感染した芸能人、スポーツ選手が「謝罪」をする是非は? 差別や偏見助長も?
新型コロナウイルスに感染した芸能人やスポーツ選手のコメントで、謝罪の言葉が目立ちます。広報コンサルタントに、その是非を聞きました。

新型コロナウイルスの感染が、芸能人やスポーツ選手など著名人の間でも広がり、連日のように公表されています。その中で気になるのが「申し訳ありませんでした」「情けなく思っています」「おわび申し上げます」といった謝罪の言葉が目立つことです。
予定していた仕事ができなくなったり、周囲に感染を広げた恐れがあったりするという意味で、謝罪したくなる気持ちは分かるのですが、予防をしっかりとしていた人まで、「新型コロナに感染した」ことについて謝罪すると、一般の人が「感染したかもしれない」と思ったとき、周囲に告げるハードルが高くなるようにも思います。
新型コロナウイルス感染が判明した著名人の公表の仕方について、広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
偏見や差別を助長する恐れ
Q.新型コロナウイルスに感染した著名人が謝罪するのは、なぜでしょうか。
山口さん「一つは『周辺の皆さま、仕事の関係者、ファンの皆さまに迷惑を掛けたこと』、もう一つは、テレビ朝日系『報道ステーション』の富川悠太キャスターのコメントに代表されるように、『発熱を軽視してしまい、上司や会社に的確に報告せず、出演を続けたこと』といった、感染の疑いを持った後の行動が適正ではなかったこと、さらに言うと『感染したこと自体が恥ずべきこと』との思いからです。
サッカーJ1・神戸の選手で元日本代表の酒井高徳さんは『サポーターや関係者の皆さまにご迷惑をかけ、大変申し訳ありません』という内容の謝罪に加え、『十分注意をしてきたけれど、このようなことになり、大変情けなく思っています。大変申し訳ありません』との内容のコメントを出しました。Yahoo!ニュースの読者コメント欄には『高徳謝る必要なんかない』『情けないとかないですよ』『こればっかりは仕方ないです』と励ましの言葉が殺到しました」
Q.予防をしっかりとしていた著名人が謝罪することについて、どのように思われますか。
山口さん「酒井高徳さんの発言に対するコメントに次のようものがありました。コメントの一部ですが、『あえて、ちょっと苦言めいたことを言うなら、謝らないでほしい。おそらく予防には人一倍気を付けていたはず。有名な選手である高徳が謝ると、最低限の接触など気を付けていたにもかかわらず感染してしまった人が、肩身が狭くなってしまうかもしれないから。ともかく、軽いままで何事もなく治ってほしい』というものです。
同感です。高徳さんの発言の記事全体を読むと、『サッカーファンやサポーターの皆さまを落胆させて本当に申し訳ない』という高徳さんの、心からの謝罪の気持ちが強く伝わってきます。しかし、『感染自体に対する謝罪』と思われてしまうかもしれない発言は、思わぬ弊害を生むのではないかと思います」
Q.「思わぬ弊害」とは、どのようなことでしょうか。
山口さん「『新型コロナに感染したら謝罪すべきだ』『感染は自己責任だ』『感染は恥ずべきことだ』といった考えを拡散してしまう可能性があることです。一般の人に対して、そのような影響を与えるとしたら問題です。感染者やその周囲の人に対する偏見と差別を助長するのではないかと恐れます。
偏見や差別を助長してしまうことによって、感染を疑っても周りや職場に報告しづらくなり、感染していないことを祈りながら、そして、心に負担を感じながら仕事を続ける人たちが数多く出てくる原因の一つになるのではないかと思います」
Q.謝罪が、社会全体に与える影響はどうでしょうか。
山口さん「謝罪が社会に与える影響より、社会が謝罪を求める風潮がより深刻だと私は思います。例えば、謝罪会見は日本では普通に使われる言葉ですが、在日外国人記者には異様に響くようです。あるドイツ人の記者は『説明責任を果たすこと以外の記者会見なんてあるんですか?』と私に聞いてきました。
何はともあれ謝罪を求め、謝罪さえあれば心情的には許してしまう『情治国家』的な社会風潮は、平時では美徳の一つかもしれませんが、新型コロナに日本が滅ぼされてしまうかもしれない“戦時”においては唾棄すべき風潮です。国民一人一人が理性を総動員して、“戦争指揮官”の一挙手一投足を厳しく評価し、声をあげていくべきです。
中でも、著名人の声の影響力は大きい。セクハラを『#MeToo(ミートゥー)運動』で白日の下にさらし、加害者を崖っぷちに追い詰めている立役者の多くは、世界では芸能人や有名人です」
Q.そもそも、感染を実名で公表する必要はあるのでしょうか。一般の人なら、都道府県などの発表は匿名で、年代、性別のみの場合が多いです。
山口さん「実名を公表するかどうかは本人が決めるべきことですが、著名人の場合、感染を公表するからには実名でないとさまざまな臆測や混乱を招きます。例えば『職業・スポーツ選手』だけだと、全スポーツ界が臆測の対象になってしまいます。
グラビアアイドルのソラ豆琴美さんへのインタビューをテレビで見ました。『息苦しさ、咳(せ)き込み、痰(たん)が出る、立ち上がろうとすると意識朦朧(もうろう)。こんなに苦しいのに軽症といわれて後悔しました』。若い彼女が実名を出して、明るい声でユーモアも交えて話すから、新型コロナウイルスの恐ろしさがズシンと私たちの胸を打つのだと思います」
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