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短いと批判も 新型コロナ巡る首相会見、「時間無制限」にすべきだった?

安倍晋三首相は、新型コロナウイルスに関する記者会見を2回行っていますが、時間が短いとの批判があります。「時間無制限」で行った方がよかったのでしょうか。

2月29日の記者会見後、質問を求める記者がいる中で会場を去る安倍晋三首相(2020年2月、時事、代表撮影)
2月29日の記者会見後、質問を求める記者がいる中で会場を去る安倍晋三首相(2020年2月、時事、代表撮影)

 安倍晋三首相が新型コロナウイルスに関して、2月29日と3月14日に計2回の記者会見を行いましたが、いずれの会見でも質問機会を求める記者が残っているにもかかわらず終了したため、会見の姿勢を批判的に報道するメディアもありました。対照的だったのが、元SMAPの中居正広さんがジャニーズ事務所を退社することを表明した会見です。記者の質問が出なくなるまで続ける「時間無制限」で行われました。

 新型コロナという国民の関心が高いテーマの会見では、時間無制限で行った方がよかったのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

「時間無制限」は現実的でない

Q.中居正広さんの記者会見のように、記者の質問が出なくなるまで「時間無制限」で行うことは珍しいのでしょうか。

山口さん「『時間無制限』の記者会見は珍しいです。ジャニーズ事務所を退所し、個人事務所を設立することが中居正広さんの会見の趣旨でした。ご本人は時間無制限で実施しても問題はなく、また、最後まで付き合ってもらえるメディアも多いと考えたのだと思います。

結果として、中居さんの会見は約2時間にわたり行われましたが、2時間を超える会見は私の知る限り、これまで数えるほどしかありません。

最近の長時間の会見では、2019年7月に行われた吉本興業の岡本昭彦社長の謝罪会見が挙げられます。時間は5時間を超えました。ただし、この会見は時間無制限にしたから長くなったわけではなく、岡本社長の応答の多くがあいまいで、何人もの記者が同じような質問を何度も聞くことになったため、長時間になりました」

Q.新型コロナは現在、国民の関心が非常に高いテーマです。安倍首相の記者会見では、記者の質問が出なくなるまで答える時間無制限で行った方がよかったのでしょうか。

山口さん「多くの仕事を抱える総理大臣にとって、時間無制限の記者会見は現実的ではありません。しかし、もっとたくさんの記者の質問を受けて、私たちの疑問に丁寧に答えてほしかったと私は思いました。

首相の2月29日の新型コロナに関する最初の会見は、約20分の冒頭発言と大手メディア中心の計5人の質疑応答の計36分で、『会見を短時間で打ち切った』との批判が国民の感情として噴出しました。

3月14日の会見は、22分の冒頭発言に加えて31分の質疑応答の時間を取って計12人の質問に答えたと報道されています。批判を受けての配慮があったのだと思いますが、それでも多くの記者は質問のための時間がまだ足りないと感じたようです」

Q.多数の記者が質問のための挙手をしているとき、会見を途中で打ち切るとどのような影響がありますか。

山口さん「悪影響があります。記者は質問の機会が与えられないことで“まともな”記事が書けないと不満に思うでしょう。国民は記者会見の記事やテレビニュースを通して、会見者が自分たちが知りたいことに十分に答えなかったと感じてしまいます。

一般論ですが、不祥事や事故などに関する会見はメディアの取材要求が強く、会見を開きたくなくても行わざるを得ない場合が多いです。なるべく早く会見を終わらせたい、余計なことは言いたくない、問題を広げたくないというのが会見を開く側の本心だと思いますが、その本心は登壇者の表情や態度に不思議なほど明瞭に現れ、“逃げている”などと思われてしまいます」

Q.質疑応答の時間を一定の時間で区切ってしまうことで、記者会見を行う側にはどのようなメリットやデメリットがありますか。

山口さん「メリットと言えるかどうか分かりませんが、答えたくない質問を聞かれる機会を少しでも減らすことができます。また、会見の趣旨とは異なる都合が悪いことを、あれこれと聞かれることを防げます。一方でデメリットとして、実際に短時間で会見を打ち切れば、言いたいことだけを話す『独演会』と批判される可能性があります」

Q.今後も政治家の記者会見に限らず、多数の記者が質問のために挙手をしている途中に会見が打ち切られる場面を見ることがあると思います。視聴者や読者は、どのようなことが背後にあると解釈すればよいでしょうか。

山口さん「短時間での会見の打ち切り、質問に直接答えない応答、抽象的で中身が乏しい応答などの背後には、直面する問題に有効な解決策を持っていないか、あるいは、すねに持つ傷に触られたくないという思いがあるのではないかと、国民に勘繰られても仕方がないと思います。

逆に、できる限り多くの記者の質問に答えるとともに、誠実で分かりやすい説明ができれば、会見者に対する国民の信頼は高まると思います。

数年前から、国民の関心が高い記者会見はネットで中継されたり、動画配信で誰でもいつでも再生して見られるようになったりしてきました。政治家であれ企業であれ、活動についての説明責任を果たして透明性を保つだけでなく、国民の信頼をつなぎ止め、強化するための手段として記者会見の重要性は格段に大きくなっていると思います」

(オトナンサー編集部)

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

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