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コロナ体制終焉で新たなストレス、メンタルヘルスの本番はこれから【就活・転職の常識を疑え】【#コロナとどう暮らす】

就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。今回は、転職希望者を含む、さまざまな働く人たちに向けてお話します。

コロナからの復帰後が危険?
コロナからの復帰後が危険?

 都道府県をまたぐ移動の自粛要請が6月19日に緩和される見通しで、新型コロナウイルスの影響を受けた日常が少しずつ変わっていきます。明るい兆しと言いたいところですが、転職希望者を含む、さまざまな働く人たちにとって、これからが本当に注意すべきときだと筆者は警戒しています。

「コロナうつ」は後からやってくる

 先日、臨床心理学者の後輩が、コロナ禍が本格的に終息してからの心配事を話していました。彼は、コロナ体制から通常体制に戻った直後だけでなく数カ月後、もっと言えば、1年後辺りまで、新型コロナによるさまざまなストレスを原因とするメンタルヘルスの不調が突然、起こる可能性を示唆していました。

 実際、東日本大震災の際は地震の数カ月後、長ければ半年や1年後にうつ病を発症する人が多かったとのことでした。しばらく順調に過ごした後、ある日突然、ガクッと落ちてしまう可能性があるということです。

今は「ギリギリ頑張っている」状態

 ストレス研究の先駆者とされるハンス・セリエは、多様なストレッサー(ストレスを引き起こす要因)によって起こる身体的な非特異的反応を「汎(はん)適応症候群」と名付け、「警告反応期」(緊急対応を頑張っている時期)→「抵抗期」(新しいストレス状態に適応しようとしている時期)→「疲弊期」(ストレス状態への適応力が減退して疲弊してしまう時期)というステップで進むとしました。

 今、多くの人は通常体制からコロナ体制に移行して、頑張ってそれを乗り切ろうとしている、ハンス・セリエのいう「抵抗期」にいるのではないでしょうか。しかし、そろそろ皆、限界になりそうです。

 そこへ来て、緊急事態宣言が解除され、徐々に通常体制に戻る動きが出てきています。実際には「ニューノーマル」「新しい生活様式」などと呼び掛けられ、元通りになるわけではないのですが、それでも、コロナ体制よりは厳しくない状況へと移行しています。

 表面的には、ギリギリで頑張っていたところから解放され、「楽になる」と思うかもしれません。しかし、もともと、昇進や結婚などうれしいことでもストレスであるということが分かっています。コロナ体制に頑張って適応していたところにまた、「新しい体制へ適応せねばならない」という新しいストレスが生じていると考えた方がよさそうです。

ストレスケアを忘却することの危険性

 東日本大震災の際にも、メディアなどで震災のことが報道されなくなり、社会全体の震災への関心が薄くなっていった頃、その裏で多くの被災者が無力感、倦怠(けんたい)感に悩まされていたようです。

 今は、いろいろな会社が社員に対してコロナ関連の対策を頑張っていますが、もし、コロナの第2波が来なければ、そのうち、「もう大丈夫だろう」という感覚になってしまうでしょう。しかし、ギリギリまで「抵抗期」で頑張りながら、また新しい「復帰」という「抵抗」をしなくてはいけない働く人々は、知らぬ間にストレス限界値を超えているかもしれないのです。

 明確に「いつまで」とは言えないのですが、東日本大震災時のことを考えても、おそらく今後1年ほどは、コロナ体制への対応のストレスが原因でうつ病などのメンタルヘルスの不調が発生する可能性があると思います。

 表面的には元気そうに見えても「カラ元気」かもしれません。定期的な面談や意識調査、ストレスチェックなどを行って、働く人たちがストレス限界値を超えないようモニタリングし、問題がありそうなら早期にケアを行える体制づくりが望まれます。メンタルヘルスへの対処はある意味、これからが本番ではないでしょうか。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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