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マスコミによる芸能人のプライベート「隠し撮り」、法的責任は問われず?

週刊誌が芸能人のプライベート現場を隠し撮りすることがあります。法的責任を問われることはあるのでしょうか。

隠し撮りは法的責任を問われない?
隠し撮りは法的責任を問われない?

 週刊誌が芸能人のプライベート現場を隠し撮りした画像をもとに、記事を公開するケースがよくあります。そのたびにネット上では「違法では?」などの声が寄せられますが、大きな問題に発展するケースはほとんどないようです。

 そもそも、盗撮は法的責任を問われるのでしょうか。また、マスコミ各社や探偵が取材、調査の過程で隠し撮りをした場合はどうなるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。

迷防条例の「盗撮」に該当しない

Q.そもそも、盗撮は法的責任を問われるのでしょうか。また、どのような行為が盗撮に当たるのでしょうか。

若林さん「盗撮は各都道府県の迷惑防止条例で規制されており、公共の場所や公共の乗り物などでの盗撮行為を処罰対象にしています。

東京都の迷惑防止条例の5条では『正当な理由なく、人を著しく羞恥(しゅうち)させ、または人に不安を覚えさせるような行為』であり、かつ公共の場所などで『人の通常衣服で隠されている下着または身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、または撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、もしくは設置する』行為が盗撮に該当します。

例えば、サラリーマンが公共の場所で、女性のスカートの中をスマホなどで撮影して逮捕される事例がありますが、(1)撮影で正当な理由なく、人を著しく羞恥させた(2)衣服で隠されている下着を撮影した――ので盗撮に該当するためです」

Q.それでは、週刊誌が芸能人や有名人のプライベート現場を隠し撮りした場合は、盗撮として処罰されることはあるのでしょうか。

若林さん「前述のように、衣服で覆われた下着や体を撮影する行為でなければ、迷惑防止条例が規定する盗撮には該当しないため、盗撮として処罰されることはありません。しかし、盗撮に該当しなくても、被撮影者の社会的地位や活動内容、撮影場所、撮影目的などを総合的に考慮し、撮影行為が社会生活上受忍の限度を超えるといえる場合は、みだりに自己の容貌などを撮影されない権利(肖像権)の侵害として、損害賠償責任を問われることがあります。

例えば、自宅療養中の歌手を隠し撮りしたカメラマンが軽犯罪法違反(同法1条23号、ひそかにのぞき見る行為)に該当するとして、科料に処されたケースがあります。その歌手は自身の隠し撮り写真を掲載した週刊誌に対して損害賠償請求訴訟を起こし、裁判所は『原告が芸能人であることは自らの住居内において過ごす姿の写真を広く頒布(はんぷ)されることなどを正当化される理由とはならない』として、損害賠償として550万円の支払いを出版社側に命じました(東京地裁判決2016年7月27日)。

肖像権の侵害などで刑事責任や損害賠償責任を問われるのは、マスコミ関係者だけでなく、一般人が同様の行為をした場合にも当てはまります」

Q.先述の「自宅療養中の歌手」の事例は処罰や賠償の対象になったとのことですが、マスコミが政治家や芸能人の不祥事に関する現場を隠し撮りして法的責任を問われることはほぼないと思います。報道の自由が保障されているからなのでしょうか。

若林さん「確かに、報道の自由や表現の自由は憲法上重要な権利として保障されています。一方で、政治家や芸能人がみだりに自己の容貌などを撮影されない権利(肖像権)も人格権に基づく権利として憲法上保障されています。裁判所はその両者の調整をするために、すべての撮影行為を違法とするのではなく、社会生活上受忍の限度を超えるものといえる場合について、損害賠償責任を負うと考えています」

Q.探偵が調査の過程で浮気現場を隠し撮りすることもありますが、法的責任を問われることはあるのでしょうか。

若林さん「隠し撮りの態様次第では、刑法や条例に違反する可能性があります。具体的には、隠し撮りする場所や方法、現場の状況によっては、住居侵入等の罪(刑法130条前段)や前述の迷惑防止条例違反などに問われます。

プライバシー権の侵害や肖像権侵害について争われた裁判例(東京地裁判決2017年12月20日)で、裁判所は撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性などを総合的に考慮し、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを検討しました。

そもそも、探偵業法2条1項では『他人の依頼を受けて、特定人の所在または行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞き込み、尾行、張り込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務』を探偵の業務と定めており、依頼を受けて浮気現場を撮影する行為は探偵業務の一環であり、証拠収集との兼ね合いにおいて、撮影の必要性があるとしています。

その上で、裁判所は、ホテルのロビーや客室階まで尾行して、入室する様子を撮影する行為が社会生活上受忍の限度を超えるものであるとはいえず、違法性はないと判断しました。探偵による撮影行為はその必要性が認められ、その手段が受忍限度を超えないようなものであれば、法的責任を問われないものと考えられます」

(オトナンサー編集部)

若林 翔(わかばやし・しょう)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。YouTubeチャンネル「弁護士ばやし」(https://www.youtube.com/channel/UC8IFJg5R_KxpRU5MIRcKatA)、誹謗中傷削除・発信者情報開示サイト(https://defamation.gladiator.jp/)。

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