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国が渡航自粛勧告 さらに上のレベルで、海外旅行は法的に止められる?

外務省が全世界を対象に、海外安全情報・危険情報のレベル2「不要不急の渡航は止めてください」を発しました。家族旅行のような海外渡航は、法的に止められるのでしょうか。

海外渡航を法的に止められる?
海外渡航を法的に止められる?

 新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、感染状況が深刻な欧州へ旅行した若者の感染が次々に報道され、ネット上などで厳しく批判されています。中には、成田空港でのPCR検査後の待機要請を無視して帰宅した事例もありましたが、行政側は待機を強制できず、「お願い」するしかなかったようです。

 外務省は3月25日、全世界を対象に、海外安全情報・危険情報のレベル2「不要不急の渡航は止(や)めてください」(渡航自粛勧告)を発しました。海外安全情報にはさらに上のレベルもありますが、そうした状況になったら、家族旅行や卒業旅行のような海外渡航は法的に止めることができるのでしょうか。

 グラディアトル法律事務所の伊藤翔太弁護士に聞きました。

「安全対策の目安をお知らせ」

Q.海外安全情報(危険情報)の「渡航自粛勧告」「渡航中止勧告」「退避勧告」に法的拘束力はあるのでしょうか。もし法的拘束力がなければ、なぜ出しているのですか。

伊藤さん「海外安全情報(危険情報)は、外務省のホームページによると『渡航・滞在にあたって特に注意が必要と考えられる国・地域に発出される情報で、中・長期的な観点からその国の治安情勢をはじめとした、政治社会情勢等を総合的に判断し、それぞれの国・地域に応じた安全対策の目安をお知らせするもの』です。

安全対策の目安を知らせるためのもので、強制力を持つものではありません。このような情報が出されている趣旨は、国民がその地域の危険度を考慮して、どのような行動をとるべきか判断する材料を提供するためです」

Q.法的拘束力がないのであれば、無視して旅行してもよいということでしょうか。実際に、無視して渡航してトラブルになった例があれば教えてください。

伊藤さん「法的には『無視して旅行してもよい』ということになります。しかし、無視して旅行することで、渡航先でトラブルに巻き込まれるリスクを負うことになります。また、そのような場合に政府がサポートをするべきかという議論もありますので、安易に渡航することはやはり控えるべきでしょう。

実際に、紛争地域に渡航してテロ組織に拘束されたり、殺害されたりした例があります」

Q.海外に行くことは本来、憲法でも保障されていると聞いたことがあります。事実でしょうか。

伊藤さん「憲法22条は『何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転および職業選択の自由を有する』(1項)『何人も、外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない』(2項)と規定しています。海外旅行の自由は22条に明記されてはいませんが、判例・学説上は、外国旅行の自由も憲法上の権利であると考えられています。

判例では、政治家が国際会議に出席するためにソ連(当時)に渡航しようとしたところ、旅券法の規定に基づき旅券が発給されなかった事例において、『憲法22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由を含むものと解すべきである』と判断しました(もっとも、旅券法自体は合憲であると判断されました)。

学説も、海外旅行の自由を憲法22条2項で保障されていると考えるものが多数説となっています。ただし、先述したように危険な目に遭うことがあり得ますので、渡航自粛や渡航中止が勧告されているときに、安易に渡航することは控えるべきでしょう」

Q.以前、シリアに行こうしたジャーナリストが旅券(パスポート)を返納させられた、という報道がありました。どのような法的根拠があったのでしょうか。また、その法律は、新型コロナウイルスの流行を受けた状況に適用される可能性はありますか。

伊藤さん「旅券法19条1項4号が法的な根拠となります。旅券法19条1項は『外務大臣または領事官は、次に掲げる場合において、旅券を返納させる必要があると認めるときは、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる』としています。

そして、同項4号は『外務大臣または領事館』が『旅券の名義人の生命、身体または財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合』を返納命令が可能となるものとして挙げています。

『旅券の名義人の生命の保護』が要件の一つになっていますので、法的には新型コロナウイルスの流行を受けた状況に関しても、適用される可能性はあります。ただし、同号の定める要件上は、外務大臣または領事館が個別の旅券の名義人に対して、渡航を中止させる必要があるか否かを判断することになるので、実際上、同号によって旅券の返納命令が下るという事態は考えにくいとは思います」

Q.渡航自粛勧告には「不要不急」という文言があります。一般的に「不要不急」と、そうではないものの目安を教えてください。

伊藤さん「外務省としては、これは不要不急、これは不要不急ではないという明確な基準は設けていないようです。あくまでも社会通念上、必ずしも行く必要がない渡航が不要不急の渡航にあたるようです。具体的には、旅行やレジャー目的の海外渡航は不要不急にあたります。現地に親族がおり、どうしても会う必要があるような場合は不要不急にあたらないでしょう」

(オトナンサー編集部)

伊藤翔太(いとう・しょうた)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。国学院大学法学部卒業後、学習院大学専門職大学院法務研究科修了。「労働」「ネットトラブル」「詐欺被害・債権回収」「遺言・相続」などを得意分野とする。

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