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職場出勤が気に入らず、テレワーク可能な会社へ転職 正しい選択か【就活・転職の常識を疑え】

就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

テレワークをやめた会社を見限り…
テレワークをやめた会社を見限り…

 不況に陥り、不安な世情の中で意外に思われるかもしれませんが、このコロナ禍の中、人材紹介会社への登録者数が増えているという話をよく聞きます。人材紹介会社の人の話では、「コロナのせいで会社の事業が傾いてしまい、仕方なく転職を考えている」という人がいる一方で、「コロナに対する一連の会社の対処策が気に入らない」という人もそれに負けないほどたくさんいるということでした。

 特に、コロナ禍でテレワークになっていたのに緊急事態宣言が解除された途端、リアルな職場に出勤を要請されたことが気に入らなくて、テレワークができる会社に転職したいという人が多いようです。その選択は果たして正解なのでしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「毎日出勤」のムダが分かった

 実際、コロナ禍により、半ば強制的に社会全体でテレワーク化が進んだことで、これまでの「リアルな職場に毎日とにかく出勤する」という働き方のムダや非合理性がいろいろ分かったのは事実です。

 リアルの場で集まらなくても、オンライン会議システムで十分にミーティングはできる。一度も顔合わせをしなくても、プロジェクトは進み、プロダクトはできる。初対面の人でも、なんとか信頼関係はつくっていける。しかも、テレワークなら、通勤地獄から解放され、働く時間も比較的自由になり、隙間時間で家事もできるため、育児や介護など家庭の事情がある人にとってもメリットがある。それなのに、なぜやめるのかということです。

 テレワークには確かに、メリットがたくさんあることが分かりました。そのメリットを最大限に享受する自信があるのであれば、いっそのこと、この機会に今後もテレワークを主とする会社に転職するのは「アリ」だと思います。

 実をいえば、テレワークにもデメリットはあり、意思決定を行う議論やアイデアを出すようなミーティングでは生産性が低かったり、特定の人にとってはメンタルヘルスに悪い影響があったりするという研究もあります。しかし、それらのことがあまり気にならなかったり、仕事上関係なかったりする場合、テレワークを求めて転職するのは一つの考え方です。

「結果」よりも「過程」で判断を

 しかし、そこまで考えての結論ではなく、「テレワークをやめるなんて時代遅れ」「変化に対応できない会社だ」と断定して会社に愛想を尽かし、転職したいという段階であれば、少し待ってください。というのも、もしかしたら、あなたの会社は古くさくて頭が固いわけではなく、先述したような合理的な理由から判断した可能性があるからです。

 いくら自分がテレワーク好きでも、テレワークは万能ではなく、文化や業務によって適/不適があります。企業としての良しあしを考えるなら、新しい働き方を「どうするか」という結果ではなく、それを決めるのにきちんとエビデンスに基づいて検討しているのか、社員の一部に反発を招こうとも説明を繰り返し、納得して合意形成しているかの方が重要かもしれません。

 というのも、今回はコロナ禍に関係してテレワークの是非が注目されていますが、今後も時代や環境の変化によって、会社が何か大きな意思決定をしなければならないことがたくさん出てくるでしょう。そのたびに、出てきた結果自体に自分が「賛成か反対か」だけで、居場所を変えるのでしょうか。

 すべての条件が自分の好みに合っている会社というのは、まずないといってよいでしょう。結果、転職を繰り返すことになります。もちろん、私の知人にもそういう生き方の人はいますし、どこでも通用するプロフェッショナルな能力を尊敬もしていますが、多くの人にとって転職はそんなに簡単なものではありません。

 そう考えれば、テレワークの是非も大事ですが、長期的なキャリアを考えるのであれば、本当に見るべきは、それを決める際の会社の意思決定の方法ではないでしょうか。「結果」よりも「過程」を見て、決断することをおすすめします。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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