関電・金品受領 故人である元助役との会話や「どう喝」、裁判でどう評価される?
罪に問われている人が「既に亡くなった人に主な責任がある」と主張した場合、裁判では認められるのでしょうか。弁護士に聞きました。

関西電力幹部が福井県高浜町の元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題で、関電幹部は受領を認めながらも「返そうとしたら『無礼者』と言われ、返却を諦めた」「『わしが原子力に反対したらどうなるのか分からんのか』と言われていた」などと、故人の元助役に主な責任があるかのような発言をしています。発言が正しければ、確かに元助役の責任が大きいように思えますが、現状はいわば「死人に口なし」状態です。
記者会見や関電が作成した報告書では、関電側が一方的に発言していますが、法廷では「死者に主な責任がある」という趣旨の証言は有効なのでしょうか。グラディアトル法律事務所の森山珍弘弁護士に聞きました。
「信用性がない」と判断される可能性
Q.関西電力の問題が刑事事件になるとしたら、どのような罪が考えられるでしょうか。
森山さん「本件が刑事事件になる場合、状況によっては、関西電力幹部に会社法の収賄罪(会社法967条1項、5年以下の懲役または500万円以下の罰金)や特別背任罪(会社法960条、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科)が成立する可能性が考えられます。
会社法の収賄罪は株式会社の取締役らを対象に、職務に関し、『不正の請託』を受けて財産上の利益を収受したり、要求したりした場合に成立します。『不正の請託』とは、簡単にいうと『不正な行為を依頼すること』です。つまり、取締役らが具体的な工事をめぐって不正な要求を受けた上で、金品を受け取っていた場合には、処罰の対象になり得るということです。
関西電力が出した報告書によると、『関西電力側が元助役に、工事に関する情報を提供していた』旨の記述があります。特定の企業が受注しやすいように情報を提供したり、発注を優先したりしていたことが証明できれば、『不正の請託』が認定され、会社法の収賄罪が成立する可能性があります。また、関西電力の役員らが利益を得て、会社に対して損害を与えたとなれば、特別背任罪も考えられます」
Q.株主代表訴訟の動きもあります。どのような法的責任が考えられるでしょうか。
森山さん「大阪市の松井一郎市長が株主代表訴訟の準備を進めることを明らかにしていますが、株主代表訴訟で請求できるのは、あくまで会社に与えた損害を賠償することです。今回、関西電力の役員らが利益を得て会社に損害を与えたのであれば、会社に対する損害賠償責任(会社法423条)を追及される可能性があります」
Q.関西電力幹部は「金品を返そうとしたが受け取ってくれなかったので個人で保管した」旨の発言をしています。一般論として、亡くなった人とのやり取りについての証言は、裁判の場ではどのように評価されるのでしょうか。
森山さん「関西電力の役員らが上記発言を法廷で証言した場合、その供述は証拠として採用され得ると思います。ただし、故人とのやり取りは裏付けをすることが困難であるため、信用性がない、つまり『証拠力が低い』と判断される可能性が高いと思われます」
Q.亡くなった人からの「圧力」「どう喝」が収賄や特別背任といった犯罪の動機だと主張した場合、裁判で認められる可能性はあるのでしょうか。認められた場合、それによって無罪となったり、情状酌量されたりすることはあり得るのでしょうか。
森山さん「もし、犯罪の動機に『圧力』や『どう喝』があると認定された場合、動機に酌むべき事情があるとして減刑の一事情になり得る可能性はあります。ただ、そのためには、圧力やどう喝があったと裁判所に認定させないといけませんが、加害者は既に亡くなっているということで話を聞くことができず、認定させるにはハードルが高いかと思われます」
Q.亡くなった人に主な責任があるという主張は、裁判官にどのような心証を与えると思われますか。
森山さん「圧力やどう喝があったと認められた場合、動機に酌むべき事情があるという心証を与えるかと思いますが、そうでない場合は、『反省がない』という心証を与えることが考えられます」
Q.亡くなった人の生前の行為に刑事責任があったとしても、容疑者死亡のまま送検されて不起訴となるなど実質的に責任を問われないと思いますが、民事上の責任はどうなるのでしょうか。
森山さん「今回、元助役が関西電力の役員らに金品を渡した行為は、会社法の贈賄罪(会社法967条2項)が成立する可能性がありますが、既に亡くなっている場合、被疑者(容疑者)死亡のまま送検され不起訴処分となります。
一方、民事上の責任については一般的に、損害賠償責任等の民事上の責任・債務は相続の対象となります。しかし、本件で関西電力の役員らに渡した金品が元助役の自己財産から出たものであるのならば、特に民事上の責任は問われないと考えます」
(オトナンサー編集部)
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