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新成人女性が「振り袖」で成人式に出席する意味

全国各地で行われる成人式には、式典に参加する女性があでやかな「振り袖」を着て参加します。なぜ女性は、成人式で振り袖を着用するのでしょうか。

成人式で振り袖を着る理由は?(2019年1月、時事通信フォト)
成人式で振り袖を着る理由は?(2019年1月、時事通信フォト)

 1月13日は「成人の日」です。この日を中心に全国各地で成人式が行われますが、式典に参加する女性は、あでやかな「振り袖」を着て参加することがほとんどです。しかし、早朝から髪を結ったり着付けをしたりして、時間をかけて準備をしなければならないことを考えると、女性も男性のようにスーツを着る方が楽なようにも思えます。

 なぜ女性は、成人式で振り袖を着ることが当たり前になったのでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

人との縁や魂を呼び寄せる着物

Q.なぜ、成人式に参加する女性は振り袖を着ることが慣習になったのですか。

齊木さん「成人式で振り袖を着るのは、江戸時代前期、18歳になると大人になった証しとして、袖の袂(たもと)を切って振りを縫い、そこから袖丈いっぱいの振り袖にする風習があったことに由来します。また、昔は長い袖を振ることで神を呼び寄せる『魂振り(たまふり)』を行い、神の魂を奮い立たせる意味がありました。しかし、いつしか神だけではなく、意中の人と心を通わせるために袖を振るようになっていったのです。

そのため、振り袖は、人との縁や魂を呼び寄せる清らかな着物として成人式で着られるようになりました。さらに、ゆらゆらと揺れる長い袖は厄を払うともいわれています。数えで19歳の女性は本厄に当たり、人生の門出である式に出席する際、身を清めるという意味も込めて成人式で振り袖が着られます。

また、振り袖は未婚女性の第一礼装でした。成人式は冠婚葬祭の『冠』にあたる儀式で、最も格式の高い場です。そのため、未婚女性にとって最も格式高い振り袖を着用して臨むことで、大人になったことを自覚するとともに、華やかで格調高い装いで、親に成長の報告と感謝の気持ちを伝える意味もありました。一生に一度の成人式を大切な節目と思う気持ちが、振り袖を着る習慣となって広がっていったのでしょう」

Q.晴れがましい日には振り袖を着たいという「女性の憧れ」も大きな要因なのでしょうか。

齊木さん「江戸時代前期、若い女性が着る正装の和服の袖丈が次第に長くなりました。理由の一つに、舞踊をする際に舞台の上でより美しく見せるためという説があります。現在は、最も長い袖の振り袖を『大振袖』といい、袖丈が110センチ以上あります。

こうした、着物の中でも最も華やかで美しい振り袖が未婚女性の正装として定着したことから、成人式という人生の門出に日本の民族衣装を美しく着飾りたいという、女性の憧れも大きな要因といえるでしょう」

Q.一方で男性は、和服を着る人は少数です。男性が和服をあまり着ないのは、なぜでしょうか。

齊木さん「男性が女性に比べて和服を着る人が少ないのは、日本人男性の洋装スタイルの普及に由来します。1871(明治4)年、男性に対して断髪令が出されるなど、文明開化という言葉とともに、男性の正式な場で着る装いが和装から洋装へと移行していきました。当時、男性は社会をけん引する存在とされていたため、西洋列強の文化を取り入れることで、西洋と同じ文明水準を持つことを示すためでした。

一方で、女性の洋装化は男性よりも遅れ、和服を着る人が多くいました。そのため、現代でも、人生の門出において男性の衣服に洋装であるスーツが用いられ、女性は和服を着る名残があるのです」

Q.普段は着慣れていない振り袖を、女性は成人式に出席するときに着ます。成人式会場まで移動する際、本人や家族が注意することは何ですか。

齊木さん「振り袖を着て移動するときには、歩く歩幅を一足半に小さくし、つま先から足をついて一直線上を歩くと、裾が乱れることもなく品よく歩くことができます。家族など同行する人も、歩くスピードを合わせるとよいでしょう。荷物はなるべく片手で持ち、とっさのときに使えるように片手を空けておくと安心です。荷物が大きい場合は、ご家族に持ってもらいましょう。

座るときは、左右の二枚の袖を重ねて体の前に持ち、手で軽く押さえながら座ります。このときに深く座ったり、椅子の背もたれに寄りかかったりすると、帯が崩れる原因になるので浅く座りましょう。袖は膝の上で重ね、床につかないように上に手を添えておくときれいに見えます。車などの移動で乗車するときは片手で袖を押さえ、体から入ります。出るときも同様です」

Q.振り袖を着て食事をするときに、気を付けるべきことは何ですか。

齊木さん「食べ物による汚れを防ぐために、テーブルナプキンを襟元に挟んだり、膝に敷いたりすると安心です。最近は『ナプキンクリップ』という、首にかけてナプキンを挟むものもありますので、胸元から帯に掛けて汚れを防ぐことができます。また、食事を取り分けるときやスマホなどで撮影するときは、袖が汚れないよう、必ず反対の手で袖元を抑えましょう。

グラスを持って乾杯をするときは脇を締めて、反対の手で袖口の袂をそっと抑えましょう。袖口が開いて肘や腕が見えてしまうと、上品さも欠けてしまうので気を付けてください。所作が品格となり、振り袖を着た本人の魅力が一層引き立ちます。一生に一度のハレの日を思い出深い一日にしてみてはいかがでしょうか」

(オトナンサー編集部)

齊木由香(さいき・ゆか)

日本礼法教授、和文化研究家、着付師

旧酒蔵家出身で、幼少期から「新年のあいさつ」などの年間行事で和装を着用し、着物に親しむ。大妻女子大学で着物を生地から製作するなど、日本文化における衣食住について研究。2002年に芸能プロダクションによる約4000人のオーディションを勝ち抜き、テレビドラマやCM、映画などに多数出演。ドラマで和装を着用した経験を生かし“魅せる着物”を提案する。保有資格は「民族衣装文化普及協会認定着物着付師範」「日本礼法教授」「食生活アドバイザー」「秘書検定1級」「英語検定2級」など。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yukasaiki)。

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