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重大な罪の少年、実名報道解禁で与党合意 本当に犯罪抑止につながる?

少年法の適用年齢を協議していた自民・公明両党が適用年齢を「20歳未満」のまま維持する一方、重大な罪で起訴された際の実名報道を解禁する方針を固めました。どのような影響があるのでしょうか。

少年法では現在、実名報道が禁じられているが…
少年法では現在、実名報道が禁じられているが…

 民法改正で2022年4月から、成人年齢が20歳から18歳になることを受け、少年法の適用年齢について協議していた自民・公明両党は7月30日、適用年齢を「20歳未満」のまま維持する一方、重大な罪で起訴された際の実名報道を解禁する方針を固めました。少年による重大事件が起きるたびに、厳罰化の必要性や実名報道の是非が議論されてきましたが、今回の方針に沿って法改正された場合、どのような影響が予想されるのでしょうか。

 佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

更生や社会復帰阻害の恐れ

Q.まず、現行の少年法の概要や目的を教えてください。

佐藤さん「少年法は『少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする』法律です(同法1条)。少年法上の『少年』とは、20歳に満たない者をいいます(2条1項)。

少年事件については、警察や検察庁が取り調べた後、原則として、すべての事件を家庭裁判所に送致します。家庭裁判所は、審判(大人の事件でいう裁判)を開始すべきか、大人と同じ刑事処分にすべきか、都道府県知事、または児童相談所長に送る(行政の指導に委ねる)べきかなどを判断します。

審判手続きでは『不処分』(審判過程で非行を克服し、処分の必要がなくなった場合)、あるいは『保護観察』(保護司などの監督のもと、社会の中で更生を目指す)、『児童自立支援施設または児童養護施設送致』(開放施設で更生を目指す)、『少年院送致』(施設に収容され、矯正教育を受けて更生を目指す)の保護処分がなされます。

凶悪な罪を犯した場合など、家庭裁判所が『刑事処分にすべきだ』と認めた場合は、事件を検察庁に送り返します(逆送)。16歳以上の少年が故意に被害者を死亡させた場合(殺人罪など)には、原則として、逆送しなければなりません(少年法20条2項)。この場合、検察庁は一部の例外を除き起訴しなければならず、大人と同様の刑事裁判を受けることになります。

また、少年については、氏名・年齢・職業・住居・容貌など、事件の当事者であることが分かるような報道は禁じられています(少年法61条)」

Q.今回の与党合意の通りに法改正された場合、どのように変わるのでしょうか。

佐藤さん「報道によると、少年法の適用年齢『20歳未満』や、全件を家庭裁判所に送致する仕組みは維持する方針ということです。従って、18歳・19歳の事件についても従来通り、家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が綿密な鑑別や調査を経て、審判を開始すべきか、逆送するか判断することになります。

変わる可能性があるのは『原則逆送』の事件の範囲です。先述した通り、従来は16歳以上の少年が『故意に被害者を死亡させた場合』に原則逆送でしたが、与党合意によると、18歳以上の少年について、原則逆送の範囲が拡大されます。具体的には、強盗や強制性交など『法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮の事件』が対象に加わります。また、18歳・19歳の少年については、逆送されて起訴された場合は、氏名や容貌など、事件の本人であることが分かる報道が解禁されます」

Q.実名報道が一部解禁されることの影響は。

佐藤さん「少年法が実名報道を禁じているのは、本人と分かるような報道がなされると、少年の更生や社会復帰を阻害する恐れが大きいからです。従って、今後、起訴された18歳・19歳の少年について実名報道されるようになれば、これらの少年が社会から排除され、うまく立ち直る機会を失い、再犯に至る可能性が高まるのではと懸念されます。

一方、実名報道により、国民の『知る権利』に資する面もあるでしょう。ただし、実名を出さなくても、事件の内容や背景などを報じることにより、国民に事件を知らせ、再犯防止につなげることは可能であり、18歳・19歳の少年の社会復帰を考えると、実名報道の範囲を広げることには慎重になるべきではないかと思います」

Q.実名報道の一部解禁が、少年犯罪の抑止力になる可能性はないでしょうか。

佐藤さん「多くの少年は『罪を犯しても、世間に実名などがばれないからやってしまえ』というように計画的に行動しているわけではなく、未熟さゆえに衝動に任せて非行に及ぶことがほとんどです。そのため、実名報道の一部解禁によって、少年犯罪の抑止力になるとは考えにくいと思います」

Q.18歳・19歳の少年少女は「民法上は大人でありながら、刑事上は子どもとして保護される」ということになります。法律によって扱いが変わることについて、問題はないのでしょうか。

佐藤さん「法律によって適用年齢が変わることは、問題ありません。例えば、現行民法の中でも、契約は20歳から、遺言や養子縁組の承諾は15 歳からできることになっており、制度の目的などに応じて、異なる年齢で線引きしています。

選挙権を持つ年齢は18歳になりましたが、飲酒や喫煙が体に与える影響は変わりませんから、飲酒や喫煙できる年齢を引き下げるべきではないでしょう。それと同じように、少年法を何歳まで適用すべきかは、少年法の目的や少年法が守ろうとしている利益などから判断すべきであり、民法上の『成人』が18歳になることとは、別に検討すべきものと思います」

Q.今回の方針による法改正が少年犯罪の減少、あるいは少年による凶悪犯罪の減少に効果があると思われますか。

佐藤さん「現行の少年法により、少年犯罪、少年による凶悪犯罪ともに減少傾向にあります。また、18歳・19歳の少年が少年院を出て、2年以内に少年院や刑務所に再び入る率は、成人が刑務所を出所して再び入る率よりも低くなっています。今回の方針による法改正がなされたとしても、少年法の適用年齢は変わらないので、従来通り、18歳・19歳についても家庭裁判所の関与のもと、健全育成が図られるでしょう。それによって、今後も少年犯罪の減少傾向が続くことを願います。

しかし、原則逆送の範囲拡大や実名報道の解禁により、18歳・19歳の少年の更生が阻害され、再犯率が上がるなどの悪影響が出る可能性も否定できないと思います」

Q.少年事件について厳罰化を求める声がある一方、教育的な面を強調する声もあります。少年法はどのようにあるべきだと思われますか。

佐藤さん「大切なことは、非行少年が更生すること、再び罪を犯して被害者を生むことのないようにすることです。そのために必要なことは、少年への教育的な働き掛けだと思います。18歳・19歳を含め、非行少年は大人が想像している以上に未熟なことが多く、適切な指導・教育をすることで、よい方向に変わる可能性が大いにあります。また、先述した通り、現行の少年法に基づく運用は効果を上げているので、今後も『健全育成』という少年法の理念を大切にすることが重要ではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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