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料理のベース「だし」、関東と関西でどう違う? 境界線はどこに…?

食文化がさまざまに異なる関東と関西ですが、「だし」の味にも違いがあります。なぜ、東西で異なるのでしょうか。

なぜ、関東と関西の「だし」は違う?
なぜ、関東と関西の「だし」は違う?

 さまざまな食文化の違いがある関東と関西。中でも、うどんやそばをはじめ、さまざまな料理に使われる「だし」の違いを実感したことがある人は多いと思います。

 一般的に、関東のだしは色が濃く、しっかりとした味付けであるのに対し、関西のだしは薄く透き通った色にあっさりとした味付けが特徴的ですが、ネット上では「関東で生まれ育ったので、やっぱりコクのあるだしが好き」「初めて東京でうどんを食べたとき、だしの色の濃さに驚いた」と好みが分かれている他、「どうして違いが生まれたんだろう」「どこの地域が分かれ目?」といった疑問の声もあるようです。

 だしの味はなぜ、関東と関西で異なるのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

関東はかつお、関西は昆布

Q.そもそも、だしとは何ですか。「つゆ」とはどう違うのでしょうか。

関口さん「だしは、かつおや昆布からうま味を抽出した、料理の基本となるベースです。一方、つゆはだしにしょうゆを加え、しっかりと味付けされたものです。だしは素材の特徴を引き出す役割が強く、つゆは素材にしっかり味を付ける役目です。だしとつゆは似たような原料から作られる上、使い道も似ていて混同しやすいですが、それぞれ別の特徴を持つものとされています」

Q.関東と関西における、だしの違いとはどのようなものですか。

関口さん「関東のだしは、かつおだしが中心です。カビ付けした枯節(かれぶし)というかつお節を好んで使います。枯節の持つ、まろやかでふくよかな甘みと上品な香りが特徴です。

一方、関西のだしは昆布だしが中心です。昆布をベースに、カビ付けをしない荒節(あらぶし)というかつお節や、煮干しのだしをブレンドする『合わせだし』が多く使われています。昆布だしのすっきりした味わいに、荒節の焙煎(ばいせん)された香りやほのかな酸味、煮干しの強い味わいが奥行きを与え、控えめながらもしっかりとうま味のあるだしになります」

Q.含まれる栄養素や成分なども違うのでしょうか。

関口さん「それぞれの材料の違いにより、アミノ酸や微量栄養素の成分に違いがあります。関東のだしは、かつお節からのうま味成分であるイノシン酸をはじめ、全ての必須アミノ酸が含まれます。ビタミンDやB群、カルシウム、リン、鉄なども含まれます。

一方、関西のだしは昆布のうま味成分であるグルタミン酸、水溶性食物繊維のフコイダン、アルギン酸、ヨウ素、カルシウム、ナトリウム、カリウムに加え、かつおや煮干しのイノシン酸、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどが含まれます。合わせだしにすると、うま味成分が相乗効果となり、よりうまみを感じやすくなります」

Q.なぜ、東西でだしの違いが生まれたのでしょうか。

関口さん「『関東=かつおだし』『関西=昆布だし』の文化は、昆布が奈良時代から朝廷の献上品であったことに由来します。蝦夷地(えぞち)と呼ばれていた現在の北海道から献上されていた昆布は『北前船(きたまえぶね)』によって、海が穏やかな日本海側から関西を経由し、全国に運ばれていました。京都・大阪へ運ばれた後、関西周辺で昆布をはじめとした海産物を加工し、江戸に運んでいたのですが、だしが発展して生活に根付く基盤ができたのは江戸時代に入ってからといわれています。

関東と関西でだしの違いが生まれた理由としては、上質な昆布が京都・大阪で売れてしまい、江戸では昆布が普及しなかったとされる説や、江戸に昆布が運ばれてくるのが遅かったため、全国的に見ても消費量が少ない地域になったという説、水質の影響で硬度の低い関西の水が昆布だしを取るのに適しており、硬度の高い関東の水には向いていないといわれる説など、諸説あります」

「境界線」はどこに?

「どん兵衛」も東西で違いが…
「どん兵衛」も東西で違いが…

Q.だしの違いの「分かれ目」となる地域はあるのでしょうか。

関口さん「複数のテレビ番組などの調査によると、JR東海道線や東海道新幹線、また、沿線の立ち食いうどんやそば店のだしについては、岐阜県の関ケ原付近が境界線のようです。また、日清食品(大阪市淀川区)から販売されているカップうどん『どん兵衛』は東西向けで別々の商品展開があり、名古屋地区を境界線として愛知県、岐阜県、三重県を含む東側は東日本向け製品、福井県、富山県、石川県を含む西側は西日本向け製品を販売しているそうです」

Q.その他の地域のだしはどのようなものですか。

関口さん「だしは東西だけでなく、全国各地によって地域性があります。北海道では、かつお節や煮干し、昆布などが使われます。東北地方は煮干しを中心にさば節、中部地方はムロアジ節やさば節、中国・四国・九州地方は焼きあご節や煮干しなど、沖縄は昆布やかつお節などでだしを取っています」

Q.関東/関西それぞれのだしを家庭でおいしく作る・使うためのポイントとは。

関口さん「関東では、かつお節を中心に煮干しや昆布、さば節などを用途に応じて使い分けることが多いです。特に決まりはありませんが、一般的な料理のベースにはかつおだし、みそ汁には煮干し、おでんには昆布、つゆにはさば節をブレンドします。繊細な味わいを出したいときは上品な一番だしを使い、濃厚で力強いだしを使うときはしっかり煮出します。関東では濃い口しょうゆを使うことから、強めのだしを好む傾向です。

一方、関西では昆布が中心で、かつお節やさば節、煮干しをブレンドし、料理によって使い分けています。薄口しょうゆで仕上げるため、素材の味を生かすあっさりしただしを好むようです。だしにも家庭の味があり、好みによるところなので明確なルールはありませんが、ベースになるかつおだしや昆布だしに対して、ブレンドするだしを1:1で調合するとバランスがいいようです。例えば、かつおだし1に対し、さば節と昆布のだしが1という配合です。

最近は便利な『だしパック』が主流で、万能だしとして使える商品が多く販売されています。オリジナルの配合だしを作りたければ、材料をそれぞれ粉にして、独自のブレンドだしを作ることもできますよ」

(オトナンサー編集部)

関口絢子(せきぐち・あやこ)

料理研究家・管理栄養士・インナービューティースペシャリスト

米国栄養カウンセラー、ヘルスケアプランナー。企業やウェブサイトなどの各種メディアで、レシピやコラム、企画提案などを行う。斬新なアイデアやニーズを捉えた企画が人気を博し、CM用のフードコーディネートやフードスタイリング、商業施設のフードプロデュースなど多岐にわたり活動。「毎日続けられること」をモットーに簡単・おいしい・おしゃれ、かつ美容と健康に直結したレシピを発信。自らの体調不良を食で克服した経験から執筆した著書「キレイになる!フェロモンレシピ」で「食から始めるアンチエイジング」をテーマに、女性が一生輝き続けるための食事法を紹介。セミナーや女性誌の特集で人気を集めている。

■オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/ayako-sekiguchi/
■YouTubeチャンネル「管理栄養士:関口絢子のウェルネスキッチン」(https://www.youtube.com/channel/UC6cZRYwUPyvoeOOb0dqrAug

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