オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

高齢の飼い主に取り残されるペットたち…作家・藤谷治さん、近所の老猫を引き取る決断

高齢者のペットを引き取るには?

Q.高齢者のペットを引き取る際の課題は。

小林さん「例えば、救急隊員が高齢者を自宅から搬送する際、犬や猫がいても保護はできません。結局、担当していたケアマネジャーが苦労することになります。その際、獣医師会や動物病院の先生、地域のボランティアの人たちとのネットワークがあれば、セーフティーネットとして機能すると思います。

時代とともに近所付き合いも希薄になっているので、今後はこうしたセーフティーネットの構築が求められていくと思います」

Q.孤立した高齢者が増えているともいわれます。

藤谷さん「冷たいかもしれませんが、人間が孤立するのは個人の自由だと思います。ただ、人間の孤立のために命の危険にさらされる、もしくは巻き添えになる動物がいるとしたら、私個人の意見としては問題だと思います。皮肉なことに、孤立している人間ほど、ペットを求める傾向にあるようです。ペットが癒やしや慰めになっているのでしょう」

Q.いったんは、老夫婦の猫の引き取り手を探したそうですね。

藤谷さん「猫は縄張り意識の強い生き物です。私は自宅ですでに4匹の猫を飼っていましたから、しばらくは引き取り手を探しました。インターネットで検索しましたが、老夫婦の猫は片目が悪い上に13歳という高齢だったこともあり、なかなか引き取り手が見つかりませんでした。

わらにもすがるような思いで、里親を仲介するサイトの人たちに問い合わせましたが、『厳正な審査があります』と言われ、うまくいきませんでした。結局、自宅で引き取ることに決めましたが相当悩みました」

Q.高齢者に飼われていたペットが行き場を失わないために必要なことは。

小林さん「やはり、ペットを社会と結びつけることだと考えています。もし、引き取ったペットが動物病院に通院しているようであれば、まずは獣医師に診察してもらい、助けを求めることです」

藤谷さん「『飼っている人がいなくなったから、保健所に連れていくしかない』という生命観は持ってほしくはありません。人間としか付き合わない人は弱いです。猫を飼っていると予想外の出来事に出くわすことが多く、いろいろ鍛えられます」

Q.藤谷さんにとって、猫はどのような存在ですか。

藤谷さん「ただ、『かわいいですよ』ときれいごとは言えません。下痢になって後始末が大変なこともあります。でも、僕の猫たちの世話をできる人は世界中どこを探してもいませんから、猫たちが生きている間は元気でいようと思います」

(オトナンサー編集部)

1 2

小林元郎(こばやし・もとお)

獣医師

米ニューヨーク州マンハッタンのAnimal Medical Centerにて研修(1990~1991年)。1993年、成城こばやし動物病院を開業。公益社団法人東京都獣医師会副会長、先制動物医療研究会副会長、東京城南地域獣医療推進協会(TRVA)理事、アジア小動物獣医学会所属。

藤谷治(ふじたに・おさむ)

作家

1963年東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒。2003年「アンダンテ・モッツァレラ・チーズ」でデビュー。2008年「いつか棺桶はやってくる」が三島由紀夫賞候補、2010年「船に乗れ!」(三部作)が本屋大賞7位に。2014年「世界でいちばん美しい」で織田作之助賞を受賞。著書はほかに「燃えよ、あんず」「きなりの二人」「マリッジ:インポッシブル」「下北沢」など。

コメント