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台風19号で会社から「任意出勤」連絡…けがをしても会社側は責任を問われない?

台風19号が近づいた際、ネット上に「12日は任意出勤という連絡が会社から来た」などの投稿が相次ぎました。「任意」と言えば、会社は免責されるのでしょうか。

台風19号で大きな被害が出た川崎市(2019年10月、時事)
台風19号で大きな被害が出た川崎市(2019年10月、時事)

 日本列島に大きな被害をもたらした台風19号が近づいていた10月11日から12日にかけて、ネット上に「12日は任意出勤という連絡が会社から来た」「出勤は自己判断でと言われている」といった投稿が相次ぎました。強制出勤させて事故が起きたら会社の責任を問われる可能性が高いため、従業員が自己判断で出勤した、ということにした会社があったようです。

「出勤は任意」とすれば、会社は免責されるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

安全配慮義務違反の可能性も

Q.台風による被害が予想される日に、会社が出勤を強制することの法的問題を教えてください。

井上さん「会社は従業員に対して業務に関する命令ができ、出勤命令もこれに含まれると考えられます。そのため一般に、会社は従業員に対して出勤を命令することができます。ただ、当然ですが、強制的に会社に連れてきて働かせるようなことはできません。

他方で、会社は従業員に対して、安全に配慮する義務も負っています。これを『安全配慮義務』といいます。判例は安全配慮義務について、会社が職場や従業員などの管理を十分に行う義務のことと考えているようです。

今回の台風19号のように、大型の台風で、直撃すると大きな被害が出ることが予想され、また、公共交通機関が運休、計画運休を発表している状況で出勤命令を出すことは、職場の安全や従業員の管理が十分にできないことが考えられ、安全配慮義務違反にあたる可能性が高いといえそうです。

また、そうした状況では、出勤中の従業員の安全も確保できないことが考えられ、会社が出勤を強制することは、安全配慮義務違反や不法行為責任に問われることがあります。つまり、一般的に、会社は従業員に出勤を命令できますが、従業員の安全が確保できないような場合に出勤命令をすると、法的に責任を問われる可能性があります」

Q.会社側が「出勤は任意」「自己判断で」と従業員に連絡した場合、通勤中や業務中に災害に巻き込まれても、会社側の責任は問われないのでしょうか。

井上さん「『出勤は任意』『自己判断で』という言葉の意味にもよります。これらが言葉の意味通り、従業員の判断に全て任せるということであれば、出勤するかしないかは従業員の判断に任せられていることから、基本的に会社が法的な責任を問われることはないとも考えられます。

しかし、従業員が出勤して働くことについて、会社として従業員の安全を確保できないことが明らかであるような場合、会社として従業員の安全に配慮し、出勤しないよう指示を出すべきだと考えられます。場合によっては、会社が安全配慮義務を怠ったものと評価され、安全配慮義務違反と判断されて責任を問われる可能性があります」

Q.会社からの連絡に「出勤は任意だが、私(社長や上司)は出勤する」「出勤しなくてもいいが、査定には影響する」といった強制性をにおわせる文言があった場合はどうでしょうか。

井上さん「このような場合、言葉だけでなく、当事者同士の関係性なども含めて判断していくことになります。『社長、上司』『査定』といった言葉が入っていた場合、弱い立場に立つ従業員としては、たとえ任意と言われても出勤しないという選択肢はなく、出勤命令と考えられるでしょう。そのため、このような場合、会社は安全配慮義務違反などの法的責任を問われる可能性があります。

また、『社長、上司』といった優越する関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて身体的・精神的な苦痛を与えた場合、パワーハラスメントにあたり、法的責任を問われる可能性もあります。この場合の強制性をにおわせる文言はその可能性があります」

Q.社長が「出勤は各部署責任者の判断で」と言って、部長や課長に判断を任せた場合、事故があった際の責任は部長や課長が問われるのでしょうか。それとも社長に責任があるのでしょうか。

井上さん「安全配慮義務違反が問題となるケースですと、『使用者』がその責任を負うこととなります。『使用者』というと、社長をすぐ思い浮かべますが、労働基準法は『この法律で使用者とは、事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう』と規定しており、社長だけでなく部長や課長が含まれることもあります。

そのため、社長だけでなく、部長や課長も責任を問われることがあります。なお、『各部署責任者の判断で』と言ったとしても、社長は使用者としての責任を負います」

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井上圭章(いのうえ・よしあき)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。労働問題に関する相談(https://labor.gladiator.jp/)。

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