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小栗旬も織田裕二も “男がほれる男”吉田鋼太郎のラブとリスペクトの輪

ドラマ「おっさんずラブ」の演技も記憶に新しい吉田鋼太郎さん。“男がほれる男”には常に、リスペクトの輪ができています。

吉田鋼太郎さん(2018年10月、時事)
吉田鋼太郎さん(2018年10月、時事)

「男がほれる男」というタイプの役者がいます。吉田鋼太郎さんがその一人です。

 映画化もされたドラマ「おっさんずラブ」シリーズ(テレビ朝日系)では、まさにBL(ボーイズラブ)の世界を演じて、大注目されることに。いえ、そういう「ラブ」ではなく「リスペクト」という形でほれられることが多いのです。

テレビ的でない、濃い個性で圧倒

 例えば、小栗旬さん。元々、舞台中心に活躍してきた吉田さんをドラマや映画の世界に引きずりこんだのは、彼の一言でした。

「小さい声でいいんです。ぼそぼそしゃべるということも、やってみた方がいい」

 常に大声で演技をする舞台と違って、ドラマや映画でしかできない表現もあるのだからと、本格的な挑戦を勧めたといいます。当時20代の若手が、既に50代だったベテランにそんなアドバイスができたのは、2人が実力を認め合う関係、すなわち、ほれ合っていたからでした。

 小栗さんは、吉田さんを「二回りも違う大先輩なのに、同じ目線でけんかさせてくれるすてきな人」だと評しています。

 そんな2人が出会ったのは、今は亡き演出家・蜷川幸雄さんの舞台です。実は蜷川さんと吉田さんも年齢差を超えて「ほれ合う」仲でした。長年、演出家と役者としてタッグを組み、蜷川さんが務めていた「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の芸術監督を2017年から引き継いでもいます。

 吉田さんがドラマや映画にどんどん進出し始めたのは、蜷川さんが病に倒れ、やがて亡くなる時期と重なります。盟友を失ったことも、転機につながったのでしょう。

 ではなぜ、彼はドラマや映画でも大成功できたのか。それはある意味「遅咲きの新人」だったからです。特にドラマの視聴者にとって、彼の出現は新鮮なショックでした。舞台で身に付けた実力とオーラ、そして何より、重厚さとセクシーさを併せ持つ個性は、若手はもとより、同世代の俳優にもなかなか見られません。

 というのも、テレビは軽さや爽やかさが好まれる世界です。それ故、ドラマを若い頃からやっていると、重厚さやセクシーさは薄まる傾向があります。しかし、吉田さんはいきなりやってきて、そのテレビ的ではない濃い個性で圧倒しました。

 そういえば、彼をリスペクトする溝端淳平さんは、その「別格」ぶりを「野球でいえば、イチローみたい」と表現しています。イチロー選手もまた、日本で身に付けた実力とオーラ、そして個性を米国で見せつけ、こんなスタイルの野球があったのかという、新鮮なショックをもたらしました。

 吉田さんも、NHK連続テレビ小説「花子とアン」で“九州の石炭王”こと嘉納伝助を演じた際、こんな魅力の役者がいたのかという驚きで迎えられたものです。

 当時「あさイチ」のMCだった有働由美子さんは、いわゆる“朝ドラ受け”で「嘉納ちゃんと結婚したい」などと、もえまくっていました。世代的にも、吉田さんが醸し出す、いわば昭和の役者っぽいテイストに引かれるところが大だったのでしょう。

 ちなみに、吉田さんは黒柳徹子さんの人生を描いたドラマ「トットてれび」(NHK総合)で、昭和テイストの代表的役者というべき森繁久彌さんを演じました。

 ただ「花子とアン」「トットてれび」のような時代を描いた作品にハマるのは分かります。彼がさらに、平成、令和的な感覚で見ても魅力的な役者なのはやはり、あの「おっさんずラブ」のような作品もこなせるからです。例えば、高倉健さんがこういう役を演じるのは想像できません。そこがかつての「男がほれる男」タイプとは異なる、新しさなのです。

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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