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半ズボンの中学生は大丈夫!? ボランティア中の「破傷風」感染リスク、症状や治療法は?

自然災害の被災地で活躍するボランティア。しかし、軽装だと思わぬ危険があります。破傷風の懸念を中心に、医療ジャーナリストに聞きました。

台風19号の被災地で活動するボランティア(2019年10月、時事)
台風19号の被災地で活動するボランティア(2019年10月、時事)

 7月3日からの豪雨で九州を中心に大きな被害が発生し、一部の被災地では、ボランティアの人たちが復旧作業に汗を流しています。その精神は素晴らしいものですが、参加者の中に半袖・半ズボン姿の中学生が大勢いる姿が“美談”として報道され、ネット上では「そんな服装ではけがをする」「破傷風は大丈夫?」などと危惧する声が上がっています。ボランティア作業での破傷風の危険性などについて、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

けがきっかけに感染、命に関わる場合も

Q.軽装で汚泥除去などのボランティア作業を行い、けがをした場合に想定される危険な病気を教えてください。

森さん「被災地での、がれきや土砂の撤去、床上浸水した家の泥のかき出しなどは、何よりも人手が必要で、多くのボランティア参加者の力が支えになっています。しかし、これらの作業は予期せぬけがをしやすい作業であり、被災直後の衛生状態からも十分な注意が必要です。

例えば、くぎやガラス片、金属片を踏んだり、つかんでしまったりした場合、けがだけでなく、傷口から『破傷風菌』が入り、『破傷風』を発症する可能性があります。日本では毎年、100例程度の報告があり、自然災害の後に増加する傾向があります。

また、廃棄された物や汚泥が乾燥して、微生物や粉じんが空気中に浮遊することも考えられ、気管支、目、鼻などにアレルギー反応が出る人もいます。特に、ぜんそくの症状には注意が必要です。夏であれば、蜂などの虫刺されや熱中症のリスクも高まります。地域の流行状況、作業状況、季節によっては、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染する可能性がゼロではないことも意識する必要があるでしょう」

Q.破傷風について、原因や症状、治療法を教えてください。

森さん「汚れた土の上でけがをしたり、さびたくぎを踏んでしまったりすることで、傷口から破傷風菌が体の中に入って起きる感染症です。中枢神経が侵され、けいれん、呼吸困難等の全身の強い症状が現れます。重症化して命に関わる場合もあります。災害ボランティア中にけがをしたら、傷口をきれいな水で洗い流してから消毒し、程度によっては医療機関を受診しましょう。

破傷風の潜伏期間は、3日から21日程度と考えられています。応急処置から数日以降、口を開けにくい▽食べ物や飲み物が飲み込みにくい▽顔の表情筋がけいれんする――といった気になる症状が見られたら、直ちに感染症内科や救急、あるいは内科を受診してください。

破傷風を発症した場合は、感染した部分の十分な洗浄や、壊死(えし)した組織を取り除く外科的な処置をし、血清や抗菌剤などの薬物による治療をします。入院が必要です」

Q.破傷風は子どもの頃にワクチンを接種しているはずですが、ワクチンの効き目はどれくらいでなくなるのでしょうか。

森さん「子どもの頃にワクチンというのは、『予防接種法』で定められている『定期接種』によるものですが、現在は生後3カ月から12カ月の期間に、3週間から8週間の間隔を空けて3回、その後、標準的には12カ月から18カ月の期間を空けて1回、さらに、11歳から12歳の間に1回の予防接種が推奨されています。

初期3回のワクチン接種で『基礎免疫』ができ、最終接種から約10年は免疫が持続すると考えられています。つまり、子どもの頃のワクチン接種による免疫は、20代前半で消えると考えられます。注意が必要なのは、定期接種が開始される1968(昭和43)年より前に生まれた人で、接種歴がなければ、大人でも基礎免疫の3回接種が必要です。

なお、報道で話題になった中学生の場合は、先述した定期接種をすべて受けていれば、ワクチンによる免疫が持続していると思われますが、11歳から12歳の間の予防接種を受けていない人もおり、その場合は、けがが破傷風の発症につながる可能性はあります。また、破傷風への免疫があっても、けがや呼吸器疾患への注意は大人同様に必要です。保護者やボランティアリーダーが一声掛けてあげてください」

Q.被災地支援ボランティアのために、破傷風ワクチンを受ける人もいると聞きます。いくらくらいかかり、注意点はあるのでしょうか。効き目がある期間や、接種の支援制度も含めて教えてください。

森さん「予防接種法で定められている定期接種は公費負担のため無料ですが、大人のワクチン接種は自費のため、医療機関により料金が異なります。基礎免疫がある人の『破傷風トキソイド』(ワクチン)の追加接種は、3000円前後から8000円程度に設定しているところが多いようで、料金は地域や医療機関によって幅があります。効果は約10年です。

毎年、自然災害が各地で起こる中、『災害ボランティアに公費でワクチンを』という要望は高まっていて、昨年の台風15号、19号などによる被災地支援ボランティアに対してワクチンを無料で接種している医療関係団体もありました」

Q.災害復旧のボランティアをする際、自分の体を守る面で注意すべきことを教えてください。

森さん「災害ボランティアの基本は、自身が健康であることです。定年退職後にボランティア活動で社会貢献をされる人もいますが、想像以上に体力が必要であったり、持病の症状コントロールに影響したりする場合もありますので、無理をしないということが前提です。

安全に作業するための服装は、破れにくい長袖、長ズボンの作業着、帽子やヘルメット、マスク、ゴーグル、長靴または安全靴、ゴムか革の手袋などです。気温差や雨が予想される場合は防寒着、雨具等も用意した方がよいでしょう。

気温が高く、湿度が高くなる時期は特に、作業中の『熱中症』に気を付ける必要があります。水筒にスポーツドリンクなどを入れて持参し、小まめな水分摂取を心掛けてください。日焼け止めや虫よけで皮膚を守る対策も大切です。休憩時や作業終了時の手洗い、うがい等も徹底しましょう。

また、被害が甚大な災害現場での作業によって、精神的なダメージを受けることも考えられます。体も心も無理をせず、自己管理できる範囲で参加してください。それでも思わぬ事故や病気に備え、『健康保険証』を持参することも忘れないようにしましょう」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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