食べたら○○あげる! 偏食の子に対する「ご褒美作戦」は本当に有効?
偏食の子どもに、無理やり食べさせようとしても食べてはくれませんが、「これを食べられたら○○をあげる!」という「ご褒美作戦」は有効なのでしょうか。
筆者は、偏食などで食事をあまり食べられない子どもが食べられるように変わる方法を、カウンセリングや講演活動を通して伝えています。コミュニケーションによって、食べられない子どもの問題を解決することを一番に考えていますが、その中でよく、「『これを食べられたら○○をあげる!』というような『ご褒美作戦』は有効なのか?」という質問をされることがあります。
「ご褒美作戦」で、食べられない子どもが食べられるようになるのか解説します。
全ての子どもに有効ではない
先日、5歳の女の子を育てているお母さんから、「うちの子が食べてくれません。食べたらご褒美をあげると言っても、効果がありません」という相談が届きました。
普段から、家庭や保育園、学校での食育相談を受けている筆者は「苦手なものを食べたり完食することができたりしたら、シールやデザートをあげる」などと言い、子どもに食べさせる「ご褒美作戦」を有効だと考えている教育者が思ったより多い、と感じています。
実際、この方法は有効なのでしょうか。結論からお伝えすると、食わず嫌いになってしまった子どもに対しては、有効に働くケースがあります。一方で、そもそも多くの量を食べられない子ども、食べ物を感覚的に受け付けない子どもには、ほとんど効果がなく、むしろ逆効果になるケースもあるのです。
そのため、「ご褒美作戦」を行う前に「どのような問題があって、子どもは食べてくれないのか」ということを把握することが大切なのです。
具体的には、「本当は食べられそうなのに、そもそも口をつけようとしない」といった、食わず嫌いになってしまっている子どもの場合は、「ご褒美作戦」を用いることで、食べる意欲が引き出され、一口食べてみることが実際にあります。
そして、その食べてみた一口が子どもの感覚に合ったものであったり、「あれ、意外とおいしい!」と感じてくれたりした場合には、それをきっかけにして、その料理や食材が好きになるケースがあるのです。
一方で、仮にそれで一口食べてみたときに、食べたものが自分の感覚に合わずに『まずい』と感じた場合は、その食べ物に対してさらにネガティブなイメージを重ねることになります。つまり、「ご褒美作戦」を用いたにもかかわらず、もっとその食べ物のことが嫌いになり、食わず嫌いや偏食がひどくなってしまうケースがあるのです。
先述しましたが、偏食を治すときに必ず考えないといけないのは「子どもがどのような理由で食べられないのか?」をしっかりと把握することです。しかし、ここで「子どもはわがままで食べないのだ」と判断してしまうと、なかなか食べられるようにはなりません。
発達障害や偏食に詳しい東京学芸大学の高橋智教授も子どもの偏食について、「従来は“好き嫌い”“わがまま”と言われがちな問題だったが、これは生理学的な問題。そもそも食に対する見え方の問題や、口に入れた感じ、中にはうまくそしゃくができなかったり、飲み込みが困難な方がいて、そういった特性や身体的な問題が、食の困難・偏食を大きく規定している」と述べている通り、まず、子どもが食べないというときに「そもそも感覚的に受け付けない場合」があります。
筆者は拙著「食べない子が変わる魔法の言葉」(辰巳出版)などで、それらの食べない理由を(1)見た目(2)味覚鈍麻(3)刺激(4)食感(5)香り・風味(6)飲み込みやすさ(7)精神的な理由――という7つに分類しています。これらは一つではなく、複数にまたがる場合がほとんどであり、当然おやつの習慣なども大きく関わってきます。
ここまでを踏まえた上で、仮に「ご褒美作戦」をうまく用いて偏食を治すことを考えたとしたら、以下のようにまとめることができます。
食わず嫌いになってしまっている子に対して(1)食べない理由をしっかりと把握した上で(2)子どもの感覚に合わせて挑戦しやすいものを用意し(3)ご褒美を用いて食べる意欲を一気に引き出して食べてもらい、「意外とおいしいかも!」という体験をしてもらうことが大切ということになります。
しかし、ご褒美といっても毎回、おいしいデザートを用意する必要はありません。お父さんやお母さんの「苦手な物にも挑戦できたね!」という前向きな一言でも十分で、そういう前向きな言葉は普段から、積極的に食卓の中で用いることができます。そうすることで、食べる意欲が高まり、より偏食が改善しやすい環境をつくることができます。
(日本会食恐怖症克服支援協会 山口健太)
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