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ネット上で過熱する「誹謗中傷」、法的にどう立ち向かえばよいのか? 弁護士に聞く

ネット上では、匿名でさまざまな誹謗中傷が過熱化することがあります。行き過ぎた誹謗中傷に対し、法的に戦うすべはあるのでしょうか。

木村花さん(Getty Images)
木村花さん(Getty Images)

 シェアハウスで暮らす男女の生活を描く人気番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが5月23日、22歳という若さで亡くなりました。突然の訃報は海外メディアでも多数報じられ、日本のみならず世界中からショックと悲しみの声が上がっています。

 木村さんのSNSには、1日約100件のペースで行き過ぎた誹謗(ひぼう)中傷のコメントが書き込まれていたという報道もあり、「あまりにもひどい」「許せない」「ネットいじめだ」など怒りの声が多く上がる一方で、訃報後、誹謗中傷を書き込んでいたアカウントの削除が相次いでおり、「法規制すべき」「厳罰化を望みます」など、ネット上における匿名での誹謗中傷行為について法的な改善を求める声も絶えません。

 過熱化するネット上の誹謗中傷に対し、法的に戦うすべはあるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。

名誉毀損罪や侮辱罪の可能性

Q.近年、有名人のSNSなどに対して行き過ぎた誹謗中傷を書き込むケースが多くみられますが、こうした現象の背景についてどう思われますか。

若林さん「SNSは匿名で投稿できるため、投稿者が『身元がバレない安全な位置から書き込める』と思っていることが一つの原因となっていると思います。お茶の間でテレビを見ながら、悪口を言う感覚で書き込んでいる人もいるのでしょう。

また、新型コロナウイルスの影響によるステイホームの動きから、以前よりSNSなどに費やす時間が増えたであろうことや、生活態様が変わったことにより、ストレスがたまりがちな状況にあることも原因かもしれません」

Q.誹謗中傷をしていた人に別の人が攻撃をするなど“中傷の連鎖”も起こっているようです。

若林さん「誹謗中傷をした人に攻撃する場合、攻撃する人は自分の意見が“正義の意見”だと思っています。そういうときに人は残酷になり、行き過ぎた行動を取ってしまいがちです。第三者が加害者をたたき、加害者が被害者になって、また被害者が増える――これは負の連鎖です。誹謗中傷者を攻撃することも、絶対にやってはいけません。

個人の意見としては、第三者であれば、誹謗中傷されている人に『応援している』と温かいメッセージを送ってあげるのがよいのかなと思います」

Q.一般的に、特定の人物に対する誹謗中傷を行った場合、どのような罪に問われる可能性がありますか。

若林さん「このような場合、名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪、業務妨害罪に問われる可能性があります。違法な誹謗中傷と判断される基準については、刑事(加害者に刑罰を与える手続き)と民事(損害賠償請求など当事者間の権利関係の手続き)で満たすべき要件が異なります。

まず、刑事については、名誉毀損罪等が規定する構成要件を満たす必要があります。具体的には、公然と事実を摘示して社会的評価を低下させる行為であって、公共性・公益目的・真実性の証明など違法性を否定する事由がないものをいいます。民事については『その誹謗中傷が、自分の権利を侵害していること』『法的に保護された権利が侵害されていること』という2つの要件を満たす必要があります。

なお、ネット上における匿名のアカウントによる誹謗中傷や『ネットいじめ』行為は、現在の日本の法律においては、刑事では名誉毀損罪等の犯罪となり、民事では不法行為として損害賠償の対象となります」

Q.近年は、ネット上で誹謗中傷を行った匿名の人物(アカウント)について、裁判所に対して発信者情報開示の請求を行うケースも増えつつあります。この「発信者情報開示請求」とはどのようなものですか。

若林さん「発信者情報開示請求とは、ネット上のアカウントや投稿者を特定する手続きです。大きく分けて2つの手続きが必要になります。

1つ目は、SNSの運営会社や掲示板の運営会社に対して、そのアカウントや投稿のIPアドレスなどの開示を請求する手続きです。任意に開示をしてくれる会社もありますが、多くの場合は『仮処分』という裁判所を通じた手続きが必要になります。これによってIPアドレスなどが開示された場合、これらの情報から、そのアカウントや投稿者が使用していたプロバイダー(回線事業者)を特定することができます。

2つ目は、そのプロバイダーに対して、IPアドレスなどを使用していた契約者の情報の開示を請求する手続きです。この場合は、プロバイダーに対する裁判が必要になります」

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若林 翔(わかばやし・しょう)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。YouTubeチャンネル「弁護士ばやし」(https://www.youtube.com/channel/UC8IFJg5R_KxpRU5MIRcKatA)、グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/lawyers/s_wakabayashi/)。

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