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夏休み短縮、部活動中止…子どもの意見を聞かず、大人だけで議論していいのか

9月入学・新学期など、子どもたちの学びが大きく変わる議論がありましたが、こうした議論は大人だけでなされがちです。子どもの思いや意見は聞かなくてもよいのでしょうか。

子どもの意見は聞かなくていいの?
子どもの意見は聞かなくていいの?

 新型コロナウイルスの感染拡大により、9月入学・新学期の議論や、授業日数を確保するための夏休み短縮、部活動の大会中止など、子どもたちの学びや学校行事が大きく変わる出来事がありました。

 しかし、こうした議論や決定は、政治家や官僚、教育委員会などの大人が議論したり、決めたりしており、当事者である子どもの思いや意見が反映されているのかは疑問です。教育に関わることが大きく変化するとき、当事者である子どももその影響を受けると思いますが、子どもの思いや意見は聞かなくてもよいのでしょうか。

 子どもの権利・法律問題に詳しい、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「何を言っても無駄」と諦観

Q.9月入学・新学期の議論など、新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの教育が大きく変わる可能性があります。当事者である子どもにも、変えることに対する思いや意見を聞いた方がよいと思われませんか。

佐藤さん「当事者である子どもの意見を聞くことは、とても大切だと思います。新型コロナウイルスの感染拡大により、長期間、学校に通えなかった子どもには、言いたいことがたくさんあるはずです。

『休校期間のばらつきにより、学力格差が広がることが不安だから、一斉に9月入学にしてほしい』『9月入学になったら、学費を余計に支払うことになるし、就職の時期も変わるのが不安なので今まで通りにしてほしい』など、当事者だからこそ強く感じるものがあり、それに基づくさまざまな意見が存在するでしょう。

こうした声に耳を傾けず、大人だけで物事を決めてしまうと、子どもは『どうせ自分たちが意見を言っても大人は聞いてくれない』と感じ、次第に『何を言っても無駄だ』と諦めるようになってしまいます。教育が大きく変わる可能性のある今こそ、大人が子どもの意見にしっかり耳を傾けるチャンスです。

子どもの意見をよく聞き、それを踏まえて議論し、その過程や結論を子どもに分かりやすく説明することが大切です。そうすることで、子どもは大人が真剣に向き合ってくれたと感じ、今後もあらゆる場面で、自ら考え、意見を言えるようになるでしょう。また、当事者である子どもの意見を聞くことにより、机上の空論ではなく現実に即した議論が可能となり、より良い結論に達する可能性も高まります」

Q.日本は「子どもの権利条約」を批准しています。条約には、子どもが自身に影響を与える事柄に対して自由に自己の見解を表明する権利を保障する「子どもの意見表明権」が規定されていますが、この権利は幅広く履行されているのでしょうか。

佐藤さん「子どもの権利条約は12条で、子どもの意見表明権について定めています。日本の場合、子どもに影響を与える法律や規則を作る場合であっても、子どもの意見を聞くことはほぼありませんから、その意味では、子どもの意見表明権が十分に保障されているとは言えないでしょう。

また、現行のさまざまな法律も、子どもの意見を聞くことを義務付けていないものが多く、いまだに不十分な面があるでしょう。例えば、両親が離婚する際、どちらが親権を持つかは子どもにとって非常に重要な問題です。しかし、大切な親権が争われている場面であっても、子どもが15歳以上でなければ、法律上は子どもの意見を聞かずに結論を出すことも可能です(家事事件手続法169条2項)。

ただし、法は親権の問題など子どもに影響が出る手続きにおいては、子どもの意思を把握するように努力し、子どもの年齢や発達の程度に応じ、その意思を考慮することを求めており(家事事件手続法65条)、実際の家庭裁判所での手続きでは、子どもの最善の利益を守ることを目指し、適宜、子どもの意見を聞くようにしています。今後、法制度を含め、子どもの意見により耳を傾ける社会になっていく必要があると思います」

