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「ウイルスばらまく」 コロナ陽性なのに感染拡大につながりうる行為、法的問題は?

新型コロナウイルスの検査で「陽性」と判定された人でも、自宅療養するケースが出てきています。彼らが感染拡大につながりかねない行為をした場合、法的責任は問われるのでしょうか。

感染拡大につながりうる行動をしたら…
感染拡大につながりうる行動をしたら…

 新型コロナウイルスの感染が拡大し、PCR検査で「陽性」と判定された人でも、軽症や無症状の場合は自宅療養するケースが出てきています。その場合、感染拡大を防ぐために外出を控えることが大切ですが、3月4日に感染が判明した愛知県蒲郡市の男性が自宅待機を指示された後に、「ウイルスをばらまいてやる」と言って飲食店に行ったとの報道がありました。

 陽性と判明したのに外出したり、集団感染が発生した場所に行った会社員が発熱などの症状があるのに出勤したりしたら、他人に感染させる恐れがあります。感染拡大につながりかねない行動の法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

傷害罪や過失傷害罪の可能性

Q.新型コロナウイルスの検査で「陽性」と判定されて自宅待機を指示されたのに、「ウイルスをばらまいてやる」と言って飲食店に行き、その後、店の従業員や他の客の感染が判明した場合、罪に問われないのでしょうか。

牧野さん「刑事責任と民事責任を負う可能性があります。

刑事責任ですが、意図的に他人へ病気をうつした場合の傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)成立の有無について説明します。傷害罪は『人の身体を傷害した者』に適用され、病毒(インフルエンザなどを含む)を他人に感染させた場合にも成立する(最高裁1952年6月6日判決)とされており、成立する可能性があります。

『ウイルスをばらまいてやる』と言ったことが事実と認定されれば、『意図的に他人へ病気をうつした』として『故意』と認められるでしょう。立ち寄ったお店に対しては、営業停止になることを予見していたと思われますので、威力を用いて営業を妨害したとして、威力業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

一方で民事責任ですが、故意または過失と、他人の感染との因果関係が証明されれば、不法行為による損害賠償を請求される可能性があります。

ただし、刑事、民事いずれの場合も、従業員や他の客の感染について、『感染者がその日時にその場所にいて、他人ではなく確実にその人が感染させた』という因果関係の証明が必要で、これだけまん延状態になっていて他者からの感染も考えられる場合、因果関係の証明が難しいかもしれません」

Q.新型コロナウイルスの集団感染が発生したライブハウスやジムに行ったことがあり、発熱などの症状が出ているのに訪問歴を隠して出勤し、同僚が感染、その前後に自分の感染が分かった場合、法的責任を問われる可能性はありますか。

牧野さん「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)固有の症状が既に出ており、自分が感染しているかもしれないのに検査をせず放置した場合は『過失』とされて、次に挙げる刑事責任と民事責任を負う可能性があります。

刑事責任は先述のように、意図的に他人へ病気をうつした場合は傷害罪成立の可能性があり、『意図的でない』と認められても、過失(固有の症状が出て感染しているかもしれないのに検査せず放置した場合)によって人を傷害したとして、過失傷害罪(刑法209条1項、30万円以下の罰金または科料)となり得ます。

一方で民事責任ですが、故意または過失と、他人の感染との因果関係が証明されれば、不法行為による損害賠償を請求される可能性があります。

事例のように、集団感染が発生したライブハウスやジムに行ったことがあり、固有の症状もあるのにそれを隠して会社に出勤し、同僚に感染させた場合、『過失』とされて、刑事責任と民事責任を負う可能性があるでしょう。ただし、陽性と判明していた事例の場合と同様、他人の感染について因果関係の証明が難しいかもしれません」

Q.ライブハウスやジムに行ったことを隠して出勤し、その後、職場の多くの人が感染して休み、業務に支障が出た場合、損害賠償など法的責任を問われる可能性はありますか。

牧野さん「同僚への感染の場合と同様、刑事、民事双方で責任を問われる可能性がありますが、因果関係と会社に発生した具体的な損害の証明が難しいかもしれません」

Q.「陽性と判定された」「集団感染があった場所に行っていた」と職場に連絡したのに、出勤を強要された場合の法的問題は。

牧野さん「陽性と判明していて、感染症法(感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく『就業制限』が出されていた場合、同法違反となるでしょう。

また、労働者を使用する事業者は、労働安全衛生法68条(病者の就業禁止)や労働安全衛生規則61条で病者の就業禁止が規定されており、労働安全衛生法68条違反について、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

加えて、労働者を使用する事業者は、安全配慮義務(労働契約法5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」)があるので、感染させられて損害を被った他の従業員に対して、民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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