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イベントで新型コロナ感染、主催者の法的責任は? 自粛要請の有無で違いも?

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は大人数が集まるイベント開催の自粛を要請していますが、もしイベントで感染者が拡大したら、主催者は責任を問われるのでしょうか。

興行の一時休止の看板が出された歌舞伎座(2020年3月、時事)
興行の一時休止の看板が出された歌舞伎座(2020年3月、時事)

 国内で新型コロナウイルスの感染が拡大しているため、政府は大人数が集まるイベント開催の自粛を3月19日ごろまで要請しています。これを受け、全国各地でイベントの自粛が相次いでいますが、もしもイベントが起点となり、感染者が拡大した場合、主催者は法的に何らかの責任を問われるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「安全配慮義務違反」の可能性

Q.イベント主催者はイベント時に発生したトラブルで、法的にどのようなことまで責任があるとされているのでしょうか。

牧野さん「イベント主催者には、参加者の健康や安全に配慮して興行を実施する法的義務である『安全配慮義務』があります。イベント参加者が万が一、新型コロナウイルスに感染・発病した場合、『安全配慮義務違反』(民法709条不法行為責任のうち、過失責任)により、主催者側が損害賠償責任を負う可能性があります。

イベント参加者が損害賠償を請求するためには、『そのイベントで感染させられた』という因果関係を証明する必要がありますが、これまでの感染状況から、会場の換気が悪い、人が密集しているなど感染が拡大する環境があり、なおかつ、参加者や関係者の中に一人でも感染者がいれば、損害賠償の法的責任が発生する可能性があるでしょう」

Q.損害賠償は、治療費や精神的な苦痛などどこまでが対象になるのでしょうか。

牧野さん「因果関係がある程度証明される必要がありますが、かかった治療費と合理的な金額の慰謝料が請求できる可能性があります。ただ、休業損失などの間接損害は因果関係の証明が難しく、損害賠償を求めることはできないでしょう」

Q.政府は大規模イベント開催の「自粛を要請」したわけで「禁止」したわけではありません。もしも、感染リスクを回避する取り組みを全て施して大規模イベントを開催したにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染がイベントを通じて広がった場合でも、主催者は何らかの法的責任を問われるのでしょうか。

牧野さん「あくまで、参加者が因果関係(その会場の参加者等から感染させられた事実)を証明できることが前提ですが、感染の可能性がある以上は、イベント主催者としての参加者に対する安全配慮義務違反の民事責任(損害賠償責任)が問われる可能性があるでしょう。

ただ、多くの専門家から、人が密接に集まる場所での集団感染(クラスター)の危険性と予防策は指摘されているので、現時点で分かっている感染予防策を全て取れば状況は変わります。例えば、

(1)会場の換気をよくする
(2)座席を感染防止できる間隔に離す
(3)入り口で体温を測り、熱のある参加者を入場させない
(4)入り口に消毒液を用意して、マスク着用も義務付ける
(5)医師を常駐させて万が一の場合に隔離する態勢を整える

など、『環境を最善に整えた』上で、『熱やせきのある人、高齢者、感染が心配な人は参加しないでください』などの注意を会場で参加者へ口頭注意し、利用規約へ入れておくといった、現時点で施し得るあらゆる予防策を実施した場合には、過失を認めることが難しくなり、安全配慮義務違反の責任を問われる可能性は低くなるでしょう。

その上で、『新型コロナウイルスに感染しても損害賠償を主催者その他第三者へ求めない』旨を含む約款を参加者へ契約条件として提示したり、同意書を作り参加者にサインしてもらったりすれば、万が一の場合の損害賠償責任を軽減することができるでしょう。

ただし、先述の会場の環境が十分でない場合には、約款やサインだけ対応しても、万が一の場合に参加者の感染の可能性がある以上、(1)主催者に重過失があったとされて、締結された約款や合意書の責任制限が無効とされたり、(2)消費者契約法が規定している『消費者に一方的に不利な免責条項』として無効とされたりする可能性があります」

Q.「自粛要請」の中で開催して集団感染が発生した「過失」と、「禁止」の中で強行開催して発生した「過失」では、重みが異なるのでしょうか。

牧野さん「主催者側の安全配慮義務違反の程度は、政府の『自粛要請』と『開催禁止』とでは重みが異なってきます。後者の場合の注意義務違反の程度は大きくなり、損害賠償金額や範囲にも差が出てくるでしょう」

Q.参加者が数人の小規模イベントや数十人の中規模イベントは、「自粛要請」がされていません。万が一、こうした規模のイベントで感染が拡大した場合、「自粛要請」されている大規模イベントよりも法的責任は軽くなるのでしょうか。

牧野さん「安全配慮義務の注意義務を尽くしたかどうかで過失の有無が判断されますので、基本的には、法的責任はさほど軽くならないでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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