地方での就職に「追い風」

 以上、大都市から地方へ働く場所を変えようと考えている人に対して、水を差すようなことばかり申し上げてしまいました。しかし、あえて「検討すべき不安要素」を挙げたまでで、コロナショックを受けても、いまだに求人倍率が3倍以上もある中小企業の多い地方への就職は、大都市の大企業へ就職するよりも相対的には引き続き容易でしょう。

 また、大企業でもテレワークが加速度的に進み、最初から、テレワークを前提として地方在住者を採用しようという動きも一部に出てきています。そのニーズも加えて考えれば、地方で就職することに「追い風」が吹いていることは間違いありません。また、採用活動自体もオンライン化が定着したことから、現在、大都市圏にいる人も遠く離れた場所への就職活動がしやすくなっていることもプラスでしょう。

 ここまでは主に、働く場としての地方に行くことができるのかということについて考えてみました。一方で、大都市に残る意味はあるかというと、もちろん、当分の間は日本経済をけん引する大企業の多さや多彩な人との出会いなど、大都市特有のさまざまな刺激は続くでしょうから、意味はあると思います。

 ただ、テレワーク化がさらに進めば、大都市に住むことの意味は徐々に減りますし、そもそも、人口減少を踏まえて、内需を当てにしたビジネスをやめる方向にかじを切るとしたら、日本中どこでも海外にアクセスしやすい所であれば、働く場としての価値は同じです。

 そうなれば、そもそも、大企業自体が地方移転してしまうケースも増えるでしょう。大都市に住む意味は「リアルの場で雑多な刺激に出合える」という、極めてエンターテインメント的なものに絞られていくのかもしれません。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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