営業妨害では? 一般人による「自粛警察」行為、法的責任を問えないのか
店に営業自粛を強要する「自粛警察」と呼ばれる一般人が現れています。こうした行為に法的問題はないのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、飲食店や菓子店などに時短営業の要請が行われています。そうした中、要請の内容を守りながら営業している店に営業自粛を強要するなど、「自粛警察」と呼ばれる過剰な反応を示す人が増えているようです。
しかし、こうした営業自粛の要請は、行政側が新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき行うものであり、一般人が店に営業自粛を強要する行為に法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
強要罪や威力業務妨害罪も
Q.「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため」という理由で、一般人が飲食店や菓子店に営業自粛を強要する権利はあるのでしょうか。
牧野さん「一般人がお店に営業自粛を強要する権利は、そもそもありません。意見を述べることについては、憲法21条で『表現・言論の自由』が認められており、原則として本人の自由ですが、強要まではできません。また、行政が行う営業の自粛要請も『営業禁止』ではないため、違反に対して罰則を科するなどの強制力はありません。
そもそも、行政でも強制できない『営業自粛』を一般人がお店に強要しようとすることはあり得ないことです」
Q.一般人がお店に営業自粛を強要すると、法的責任が問われるのでしょうか。
牧野さん「一般人がお店に営業自粛を強要した場合、義務のないことを行わせる『強要罪』や、脅したり圧力を掛けたりするなどの威力を用いて営業を妨害する『威力業務妨害罪』、または、それらの未遂罪にあたる可能性があります。
営業中なのに『営業自粛中』など虚偽の張り紙を張って(偽計を用いて)お店の営業を妨害する行為は、『偽計業務妨害罪』にあたる可能性があります。お店の名誉や評価をおとしめたり、侮辱したりすると『名誉毀損(きそん)罪』『侮辱罪』にあたる可能性があります。
また、扉が開かないように張り紙を入り口に張るなど、店の扉の機能を害する行為をすると『器物損壊罪』に問われる可能性があります。
加えて、軽犯罪法1条33号の『みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、もしくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、またはこれらの工作物もしくは標示物を汚した者』に該当し、『拘留または科料』に処される可能性があります(軽犯罪法第1条)。
ただし、情状によりその刑を免除できる一方、情状が悪いと、拘留および科料を併科することができます(同法2条)。
民事では、営業妨害や名誉毀損により発生した損害(張り紙でお客の数や売り上げが減った、精神的損害)の賠償を加害者が請求される可能性があります(民法709条不法行為)」
Q.都道府県の条例でも、営業自粛を強要する行為を罰する規則があるのでしょうか。
牧野さん「例えば、東京都の場合、『営業自粛しないと家族に危害が及ぶぞ』とお店の入り口に張り紙をするなど店舗の経営者の親族に不安を覚えさせる行為は、東京都迷惑防止条例5条の2(つきまとい行為などの禁止)に該当し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性があります(同条例8条2項(2))」
Q.このような行為を正義感から行う人もいるようです。もしも、自粛を強要する行為をして逮捕されたとき、「正義感からやった」と主張した場合、量刑が軽くなり得るのでしょうか。
牧野さん「正義感から行った場合、軽犯罪法2条の『情状により、その刑を免除し、または拘留および科料を併科することができ』、その『情状』に考慮される可能性はあるでしょう。
あるいは、他の犯罪についても、『犯罪の情状に酌量すべきものがあるとき』はその刑を減軽することができる(刑法66条『酌量減軽』)の『情状』に考慮されることはあるでしょう」
Q.自粛警察行為で逮捕されたということをほとんど聞きません。逮捕されるなど罰が与えられることが伝わると、抑止力の一つになるように思いますが、いかがでしょうか。
牧野さん「確かに、摘発を行えば、『一罰百戒』で抑止力が期待できます。
しかし、すべての店が時短要請に応じているわけではなく、自粛に応じない店があって行政側が困っている現在の状況では、犯罪行為に該当する可能性があっても、警察がそうした自粛を促す行為を積極的に摘発することを期待することは難しいという事情もあるのかもしれません」
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