敏腕と詐欺師は紙一重? 営業マンの「営業トーク」が一線を越えるケースは?
営業マンが客に対し、自社の商品やサービスを事実以上に誇張するケースが見られます。法的に問題とはならないのでしょうか。
不動産や保険、証券などを購入するために店舗やモデルルームに行くと、営業マンが親身に応対してくれることが多いと思いますが、彼らの中には、客の購買意欲をかきたてるため、自社のサービスや商品の良さを事実以上に誇張したり、「あなただけに合ったサービスですよ」とおだてたりするケースも見られます。こうした「営業トーク」に満足して契約したものの、実際には自分が想像したものと違っており、「うまい話にのせられた」と後悔した人も多いかもしれません。
客の懐に入るのがうまい“優秀な営業マン”と“詐欺師”は紙一重のようにも感じますが、営業トークが法的に問題となることはあるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の藤本大和弁護士に聞きました。
詐欺や景品表示法違反の可能性
Q.そもそも、営業活動で法的に問題となる行為には、どのようなものがあるのでしょうか。
藤本さん「一般的に問題となるのは、契約するかどうかを判断する上で重要な事実について、虚偽の説明、案内を行うことや、重要な事実を知りながらあえて告知しないことのほか、『100パーセント値上がりしますよ!』などと、不確実な将来の事実について、断定的な情報を提供することなどが挙げられます。
また、2018年の消費者契約法改正によって新たに追加された類型として、一部の高齢者のように加齢や病気で判断能力が低下し、そのことで生活に過度な不安を感じている人に対し、営業マンが不安をあおって契約にこぎつけるケースがあります」
Q.営業マンが自社の商品やサービスの良い部分を事実以上に誇張して客に説明し、契約を獲得した場合、法的に問題となりますか。
藤本さん「過度に良質であるかのような説明をしてしまうと、民法上の詐欺(民法96条1項)に該当したり、景品表示法(5条1号)違反となったりする場合があります。ただ、営業マンが商品やサービスを実際に使用した上で、個人的な感想としてサービスや商品の良さを過度に表現した場合は、必ずしも詐欺と認定されるとは限りません。
例えば、病気の治療効果がなく、単に血行をよくする商品を販売するとします。『この商品を使えば、ものすごく血行がよくなり、さまざまな病気が治ります!』と説明してしまうと、『病気が治る』という具体的なエビデンス(証拠、根拠)がない場合、虚偽の事実を伝えることになり詐欺に該当する可能性が高いです。
一方、セールストークの範囲内に収まるものとしては『この商品を使えば、ものすごく血行がよくなります! 私も使用しているのですが、毎日気分爽快で仕事ができます!』などの表現が考えられます。実際に使ってみて血行がよくなった営業マンの感想を伝えているので、詐欺とならないといえます」
Q.近年、「自分も買っているので大丈夫」と証券マンが顧客にハイリスクな金融商品をすすめ、購入者が大損するケースが続出しているようです。客が損する可能性が高いことを知りながら商品を売り込むのも、詐欺に当たるのでしょうか。
藤本さん「消費者契約法では、リスクのうち、客が当該商品を購入するかどうか判断する際の重要な基礎となる事実について告知しなければなりません。特に、事業者と個人間の取引においては、同法が適用されます。消費者(個人)の不利益になる事項について告知しなかった場合、消費者は消費者契約法(4条2項)により、当該契約を事後的に取り消すことができます。
また、証券マンが当該証券を実際に買っていて、『自分も買っているので大丈夫』という説明をしたとしても、そのことが、消費者のリスクを担保することや消費者が契約をするかどうかを正常に判断するのに寄与することにはつながらず、消費者契約法上の義務を果たしたとはいえません。値下がりや元本割れのリスクがどの程度あるのか、また、そういったケースはどのような要因に基づいて発生するのかということを説明しなければなりません」
客、営業マンが気を付けるべきは?
Q.営業トークと詐欺を分ける基準は。また、「本日限りで○円です」と宣伝しながら、翌日以降も同じ値段で販売する店をよく見かけますが、どうなのでしょうか。
藤本さん「先述のように、事実に対して虚偽を持ち込むかどうかが分かれ目となります。テレビショッピングなどで、『個人の感想であって、製品の効果を保証するものではございません』というような表現がよく見られます。これは虚偽の事実を表示するものではなく、個人の感想という製品への評価を表示しているにすぎないため、よほど過度ではない限り詐欺には該当しないということになります。
『本日限りのセール』などのように、期間限定セールの期間について虚偽の表示をした場合、景品表示法(5条2号)の有利誤認に該当すると判断されたケースが散見されます。期間限定セールに関して虚偽を用いる場合、消費者においては、その期間の料金が特に安価であると誤認してしまうことになるからです」
Q.営業において、客、営業マンがそれぞれ気を付けるべきことはありますか。
藤本さん「客側は、営業マンがちゃんとリスク告知をするかどうかに着目してください。リスク告知の部分において事実を説明しなかったり、話をごまかしたりするようであれば、信用できないと思った方がよいです。特に、金融商品における値下がりリスクや、不動産における景観・周辺の状況などはしっかり確認してください。
次に、営業マンが意識すべきことですが、リスクはちゃんと告知しましょう。また、当然のことですが、うそをつかないこと、営業トークが白熱しすぎて実際の製品の効果や資産価値の上昇に関して、過度な表現をし過ぎないように気を付けるべきです」
Q.営業活動に関する事例、判例はありますか。
藤本さん「多すぎて枚挙にいとまがないですが、眺望を売りにしているマンションを購入することになった人が入居後、部屋から電柱や送電線などが見えたため、契約の取り消しを求めた事例があります(福岡地裁判決2006年2月2日)。契約に至る経緯や当該マンションにおける眺望の重要性などから、販売者が電柱や送電線の状況を知りながら説明をしなかったことは、販売者の説明義務違反であるとして、取り消しが認められました」
(オトナンサー編集部)
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