オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

「手錠きつい」に応じたら被告逃走…対応適切だった? 手錠外さなければ法的問題も?

大阪で護送中の被告が逃走した事件。被告の訴えで検察事務官が左手の手錠を外した後、逃走されたとのことですが、もし要求を聞き入れなかったら法的に問題があったのでしょうか。

「手錠がきつい」に応じなかったら?
「手錠がきつい」に応じなかったら?

 大阪府東大阪市で11月9日、覚せい剤取締法違反の罪などで公判中の男性被告が護送中の車から逃走した、との報道がありました。被告が「手錠がきつい」と言ったため、大阪地検の検察事務官が左手の手錠を外したところ暴れ出し、逃走したそうです。2日後に被告の身柄は確保されましたが、ネット上では「なぜ外した」との声が上がっています。

 こうしたケースで、「手錠がきつい」と言われて検察事務官が応じなかった場合、法的問題が生じたのでしょうか。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

権利を過度に制限すれば問題

Q.容疑者(被疑者)や被告(被告人)を護送中、「手錠がきつい」「トイレに行きたい」などと言われても一切対応しなかった場合、法律上あるいは人権上、問題になるのでしょうか。

井上さん「ケース・バイ・ケースとなりますが、被疑者や被告人の権利・利益を過度に制約するような場合は法令上、問題となるでしょう。『犯罪を行ったと疑われている以上、一切の自由が制限されて当然』と思う人もいると思いますが、あくまで、逃走・証拠隠滅の防止、裁判への出廷の確保などといった観点から一定の制約を受けているに過ぎず、憲法上の権利・利益は保障されています。

このような人権尊重の考え方は、留置や収容などに関係する法令にも反映され、人権を尊重しつつ、その状況に応じた適切な処遇を行うものとされており、これは護送中についても同じです。

たとえば、手の血流が止まるほど手錠をきつくはめているような場合で『手錠がきつい』と言われたにもかかわらず、それに一切対応しないような場合や、何度も『トイレに行きたい』と言っているにもかかわらず、それに一切対応しないような場合、権利・利益を過度に制約するものとして違法となるでしょう」

Q.では、常に要求を受け入れるのが原則なのでしょうか。

井上さん「常に要求を聞き入れなければならないということはありません。留置・収容の目的と被疑者や被告人の権利・利益とを調整するという観点から、現場でどのような対応をするかについては、担当する者に一定の裁量が認められています。具体的にどのような対応を取るのかは、時々の状況に応じたものになると思われます」

Q.容疑者や被告への対応で、担当者が罪や責任を問われてしまうケースはあるのでしょうか。

井上さん「担当者が被疑者や被告人を殴るなどした場合、特別公務員暴行罪や同致傷罪などの罪に問われる可能性があります。また、殴らないまでも、法令や内規に違反する行為をした場合は、懲戒処分などの責任を問われる可能性があります。

ただし、被疑者や被告人が暴れるなどした場合、担当者(検察事務官など)が相手を殴ったり強い力で押さえ付けたりしても、職務上必要かつ相当な範囲の実力行使と認められれば、正当業務行為として罪に問われない場合もあります」

Q.護送中や取り調べ中などに容疑者や被告を逃がしてしまった場合、担当者はどういった処分を受けることが多いのでしょうか。

井上さん「はっきりとしたことは分かりませんが、たとえば面会室から逃走した事例では、懲戒処分として減給処分や戒告処分、内規に基づく注意等の処分がなされた事例があるようです」

Q.今回の大阪地検の対応は適切だったのでしょうか。

井上さん「逃走防止のために厳しい対応をした方がよい、との意見も多いかと思います。ただ、あくまで憲法上の権利・利益は保障されていますので、そのような権利・利益を尊重しつつ、職務の執行にあたるのが大原則となります。そのため、厳しい対応をすればいいとは一概には言えないところがあります。

内規にどのように規定されているか、また、当時の状況としてどのようなことがあるのかについて詳細が分からないため、大阪地検の対応が適切だったのか不適切だったのかについては判断できかねます。ただ、同種の逃走事件が複数発生していることからも、内規や当時の状況等を慎重に検証した上で、再発の防止策を講じていくことが急務だと感じます」

Q.護送中の容疑者や被告への対応で問題となった事例、判例はありますか。

井上さん「護送中ではありませんが、覚せい剤取締法違反容疑についての捜査時の対応が問題となった事例があります。警察官が男性に職務質問をし、所持品検査を求めたところ、男性がトイレに行きたいと何度も警察官に伝えましたが行かせてもらえず、公衆の目につく場所で排便をしたにもかかわらず、さらに所持品検査を続け、男性がなおもトイレに行きたい旨を伝えても、行かせなかったというケースがありました。

男性が起訴された後の公判で、裁判所が状況の切迫性を認め、『人間としての尊厳をも損なうことになりかねないものとなる』として、警察官の対応が違法であると判断し、覚せい剤取締法違反について男性が無罪となった裁判例があります」

(オトナンサー編集部)

井上圭章(いのうえ・よしあき)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。

コメント