池袋暴走・飯塚元院長起訴 なぜ「危険運転」適用されず? 署名の影響は?
東京・池袋で車に母子がはねられて死亡した事故で、車を運転していた男性が在宅起訴されました。罪名は「過失運転致死傷罪」で、危険運転致死傷罪の適用は見送られました。
東京・池袋で2019年4月、暴走した車に母子がはねられて死亡した事故で、東京地検が自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で、東京都板橋区、旧通産省工業技術院元院長、飯塚幸三被告(88)を在宅起訴したことが報道されました。
報道によると、飯塚被告は豊島区東池袋の都道で、ブレーキと間違えてアクセルを踏み続け、時速約96キロまで加速し、赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道を渡っていた近くの松永真菜(まな)さん(当時31)と長女莉子(りこ)ちゃん(当時3)をはねて死亡させたほか、通行人ら9人に重軽傷を負わせたとされます。車の機能に異常はなく、ブレーキを踏んだ形跡はなかったとみられています。
警視庁は昨年11月、起訴を求める厳重処分の意見を付けて書類送検し、真菜さんの夫は厳罰を求める署名約39万筆を地検に提出しましたが、罰則の重い危険運転致死傷罪の適用は見送られました。「暴走は故意ではなかった」というのが見送りの理由のようです。
適用される罪名による刑罰の違いなどについて、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
「危険運転」なら最長20年、「過失運転」は7年
Q.過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の違いを教えてください。
牧野さん「人身事故の刑事責任は『自動車運転処罰法』に規定があり、同法5条の『過失運転致死傷罪』(自動車の運転上必要な注意を怠り人を死傷させる行為、7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金)に当たる可能性があります。
それに対して、飲酒・薬物の影響によって正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた人身事故の場合や、赤信号をことさらに無視して猛スピードの運転をして起こした人身事故などの場合、同法2条・3条の『危険運転致死傷罪』(人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役)が適用されることもあります」
Q.今回、危険運転致死傷の適用が見送られたのは、なぜだと思われますか。
牧野さん「飲酒・薬物の影響がない状態での事故であり、さらに、赤信号の無視が故意ではなく過失だったと判断されたと思われます」
Q.犠牲者の夫が署名を集めて提出していますが、この署名は起訴段階の適用罪名には影響しなかったのでしょうか。
牧野さん「一つの判断の要素になったのではないかと思います。ただ、起訴段階の適用罪名を決めることは検察官の専権事項です」
Q.署名は、裁判での量刑への影響はあり得るでしょうか。
牧野さん「裁判員裁判による裁判の場合、市民の判断が量刑などの判断に重要な影響を与えると思われますので、署名が影響することは十分考えられます。
ただ、裁判員裁判の対象事件は一定の重大な犯罪であり、殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪などがありますが、今回の起訴罪名である過失運転致死傷罪は対象ではありません。
過失運転致死傷罪は、裁判官のみによる裁判となります。この場合、裁判官の自由心証主義によって、署名は判断の一つの要素に限定されます。多少影響することは考えられますが、裁判員裁判に比べれば影響は小さいでしょう」
Q.犠牲者の夫は、被害者参加制度を利用して公判で被告人質問を行う意向です。そのやりとりや夫の公判での発言が、量刑に影響を及ぼす可能性はあるでしょうか。
牧野さん「量刑に影響を及ぼす可能性はありますが、署名と同じく、裁判員裁判よりは影響は小さいと思われます」
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