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タレントか、会社員か 「アナウンサー」のプライベート、報じる必要はある?

テレビやニュースサイトで、テレビ局に所属するアナウンサーのプライベート情報を逐一取り上げる必要はあるのでしょうか。専門家に聞きました。

局アナ出身で女優の田中みな実さん(2018年9月、時事通信フォト)
局アナ出身で女優の田中みな実さん(2018年9月、時事通信フォト)

 ニュースサイトやテレビのワイドショーが、テレビ局のアナウンサーの結婚や恋愛などに関する情報を取り上げることがあります。そのたびにネット上では「いちいち報道しなければならないこと?」「タレントなのか、会社員なのか分からない」などの声が上がりますが、アナウンサーのプライベートな情報は、本当に取り上げる必要があるのでしょうか。また、アナウンサーが“タレント化”することで、テレビ局にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 テレビ番組の制作経験もある広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

読者、視聴者の興味に寄り添う

Q.そもそも、テレビ局やニュースサイトなどはどのようなニュースを積極的に報道すべきなのでしょうか。

山口さん「どのようなニュースを積極的に報道すべきかについての考えは一人一人違うと思いますし、時とともに変わります。私は『役に立つ事柄』『視聴者や読者が興味を持つ事柄』『知るべき事柄』について報道してほしいと思います。具体的に、今は『新型コロナウイルス感染症の予防・抑え込みの方法』『今後の日本経済の動向予想』などです。実際、これらのテーマに関する報道は毎日数多くあります」

Q.テレビ局アナウンサーのプライベートに関する情報は、本当に取り上げる必要があるのでしょうか。また、社会的に意義があるのでしょうか。

山口さん「社会的に意義があるかと問われると回答は難しいですが、テレビは仮想現実的な一面を備えています。多くの人たちはテレビ局のアナウンサーを含め、テレビで頻繁に見る著名人を友人のように思ってしまいます。

アナウンサーが番組出演を休止したり、交代したりする場合、休止や交代の情報だけでなく、その理由を発表することも必要です。そのため、結婚や妊娠などのプライベートな情報であっても、それが番組出演に影響を与えるのであれば開示することになるのだと思います。

番組出演に直接影響を与えないと思われる恋愛や離婚などのプライベートな情報を、テレビのワイドショーやスポーツ紙が取り上げるのは『読者、視聴者が興味を持つネタだ』と考えるからです。アナウンサーの中には、自ら進行中の恋愛についてSNSに投稿したり、マスコミに売り込んだりする人もいるそうですが、いずれにせよ、取り上げるかどうかはマスコミ各社の考え次第です」

Q.プライベートに関すること以外で、テレビ局アナウンサーに関する情報を伝えなければならないケースはあるのでしょうか。

山口さん「最近では、テレビ朝日系『報道ステーション』の富川悠太アナウンサーについて、新型コロナウイルス感染後の行動が不適切だったとして、多くの報道がありました。振り返ってみると、昔からアナウンサーの不祥事に関する報道は数多くあります。例えば、タクシー運転手への暴行、不倫、強制わいせつ、セクハラ、利益供与、危険ドラッグの所持などです。

ただし、テレビ局アナウンサーに不祥事が多いと私は思いません。国民に広く顔を知られている職業のため、報道が多いのだと思います」

Q.テレビ局のアナウンサーは身分的に会社員ですが、なぜ注目されるのでしょうか。

山口さん「もともと、国民に広く顔を知られる職業であることと、1980年代末に本格的に始まったテレビ局の『局アナのタレント化』戦略と関係があると思います。

それまで、アナウンサーは『原稿を正しく分かりやすく読む職業』だとされていましたが、フジテレビが先陣を切って、新規採用の女性アナウンサー(通称『女子アナ』)を報道、情報、バラエティー番組などあらゆる自局の番組の出演者、すなわちタレントとして活用し始めました。

この戦略は見事に当たり、フジテレビの視聴率がぐんぐん上昇したことで、他の民放局も女子アナを看板タレントとして打ち出す時代が到来したのです。女子アナをドラマに出演させるケースも出てきました」

若手アナの記事増加、要因は?

Q.「(アナウンサーは)タレントなのか会社員なのか分からない」「自分をタレントだと勘違いしている」という厳しい声もありますが、それでもテレビ局がアナウンサーをタレント化するメリットはあるのでしょうか。

山口さん「メリットは大いにあります。先述の通り、自社が抱えるアナウンサーをタレントのように自社の放送番組に登用して売り出せるのですから、とても便利です。年間続く番組でもスケジュール調整は必要ありませんし、出演料は給料でカバーできます。

女子アナの例を挙げると、競馬をやったこともない女子アナを競馬番組のキャスターに、野球の知識が乏しい女子アナを野球番組のメインキャスターに抜てきすることもできるほか、経験が浅い女子アナを明石家さんまさん、ビートたけしさんなどの超大物タレントが出演する番組のアシスタントに起用することも可能です。

実際、テレビ局はこのような起用を行ったことで大成功を収め、視聴率が上がりました。就職試験の厳しい選考を勝ち抜いてきた女子アナだけに、タレント能力が高かったのだと思いますが、同時に、素人っぽさが視聴者の気持ちを代弁して新鮮だったのかもしれません。

また、アナウンサーの『新陳代謝』はもともと活発であるという見方もあります。女子アナの多くは一定期間活躍すると、新天地を求めて転職したり、フリーの道を選んだりします。すると、大学を卒業したばかりの新人アナウンサーに活躍の場が開かれるのです。

『テレビ局の視聴率と女子アナの活躍は比例する』という俗説がありますが、放送局の番組制作者として働いた経験がある私も思わずうなずいてしまうほど真実味があります。

現在、世の中は変化が激しく、人々の好みや価値観は多様化しています。また、私の周りには新聞を読んだり、テレビを見たりせず、ネットから情報を収集する若者が多くいますが、こうした状況の中で一世を風靡(ふうび)した局アナタレント化戦略が今後も広く受け入れられるかどうか、興味は尽きません」

Q.以前に比べ、知名度があまり高くないと思われる若手アナウンサーに関する記事がニュースサイトで増えた印象があります。どのような要因が考えられますか。

山口さん「要因の一つはSNSの広がりだと思います。SNSは誰でも投稿可能で、内容は基本的に何でもありです。局アナはテレビ局という大看板を背負っているため、たとえ無名の若手アナウンサーについての話題でも、記事として取り上げられやすいのです。

私は危機管理広報のコンサルティング業務に従事していますが、同じような出来事であっても、公的な組織や大会社に関する話だった場合、より大きく、より広く報道されることが多いと感じています。つまり、テレビ局という大看板があることによって、若手アナの情報についてもニュース価値が上がるわけです」

(オトナンサー編集部)

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

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