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中国人は、なぜこれほど己の「メンツ」にこだわるのか

「メンツ」を重視するとされる中国人。日本人にもメンツはありますが、そこまで強いこだわりはありません。理由を専門家に聞きました。

日中で「メンツ」の捉え方は違う?
日中で「メンツ」の捉え方は違う?

「中国人はメンツを何よりも重視する」と言われています。日本人にもメンツはありますが、そこまで強いこだわりがあるようには思えません。地理的には近い国でも、メンツの捉え方は大きく異なるようです。なぜ、中国人はメンツを何よりも重視するのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

メンツを失うことは「死ぬこと」

Q.なぜ、中国人はメンツを何よりも重視するのですか。

青樹さん「メンツに対する考え方は、日本人と中国人では大きく異なります。中国人にとってメンツとはアイデンティティーのようなもので、その人にとって“人生で得てきたもの”、つまり、地位や名声、名誉、業績、成果などに関わる、まさに“顔”なのです。

ほとんどの中国人が『メンツを失うことは死ぬことと同じ』と考えており、メンツを気にしない人はいないくらいです。こうした考え方は、数千年にわたって中国人のDNAに塗り込まれているようで、一種の民族性かもしれません」

Q.中国人の「メンツを重視する」とは、具体的にどのようなことですか。

青樹さん「仕事上や私生活上などあらゆる場面で相手のメンツを立てることが、中国人の人間関係の基本です。相手のメンツをつぶさないことが大切ですが、自分のメンツをつぶされることも嫌います。そのような中で、メンツ競争も行われます。

例えば、春節になると多くの中国人がふるさとへ帰省しますが、そのときに顕著になるのがメンツの競い合いです。親は、帰省した自分の子どもがどれだけ良い大学に通っているのか、どれだけ良い企業に勤め親にいくら送金をしているのか、子どもの配偶者はどれだけ立派なのかなど、近所の仲間内で競争するのです。

子どもたちも同じです。春節でふるさとに帰省したとき、地元の出身学校のクラス会が必ず行われ、ここでもメンツ競争です。どこに就職したのか、どんな役職でどんな仕事をしていて給料はいくらなのか、家を買ったか否か、買ったとしたらいくらで購入したのか、配偶者はどのような人でどれくらいの給料をもらっているのかなど、以前のクラスメートと競争するのです。

また、仕事でもメンツを重んじるため、できないことを『できない』と言いたがりません。結局できなくて仕事が滞り、さらにメンツを失うのが分かっていても、最初に『できない』と言えないのです。

飲食店での中国人の注文方法も独特で、テーブルの上に料理を所狭しと並べます。食べられないほどの料理を相手に食べさせて、初めて“ごちそうする”ことになります。そうしないとメンツに関わります。大量の食品ロスを生み出しますが、そのくらいしないとメンツを失うのです」

Q.日本人と中国人では、メンツについてどのような違いがあるのでしょうか。

青樹さん「メンツを失うことへの受け止め方が異なります。日本人は、仮にメンツを失っても一過性で時間が過ぎれば忘れることができますが、中国人は簡単には忘れることができません。メンツを保つか失うかに人生がかかっているからです」

Q.中国人はメンツを保つため、常に周囲に負けまいと競争しているようにも見えます。疲れたりしないのでしょうか。

青樹さん「疲れると思います。現に、メンツを失わないため、つまらないことに意地を張り通すことも多いです。そこで最近は、中国社会の中で『ここまでメンツにこだわることはやめた方がいい』というような議論も出始めています」

Q.日本人が中国人のメンツを理解し、良好なコミュニケーションを取るためのコツはありますか。

青樹さん「ビジネスの場では、中国人を大勢の前で叱ってはいけません。そして、これは私の考えですが、接待ではできるだけお金をかけた方がいいでしょう。お金の余裕がなくても、明日はカップ麺で済ませなきゃならなくなったとしても(笑)、できる限りのことはした方がよいです。

『こんな素晴らしいお店でごちそうしてくれた!』となると、相手は感激し、メンツが立つわけです。中国人は、どれだけ無理をしてくれたかで、自分が相手にとってそのくらいの価値があるのかなどを一瞬で判断します。また、ひたすら褒めてあげることも、良好なコミュニケーションを取るためによいです。

日常生活においては、中国人の友人と食事に行くときは、割り勘は避けた方がいいでしょう。誰かが一括で払い、持ち回りで払うというのが暗黙のルールです。お店でお会計になると、伝票の取り合いをする光景をよく見かけますが、そのようなときに彼らは、『ここは俺が』『いや俺が』と言う後に、どちらかが『俺のメンツを立ててくれよ』などと言っていますね。

また、中国では、女性にお金を払わせることは絶対にありません。そんなことをしたら、男性のメンツが120パーセント失われてしまいます。

中国は地理的な距離は近いですが、日本人とは大きく価値観が異なる部分があります。日中間の交流が活発になっているからこそ、中国人も日本人の価値観を知らないといけませんが、日本人も中国人のメンツの捉え方を理解しておかないと、中国人と初めて深く交流したときにとても驚くのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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