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30日以内なら取り消し 「離婚クーリングオフ」を導入する中国の離婚事情

中国で、離婚届の提出から30日以内なら取り消しができるという、いわば「離婚のクーリングオフ制度」導入が決まりました。中国の「離婚事情」を専門家に聞きました。

中国の「離婚事情」とは?
中国の「離婚事情」とは?

 中国の全国人民代表大会(全人代)で5月28日、夫婦の離婚届の提出から30日以内なら、夫婦どちらかの申し出で取り消しができるという制度、いわば「離婚のクーリングオフ制度」の導入が決まったとの報道がありました。離婚率が上昇しており、けんかなどに伴う衝動的な別れを防ぐのが目的とのことですが、中国ではそれほど離婚が多いのでしょうか。

 中国の離婚事情について、ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

「一人っ子政策」が影響

Q.離婚の前にまず、中国の結婚事情について教えてください。

青樹さん「中国人の結婚事情や離婚事情には、1980年に正式に始まり、2015年まで続いた『一人っ子政策』が大きく影響しています。この政策は結婚、離婚だけでなく、社会生活のさまざまな面に影響しており、その影響は今後100年以上続くと考えられます。

結婚についていえば、まず、中国人男性はとても厳しい結婚難の状況にあるということです。新生児の男女比率は、女の子100に対して男の子105くらいというのが標準値ですが、中国も一人っ子政策が導入される前の1970年代はほぼ正常で、大きくずれることはありませんでした。

ところが、一人っ子政策の影響で、その割合が大きく変わってしまいました。男の子の数が大幅に増えたのです。中国には『男の子だけが家の跡継ぎである』という伝統的な考え方があり、農村では労働力として男児が期待されました。老後は子どもが親の面倒を見るという考えも根強く、男の子がいいという人が多いのです。

そこで、一人しか産めないとなったら、『絶対、男の子が欲しい』となります。もちろん、本来は違法ですが、妊娠して女の子と分かったら中絶するなどして、男の子の割合が増えていったと見られています。例えば、2014年の出生数は女性100に男性115という割合です。『2020年以降、3000万人から4000万人の男性が結婚相手を見つけられなくなる』と言われており、中国社会の、特に男性に恐怖心を与えています。

男性はいわば、『いすとりゲーム』に勝つことに必死になります。『人より先に結婚相手を確保しよう』となり、一方の女性は徹底的に選ぶ、条件で選ぶ、となります。つまり、日本などのように、男女が出会って恋に落ちて結婚するという自然な流れというよりも、競争に勝つことが優先なのです。

さらに、一人っ子政策のために政府が晩婚を奨励し、結婚・出産は遅いほどいいと言ったことも影響しています。結婚が遅くなると、親が焦って、本人も焦ります。特に、親が焦って結婚をすすめ、本人同士が熟慮なく結婚するケースが多いといわれています」

Q.中国では、実際に離婚が多いのでしょうか。

青樹さん「2019年の『結婚申請』、日本でいう婚姻届を提出したのは約950万組ですが、同じ年に415万組が離婚を届け出ました。私の周りを見ても、中国人の友人のうち9割が離婚経験者です。以前、中国人の友人から、『北京の夫婦は7割が家庭崩壊、離婚予備軍』と聞いたことがありますが、特に都会の家庭は離婚が多いようです」

Q.なぜ、離婚が多いのでしょうか。

青樹さん「まず、先ほど述べたように、焦って熟慮なく結婚するケースが多いため、結婚後にうまくいかなくて離婚する夫婦が多いことがあります。

また、『我慢ができない』人が多いことも影響しています。現代の中国社会における結婚離婚の主役は、一人っ子政策下の1980年代、1990年代に生まれた人たちですが、彼らは6人の大人、つまり両親とそれぞれの祖父母の計6人から、すべての愛情とお金を注がれ、甘やかされて育っています。我慢することを全く教えられずに育っているのです。

日本の子どもも少子化で甘やかされていると思いますが、レベルが違います。『小皇帝』『小公主(小プリンセス)』と呼ばれるほどです。私の知り合いの女性は、高学歴で美人の一人っ子、テーブルを拭くことすら親に教えられずに育ったそうですが、そういう人たちが現在、結婚しているわけです。

我慢を教えられずに結婚しているから、夫婦げんかをしたら衝動的に『離婚する』と口走り、実際にすぐ離婚してしまう。さらに、親が家庭内のことを全部やってくれていたから、結婚生活の現実に、簡単に幻滅してしまいます。

中国の家庭生活には、4つの大きな山があるといわれます。『不動産が高い』『教育費が高い』『医療費が高い』『親の老後費用が高い』ですが、夢のような幸福な生活ばかりを想像していた一人っ子が簡単に現実に負けて、離婚してしまうというわけです。

また、中国は社会主義国家で、夫婦ともに外で仕事をしているのが当たり前です。外の世界は広く、比較も生じやすい。『自分はもっといい生活ができるはずだ』と思うし、出会いも増えるから不倫も多くなる。それも離婚のきっかけになるようです」

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」など。近著に「中国人の『財布の中身』」(詩想社新書)がある。

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