Q.そもそも、子どもの権利条約に規定されている子どもの権利は、日本ではどれくらい浸透しているのでしょうか。

佐藤さん「子どもの権利条約には、4つの原則があります。『生命の権利(子どもの命が守られ、能力を十分伸ばして成長する権利)』『差別されない権利』『子どもの最善の利益の原則(国は子どもにとって何が最も重要かを考慮しなければならない原則)』、そして、先述の子どもの意見表明権です。

子どもの健やかな成長を保障するための基本的な法律である児童福祉法は1条で、子どもの権利条約の精神にのっとることを理念として掲げており、日本ではさまざまな場面で、子どもの権利条約の精神や4原則を尊重する運用がなされています。しかし、いまだに、子どもの命や成長を脅かす虐待や体罰などが存在し、子どもの意見を聞く体制も十分とは言い難いでしょう。

こうした状況を改善しようと、児童虐待防止法と児童福祉法が改正され、体罰の禁止が明記されました。また、民法の『懲戒権(監護や教育に必要な範囲内で、親が子を戒めることを認めたもの)』についても見直しが検討されており、子どもの意見表明権を保障する仕組みについても、検討が進められることになりました。このように、日本社会は、子どもの権利条約の原則をより尊重する方向に動いていると言えるでしょう」

Q.日本では、子どもに権利を認めると「子どもを甘やかすからよくない」という考えもあるようです。なぜ、こうした考えが存在すると思われますか。

佐藤さん「日本では昔から、『子どもは未熟で判断能力がないから、親が子どもの代わりに大切なことを決めるべきだ。親は子どものためを思って正しい判断をするものなので、子どもはそれに従っていれば不利益を受けない』という親子観が根付いており、子どもと親(大人)の利益が対立することをあまり想定しない社会でした。そのため、子どもを権利の主体とみる考え方が浸透しにくいのでしょう。

『子どもに権利を認めると、子どもを甘やかすことになる』という考え方の背景には、子どもが大人の言うことを聞かなくなるのではないか、それでは家庭も学校も崩壊してしまうのではないかという、大人側の不安や恐怖があるように感じます」

Q.大人が子どもの思いや意見に耳を傾けることは、難しいのでしょうか。今後、子どもの思いや意見に耳を傾ける必要がある場合、大人はどのようにすれば変われますか。

佐藤さん「大人は『判断能力のある自分たちが決めれば、必ず子どものためになる』と思いがちなので、なかなか子どもの思いや意見に耳を傾けることが難しいのでしょう。しかし、現実には、大人が判断を誤ることも大人と子どもの利益が対立することも、いくらでもあります。大人は、謙虚に子どもの思いや意見に耳を傾けることが大切だと思います。

子どもの意見を聞く社会を作るためには、まず、子どもには意見を聞かれる権利があるのだということを周知するべきでしょう。学校教育を通して伝えることも大切ですが、メディアの果たす役割も大きいと思います。

子ども自ら『遊び場を増やしてほしい』と声を上げ、行政に対して陳情書を提出し、いくつかの要望を受け入れてもらったというニュースが報じられたことがあります。ネットには子どもを応援する声が集まり、話題になりました。現実に子どもが動き、そうした取り組みが広く社会に伝わるという積み重ねにより、少しずつ大人の意識も変わっていくのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

コメント

2件のコメント

  1. 未就学児の意見はききましたか?4月から8月生まれだけ学年分断さされて年長になれず幼稚園児なのに年上と同じ学年で小学校にほりこまれます。
    それが九月入学案ですよ

  2. 夏休みの短縮について子供の意見を聞くことと、子どもの権利条約は何の関係もありません。また、権利条約は子どもに権利を認めろと言っているわけではありません。感覚と思い込みのコメントや記事は、質の低さを露呈します。十分に歴史・背景を学び、吟味して記事にすることをおすすめします。
    もちろん子供の考えや、保護者の考えを聞くことは必要だと思っています。しかし、学校が休校になって困っている保護者が、少なからず、いや、かなりの数いる、というのも事実です。この視点も考慮に入れて、コメントする必要があると思います。